第1話 9月半ば
9月半ば
亜細亜太平洋島嶼連邦共和国の中部にある島、ヤーギ島。
ここは軍の訓練場で有名である。
島にはかつて空港として機能していた廃墟がある。
しばらくは太平洋やオセアニアへ向かう航空機への給油のための空港として発展していたが、今はその必要性がなくなり、廃墟と化している、
と、南の空から高度を下げて数機の輸送機が降りてきた。
亜細亜太平洋島嶼連邦共和国のクガ航空機製造が開発した大型輸送機、CaP-130だった。
数機の輸送機が滑走路の端から端に止まると、中から空挺部隊員が飛び出してきた。
陸軍第51空挺師団の隊員たちだった。
輸送機の中には空挺装甲車や空挺戦車が出てくるのもあった。
輸送機は機体を滑走路外に移動し、隊員たちは装甲車に乗る、空港の周囲を警戒するなどして対応する。
「状況終了!」
無線機から野太い男の声が響いた。
陸軍教導旅団空挺教導大隊、小柄で鍛えられた体格をしていたカセ・トーリツ少佐は続ける。
「29分41秒。ペースとしては徐々に時間を切っています、しかし、時間としては20分切ってほしいですな」
彼は他の隊員たちの愚痴やうめき声が聞こえるようであった。
「では、先度機体に乗って演習を行います。20分切るまで行いますからそのつもりで……」
9月下旬
東京港区虎ノ門 安全保障分析シンクタンク 一般社団法人 DEEP SKY
ここは衛星写真を中心に、日本の周辺諸国を監視するシンクタンクである。
「おやっ」
思わずスキンヘッドの男性が声を上げた。
「どうしたんですか?」
スキンヘッドの男の横に、白髪交じりのメガネをかけた男が寄ってくる。頭の両横を剃ってある。
「亜連のヤーギ島で、また輸送機使った訓練してるんですよ。これで一か月目です」
「他にもありましたよね」また別の男が入ってきた。彼もメガネをかけている。淡い色のジャケットをきている。
「ナサ―キガミミナ島沖で大規模な海軍対抗演習ですね。他にも……」
白髪交じりのメガネの男が衛星写真のファイルを見ながら、これだ、これ、と言いながら、3人に見せた
「一か月前にダエコ島で上陸ですね」
「一気にきな臭いですね」スキンヘッドの男が腕を組んだ。
「緊急レポート出します?」
白髪交じりのメガネの男は、浅いジャケットを着た眼鏡にきいた。彼はこの組織の理事長だった。
この組織は非営利の民間インテリジェンス機関として、衛星情報を通じて、企業や民間に国やマスメディアよりも早く危機情報を出すことを任務としている。
理事長は少し考えて頷いた。
「よし、速報を出そう」
他の2人は頷いて動いた。
(しかし)
理事長は思った。
(これだけの大きな情報、国が真っ先に手に入れているはず。国は何しているんだろう……)
同時期
首相官邸 総理執務室
「―――このように、亜連は各地で演習をおこなっています」
ソファーに座った雨宮内閣情報官は、衛星写真を使いながら説明を行った。
まだ40代半ばの若い総理、鈴木東は、低い机を挟んで向かい側に座り、にこやかな表情を向けていた。
「演習が各地で行われるのは、防衛省、公安調査庁などの報告からもきいています」
総理はそう言いながら向かいの雨宮に言った。雨宮は表情を変えなかった。
「しかし、正直に言って、これが我が国にとって重大な安全保障を揺るがす事態には思えないのです」
総理はすくっとソファーを立った。長身でスタイルよく、甘いマスク。総理の女性人気がよくわかる。
「確かに軍事演習が例年に比べて行われていることがわかります。ですが、このように軍事的行動を起こすことで他国に恫喝して今後の外交を優位にすすめることは彼らの常とう手段です。さらに1月のはじめに日亜友好団体の派遣が決定しました。1800名とこれまでにない規模です。むしろ我が国との関係は良くなっているのでは」
確かにその通りだった。亜連はよく軍事演習をおこない、近隣諸国への恫喝を行っている。
「その通りであります。しかし、普段なら恫喝したい国の近くの国内で軍事演習をおこなうのが常です。しかし、全土各地で演習をしているというのはあまりなかった兆候です。
それに我が国への領空侵犯、領海侵犯も急増しています」
雨宮が帰った後、執務室で一人、鈴木総理は窓の前に立って、長考していた。
確かに雨宮のいう通り、亜連の動きは怪しい。
しかし、我々もこちらを見ているように、あちらもこちらを見ていないだろうか。
下手に我々の軍事力が行動を起こせば、相手の軍事力も余計に刺激しかねない。
それに亜連は核保有国だ。核を使うとは思わないが、恫喝の道具には使うだろう。
いや、領空侵犯、領海侵犯が急増する時点で兆候ありとみなせばいいのか。
正直、我々の軍事力も以前より強大になっている。
特に海上自衛隊―――あの3隻の空母……いや、航空機搭載型護衛艦に関しては。




