第79話 政権交代
1月20日 早朝
チナイシチマ島の地下シェルターが破壊されたことは、政府中枢が全く無防備に晒されたのだと同じことになった。
しかも、海外の報道によれば、米国防総省高官の話として、地中貫通爆弾に核弾道を取り付けたものを実戦配備しており、西太平洋上にいつでも攻撃できるような態勢を整えているという。
亜連の政府専用地下シェルターが(海軍の主導によって、癒着関係にあった建設企業が工事したものが)過剰なほどいくつか存在した。
しかし自衛隊はすでにイケブンブロク島周辺を制圧下に収め、その周辺空域は自衛隊の制空権下にあった。アメリカ軍がレーダーに探知されぬまま空爆を行ったことを考えると、飛行するのも危険であった。
すでに亜連の空は亜連のものではなくなりつつあった。
また、亜連海軍は、ほんの数日前までは世界有数の海軍を持っていたとは思えないほどに衰弱しきっている。
よって亜連本土の制海権は、すでに敵対勢力の者になりつつあった。
事実、本土にいた弾道ミサイル搭載型原潜のいくつかは、海上自衛隊の潜水艦らしきものに沈められつつあった。
チナイシチマ島地下シェルターは備蓄倉庫が全壊。いくつかの通路も破壊され、さらに司令部の一部が破損していた。
かろうじて司令部機能は維持できていたものの、長期運用は難しい。
そこで別のシェルターに移ることになった。
しかし、先に述べた通り、島から島へ安全に移動する手段がなかった。
スルン・メーメフ産業大臣は自室で、電話をかけた。
「……すまん。空調の調子が悪いんだ。見てくれないか? ……そうだな、5時半くらいに頼む。では」
スルンはそういうと、深く息をついた。
それが合図だった
部屋をでて、リー・ラン外相と廊下であった。
スルンはそれとなく頷いた。リー外相は了解した。
「いつになったら、他のシェルターに避難できるのか?」
ヤー大統領は言った。どこか落ち着かない様子であった。
「はっ」
海軍高官が起立した。
「ヘリでの低空飛行を予定しております。本日夜には……」
「遅いな。もっと早く、だ」
大統領はぎろっと海軍高官を見た。
「しかし、ですが、昼間の飛行は敵に発見されやすいです。夜間の方が適任かと」
「その間に敵に攻め込まれては遅い。1時間以内に実行可能な移動方法を行なえ」
海軍高官が動揺していた。
スルンとリーが時計を気にしている。
5時30分だ。
その時、電源が落ちた。
「なっ、なんだ!?」
ヤー大統領がうろたえる。
スルンとリーは時間通りだ、と机の下に隠れた。
外では銃声と爆発音。
次はドアを突き破って、歩兵が突入してくる。
スルンとリー除く全閣僚が拘束された。
「何事だ!?」
灯が再びついたころには他の閣僚たちは連行されていった。
チナイシチマ島警備を担当していた第5海兵師団のアー少将が入ってきた。
島にはこの第5海兵師団と大統領警護師団がおり、大統領の直接警護を担当していたのは、大統領警護師団だった
「裏切ったな!」
大統領は血走った目でわめいていた。
スルンとリー、アーはそれを静かな怒りをもってみていた。
大統領は連行されていった。
「アレ少将、ありがとう」
スルン産業大臣は感謝を述べた。
「いえ、正直大統領警護師団は手ごわいかと思いましたが、師団長以下幕僚たちもあっけなかったです。いまだ抵抗を続ける大統領警護師団の部隊もありますが、大統領ら閣僚を拘束してしまえばこちらのものです」
「うん、我々は次の仕事に急ぐことにしよう」
リー外相の言葉に、2人は頷いた。
スルン産業大臣、リー外務大臣はヤー大統領が拘束されたこと、スルン産業大臣が暫定として大統領を代行すること、全亜連軍はただちに戦闘行為を停止すること、諸外国に対して我が国はただちに降伏の用意があることを伝えた。




