第81話 降伏の儀式
1月21日 正午
イケブンブロク島沖合に浮かぶ海上自衛隊輸送艦『くにさき』の全通飛行甲板には大勢の報道陣、警備のための海上自衛官、そしてひとつの机があった。
机は、左右4つの椅子に囲まれている。
これより戦争終結のための降伏文書の調印式が行われる。
なぜ海上自衛隊輸送艦『くにさき』の甲板上なのか。
日本政府は「地上での調印は警備上の不安があり、洋上警備に支障がなく、また、多くのメディア陣を載せられる艦を選んだ」としている。
しかし、実際のところは、第二次世界大戦の日本の降伏文書調印式が、米海軍戦艦『ミズーリ』艦上で行われたことをなぞっているのではないかと言われた。
これを第二次世界大戦で敗北した日本のリベンジマッチと考える海外メディアも多かったし、また日本人の中にも(口に出すものはほとんどいなかったが)そう思う者も少なからずいた。
まず、日本外務省の全権特命大使とその補佐が座席に座った。
そこへ、海上自衛官を先頭に、スルン暫定大統領とリー暫定副大統領兼外務大臣がやってきた。
彼らはいくつかやりとりをした後、文章に調印を行った。
時間としては8分程度だったが、日本側も、亜連側も、どっと疲れた。
しかし、こうして、日本と亜細亜太平洋島嶼連邦共和国の戦争は終わった。
最初の戦闘勃発から9日が経っていた。
スルン暫定大統領は、連邦共和国議事堂に設けられた暫定大統領執務室にいた。
大統領公邸は戦闘で使い物にならないため、ここに大統領執務室が置かれた。
「終わったな、いや、はじまったというべきか……」
リー暫定副大統領兼外務大臣は言った。
「はじまったばかりだよ、まだまだ……」
スルンは椅子に座った。
「我が国だけでも大勢の犠牲者が出てしまった。軍人だけでも5万人以上。民間は現段階で1万を超えている。恐らくもっと増えるはずだ」
「日本はその何十倍だ、民間人でな」
リーが言った。
「3度も核攻撃。これで我が国も核加害国だ」
リーの言葉に、スルンは深くため息をつく。
「我々にこの惨事を食い止めることはなかっただろうか……」
「そんなことを考えているつもりは……いや、それも考えていくことになるだろうな。我々が考えること、やることは多い」
スルンは続けた。
「我が国は重い課題を背負い、一からのスタートとなった……我が国はアメリカに次いで2番目に核兵器を実戦使用した国となった……重いよ、この歴史的な意味や国際情勢の示す立場は……国際的地位も底まで落ちた……底があればな」
「これからインドをはじめとする平和維持部隊が投入される。現在の軍隊や国の武装組織は解体され、最小限の治安維持機構が残る。今の海軍も、空軍も、陸軍もなくなる。もちろん海軍軍閥は一掃だ……」とリー。
「軍需産業もなくなる……いや、放っておいても倒産だな。顧客の軍がなくなったんじゃ……」
「まだまだあるぜ、政治の再編、国際社会への復帰、経済の立て直し……」
「旧大統領らや戦争に深くかかわった軍人連中をさばく国際裁判もあるな……」
スルンは深く目を瞑った。そして言った。
「……この9日間、我が国はとんでもないことをしたな」
「ああ……」
二人はそのまま静かになった。
口を開いたのはスルンだった。
「しかし、我が国は存在する。国民も当然いる、5000万ものな。そして君はその国の暫定副大統領兼外務大臣、私は暫定大統領だ。やるしかない。至急、新しい内閣を立ち上げる。その顔ぶれを決めよう」




