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第12話 手紙

 ――それから、いくつかの季節が巡るまでの間。

 かつて同じ夢を追い、同じ焚き火を囲んだ二人の少年の時間は、決して交わることがなかった。

 一人は、王国の頂点を目指し、血と硝煙の匂い漂う修羅の道へ。

 一人は、辺境の静寂の中に身を置き、土と陽光の匂いに包まれる穏やかな道へ。

 運命の歯車は、それぞれの決意を乗せて、真逆の方向へと力強く回転を続けていた。

 陽だまりの村の、少し小高い場所にある青い屋根の家。

 かつては空き家だったそこには、今では確かな生活の息吹が宿り、窓辺にはマリーが手入れをしているハーブの鉢植えが生き生きと並んでいる。

 セラはもう、かつてのように毎日剣を握ることはなかった。

 朝、小鳥のさえずりで目覚めると、彼は使い古された革のグローブをはめ、剣の代わりに重いくわや斧を握る。

 午前中は村の畑仕事を手伝い、額に汗を浮かべながら真っ黒な土を耕す。

「セラ君、助かるよ」「次はこのうねをお願いしていいかい?」と、村人たちから頼りにされる声に応え、彼はただの青年として、一歩ずつ地面を踏みしめて生きていた。

 午後は、古くなった納屋の屋根を修理したり、冬に向けた薪割りをして過ごす。剣を振るうために鍛え上げられたしなやかな筋肉は、今では村の平穏な営みを支えるための力として使われていた。

 そして夕暮れ時。

 仕事が終われば、レンたち子供たちと泥だらけになって原っぱを駆け回り、日が暮れるまで追いかけっこに興じる。

「お兄ちゃん、待てー!」

「ははは、捕まえられるかな?」

 戦いのない、争いのない、どこまでも穏やかで優しい世界。

 マリーの献身的な愛と、村人たちの打算のない温かさに包まれ、セラの顔には、あの三日三晩泣き続けた時の絶望の影はどこにもなかった。

 時折見せるその笑顔は、かつてのSランク冒険者としての誇り以上に輝き、嘘偽りのない心からの幸福に満ちていた。

 夜が更け、村全体が深い静寂に包まれた頃。

 マリーは、寝室から聞こえるセラの穏やかな寝息をそっと確認した後、リビングの窓辺に腰を下ろす。

 手元のランプの微かな灯りが、彼女の美しい横顔を柔らかく照らし出していた。

 彼女は、街では手に入らない上質な小さな羊皮紙を取り出し、羽ペンで一文字ずつ丁寧に想いを走らせる。

『――セラは今日、村の祭りの準備を手伝って、とても楽しそうに笑っていました。

相変わらずよく食べ、泥のように深く眠っています。

セラは今、世界で一番戦場から遠い場所にいます。

安心してね。

だから、あなたもどうか、自分を追い込みすぎないで。無理をしすぎないで』

 何度も読み返し、言葉を選び抜いた後の最後の一行。

 そこには、マリー自身の溢れるような恋心と、恋人を一人で修羅の道へ行かせてしまった痛み、それと変わらぬ愛が込められていた。

 書き終えた手紙を、彼女は大切に、小さく丸める。

 窓を開けると、ひんやりとした夜風と共に、暗闇から小さな影が降りてきた。彼女の魔力によって育てられた、伝書鳥の使い魔だ。

 その細い足に手紙を結びつけ、マリーは愛おしそうにその小さな翼を撫でる。

「……お願いね。あの人の元へ」

 夜空へと放たれた小さな影は、瞬く間に月の光の中に溶け込み、遥か遠き王都へと飛び去っていく。

 それは、過酷な修羅の道を往く愛する恋人クリスへ向けた、たった一つの、けれど最も強固な命綱だった。

 手紙を見送り、マリーは再び静かになった部屋で、遠い空を見つめ続ける。

 この『陽だまり』の時間が、一秒でも長く続きますように。

 たとえ、いつか嵐が来ることを予感していたとしても。

 ――。

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