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第57話 進展

 シーレインのギルドマスター、ミオが自信満々に持ち出してきた『未確認情報の束』。

 そこから始まったセラの聖剣探しの旅は、控えめに言って「徒労」の連続だった。

「セラ様! 今日の剣筋も最高に美しゅうございました! あの巨大なシザースクラブを一刀両断になさった際、潮風になびく黒髪の軌道すら芸術的で……はぁぁ、尊い……ッ!」

「ミオさん、近いです。あと、声が大きいですから」

 シーレイン近郊の海岸沿い。行く手を阻んだ甲殻類の魔物を切り伏せ、セバスから借りた長剣を鞘に納めたセラに対し、ミオが顔を真っ赤にして鼻息を荒くしながら迫っていた。

 艶やかな黒髪のロングヘアーを潮風に揺らすその姿は、黙っていれば威厳と気品に溢れるクールな美女なのだが、今の彼女は完全に『セラ推しの限界オタク』と化している。

 ユリたちが王国へ戻ってから数日。セラは一人でシーレインに滞在し、聖剣の情報を集めていた。しかし、元Sランクパーティー【正義の剣】の熱狂的ファンであるミオが、「セラ様を一人で危険な目に遭わせるわけにはいきませんわ!」と、ギルドの仕事を副マスターに丸投げしてまで同行を申し出てきたのだ。

「それにしても……海岸沿いの洞窟で光っていたのはヒカリゴケまみれの古い船のいかりでしたし、断崖絶壁で鳴り響く剣の音は、ただの風穴を吹き抜ける風の音でしたね。……やっぱり、未確認情報はハズレばっかりだ」

 セラが潮風に吹かれながら苦笑交じりにため息をつくと、ミオは「ひっ」と悲鳴のような声を上げ、砂浜に崩れ落ちた。

「も、申し訳ありません、セラ様! 私めが不甲斐ない情報の精査を怠ったばかりに、セラ様の尊いお時間を無駄に……っ! いっそこの首をはねて、その美しい剣の錆にしてくださいませ!」

「いや、怒ってるわけじゃないんです! じっとしているよりマシですから。それに、ミオさんが一緒に来てくれるのは本当に心強いですよ。その……色々と賑やかですし」

「セ、セラ様ぁぁぁっ! なんて慈悲深い……! 私、地獄の果てまで一生ついていきますわ!」

 感極まって砂浜で拝み倒してくるミオにドン引きしつつも、セラは少しだけ心が軽くなっていた。

 クリスとの死闘で抱えた心の傷や、ユリたちが王国へ戻ってしまった寂しさ。一人になれば、どうしてもあの燃え盛る村の光景や、親友の憎悪に満ちた瞳を思い出して暗い感情に沈みそうになる。

 だが、この騒がしすぎるギルドマスターが全力で暴走してくれるおかげで、セラは不思議と孤独を感じずに救われていたのだ。

「さて、気を取り直して次の情報ですわ! 『シーレインから小舟ですぐの南の無人島。その入り江の奥にある古い祠に、神々しい剣が祀られている』……これこそ、本命の聖剣に違いありません!」

 ミオが息を吹き返し、新たな羊皮紙の束をバサッと広げてみせる。

「本当ですかね……。まぁ、行ってみましょうか」

 半信半疑のセラと共に、二人は小さなボートを借りて、南に浮かぶ小さな岩礁の島へと向かった。  

 波の音だけが響く無人島に上陸し、ごつごつとした岩場を抜けていく。

 やがて、潮風が吹き抜ける薄暗い入り江の奥に、自然の岩を削って作られたような古い石造りの祠を発見した。

 確かに、そこには祭壇のような平らな岩があり、一本の『剣』らしきものが鈍く神々しい光を放ちながら祀られているように見えた。

「……セラ様、やりましたわ! 情報を信じた甲斐がありました! あれこそ間違いなく聖剣!」

 ミオが興奮気味に指を差すが、セラはジト目でその「剣」をじっと見つめ、ゆっくりと首を横に振った。

「……ミオさん。あれ、ただのサンゴの欠片ですよ。潮の満ち引きで偶然あの岩の上に引っかかって、剣みたいな形に見えてるだけです。光ってるのも、発光性のプランクトンが付着してるだけですし……」

「な、なんと……」

 ミオの期待に満ちた声が、シュンと萎んだ。

 見事にキラキラと光っているだけの、巨大なサンゴ。

 またしても完全なハズレ。セラは肩を落とし、深くため息をついた。

「はぁ……。やっぱり、こんな簡単には見つからないか」

「ああっ、セラ様の尊い落胆の表情! 少し伏し目がちなそのお姿も、庇護欲が掻き立てられますわ……! 素晴らしい……!」

「ミオさん、今それ言ってる場合じゃないですよ。帰りましょうか」

 呆れ果てて、セラが祠の出口へと踵を返そうとした、その時だった。

「……ん? セラ様、お待ちください。あの祭壇の奥の壁……何か、文字のようなものが刻まれていませんか?」

 オタクの顔から一変、ギルドマスターとしての鋭い目つきに戻ったミオが、サンゴの後ろにある石壁を覆っていた海藻をナイフで払い落とした。

 そこに現れたのは、自然の侵食ではない、人為的に彫られた明確な意図を持つ線。

 びっしりと古代文字が刻まれた、本物の『古代の壁画』だったのだ。

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