第73話 自衛隊上陸
1月18日午前10時
イケブンブロク島は自衛隊の艦砲、空爆に晒されていた。
亜連陸軍と海兵隊が自衛隊に応戦する。
戦闘は熾烈を極めていた。
「くるぜ……」
亜連陸軍第2師団のカン・コービ大尉は、塹壕の中から童顔に双眼鏡をつけて海を眺めて言った。
「日本の軍隊ってのは海を渡らないんじゃないんでしたっけ?」
老練なフー・ゴク曹長が冗談交じりに言う。
「曹長、それをいうなら日本には軍隊ってのはない話だ。守備隊に毛が生えた程度の軍勢だって政府広報から聞いた」
至近で爆発。近くに着弾したようであった。
「守備隊というにはガッツがあります……海はどんな感じで?」
「うーん、海が7分に、敵が3分という感じだ。物量はないかもしれんが、狙いにくい……」
また至近で爆発。
「……敵も目が良いな。狙って撃って来てやがる。世界最強の海軍ってのはどこいったんだ?」
「海の中で居眠りしてます」
「じゃあ当分は起きてこないな、畜生……敵が上陸してくるぞ」
上陸用舟艇に詰め込まれた陸上自衛隊第10師団第14普通科連隊第3中隊の隊員たちは、イケブンブロク島海岸に迫りつつあった。
『これは歴史に残る大作戦である』
師団長がそう訓示していたのを思い出す。そしてこう最後に付け加えた。
『諸君らに命じる。生き延びろ、以上』
砲撃、至近で爆発。思いっきり水しぶきが上陸用舟艇にかぶる。
隊員たちはおのおのの携帯火器を握りしめ、耐えている。
(これで生き延びろって酷な命令だよな……)
第3中隊第1小隊長の高木二尉は20式小銃を握りしめ、歯を食いしばりながら思った。
全く、戦争なんてふっかけなきゃ、俺たちは今頃訓練の日々だった。もしかしたら災害派遣でどこかにいっていたかもしれない。
甲府か、千葉、浜松……今や被爆地となってしまった三都市……ここも地獄だろう。
酷い話だと思う。当然、訓練も受けてきた。しかし、原爆が新たに3つも落ちた祖国を背に、敵国に上陸する話だなんてきいてないぞ。
「もうすぐ上陸します! あと60秒!」
上陸用舟艇に乗っていた海上自衛官が叫んだ。
高木はその自衛官に手を振りながら、部下を絶対に死なせないぞ、と心の中で固く誓った。
「上陸!」
上陸用舟艇から自衛隊員たちが飛び出す。
日本が、日本人が恐らく数十年ぶりに経験する敵前上陸だった。
海岸では敵の砲弾が着弾し、銃弾が飛び交う。
同時に上陸した陸上自衛隊第10施設大隊が地雷や障害物の撤去を行っている間、普通科や機甲部隊が敵に攻撃を行う。
撤去が完了した場所から、徐々に主力部隊が前進を開始する。
「第1小隊、前へ!」
高木二尉の命令のもと、第1小隊42名が前進を開始。
これを他の部隊が掩護する。
前進する間にも、数名の隊員たちがバタバタと倒れていく。
「くそっ……迫って来るぞ」
カン大尉は塹壕の中でぼやいた。
フー曹長がやってきた。
「師団長命令! 第2師団はティティリンまで後退し、首都防衛師団と合流せよ」
「なに!?」
思わずカン大尉はフー曹長の顔をみた。
「我が師団も損耗が激しく、すでに半数以上が戦闘不能とのことです」
「くそ、どこもに似たり寄ったりだな」
カン大尉は吐き捨てるようにいった。彼の中隊も、すでに損耗が半数以上を超えていた。
「わかった。部隊は首都まで撤退するぞ」
カン大尉はそういった。




