プロローグ 亜細亜太平洋島嶼連邦共和国
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日本の南東、フィリピン海上に大小数千に及ぶ島嶼があり、それらは一つの島嶼国家として存在していた。
亜細亜太平洋島嶼連邦共和国。
それがその国の名前であった。
第二次世界大戦後に樹立された亜細亜太平洋島嶼連邦共和国、略して亜連は米ソ冷戦の間で中立を維持した。
一方で経済立国として成功し、同時に重工業を主産業とする技術立国としても確立した。
しかし冷戦後、大不況に陥り、その後も経済的に立ち直ることが出来ず、政情も不安定となった。
21世紀に入ると、極右政党、大亜細亜太平洋党-――大亜党が急速に勢力を伸ばし、政権を獲得した。
以降、現在に至るまで政権をとり続けることになる。
大亜党は大亜細亜太平洋主義―――亜連を中心に東アジアから太平洋の島々を一つの国とする覇権主義を訴え続け、同時に経済の回復や雇用の捻出のため、軍備の大拡張、武器の開発、製造、輸出を行う。
亜連は経済を持ち直すことに成功したが、武器を見境なく輸出し、何より覇権主義を訴える国が巨大な軍事力をもったことは周辺諸国の脅威となった。
また紛争地帯に軍事顧問団や軍の部隊を積極的に派遣していたことは、やはり他国にとって脅威であり、しかも地域の安全を乱す勢力に加担することが多かったことから、ならず者国家として見なされることも多かった。
202X年。
巨大な軍事力を維持し、軍事力の派遣や武器輸出を積極的に行い、経済を立て直した亜連だったが、経済は再び停滞し始めた。
その中で大亜党や現政権に対する不安も高まってきた。
国家保安省が国内の不穏分子を強硬に弾圧したが、それでも国民の不安は潰えることなく、むしろ増すばかりであった。
最大の島、イケブンブロクにある首都、ティティリィン。
日本や中国とは違った、独特の漢字が並んでいる。
例えば日本人が中国や台湾の漢字を読もうとしたら、ニュアンスとしては理解できるが、亜連の漢字はそれをなかなか難しいだろう。
トロガナ商店市場にはそんな漢字が並び、店については丼ぶりにに入った汁入り緬やお好み焼きのような。小麦粉に野菜をいれて引き延ばしたものを焼いたものを打っている屋台が多数並び、客たちは立ったり、椅子に座りながら箸やスプーンで食べていたりする。
手でもったり、串刺しのものを食べたり、数人で鍋を囲んでつついて。一人、或いは何人かで歩いて、食べたりするものもいる。
街の所々には、浮浪者が座ったり、寝たりしている。
この国の言語で『入隊』の腕章をきた中年男性が浮浪者に話しかける。
軍の新入隊員募集係だった。30年前から失業者対策で、失業者の入隊を積極的にすすめていた。
淡い緑色の官帽を被り、濃い緑色の出動服に黒い防弾ベストをきて、腰から国産の拳銃を入れたホルスターと警棒をぶら下げた二人が歩いている。
国家保安省国家治安庁首都警察部の警ら隊員だった。
そこから北へ向かうと、百貨店が並ぶコーエダ地区。さらに北にはモダンな商業ビルが立ち並ぶリマネ地区、さらに官庁街が並ぶシーナ地区がある。
コーエダ地区のある百貨店の屋上からは、中央のギザギザに下は水色、上は赤色のの国旗が垂れ下がっている。
リマネ地区のあるビルの屋上からは、大亜党の旗-――亜連の国土が中央に写った地球の上に、大きく羽を広げた鳥-――国の鳥であるオオワレワシーーーが描かれたそれを掲げていた。
その絵の下には『太平洋はひとつ 亜細亜はひとつ 我らはひとつ』というスローガンが書かれていた。
街灯にも同じ旗が描かれている。
街の所々に、大亜党のポスターが張ってある。ポスターはブルドッグの様に肌が垂れた顔が微笑んでおり『偉大なるヤー・カミン大統領とともに良い国にしましょう!』と党名とともに描かれている。
シーナ地区の北東には大統領公邸がある。大統領警護師団が警備するなか、大統領公邸3階の閣議室には閣僚たちが集まった。
「我が国の東南アジア経済圏構想は失敗しました」
ため息よりも重いものがまじった息を吐いて、まだ若いスルン・メーメフ産業大臣はいった。
「東南アジア各国は日本と手を結びたがっています」
ブルドッグの様に肌が垂れた顔のヤー・カミン大統領は天井を向いて、席をたった。
「我々の国は10年以内に崩壊する。そういう予測があるのは皆が承知の通りだ」
閣僚たちが大統領の顔を見た。、
「我が国を恥辱の底に落とすより、偉大な大国にしたい。それは皆が考えていることだ」
後ろ側にある大きな地図の前に立つ。
東アジアから太平洋島嶼が描かれている。
亜細亜太平洋島嶼連邦共和国が考える大亜細亜太平洋主義全域の地図だ。
「そろそろ実現すべきではないか?」
大統領は言った。
彼の一言に閣僚たちはまっすぐ大統領をみているのが半数、視線をそらしているのがさらに半数いる。
「大統領閣下」
静粛を破ったのは、まんじゅうのような顔の形に肥満体を白い海軍軍服で包んだ軍司令長官、イー・スルン国家元帥だった。
閣議であるが、この国では軍が―――特に海軍が強大な政治的発言力を持っている。三軍を束ねる軍司令長官と、陸海空軍の総司令官も出席していた。
「我が軍は計画通り、行動を起こせます。そのためには東アジアと太平洋の間にある大国、日本をまず打倒せねばなりません」
「『太平の嵐』作戦か……」ヤー大統領は呟いた。
閣僚は大統領を見つめた。
『太平の嵐』作戦。これは大亜細亜太平洋主義を遂行するための、東アジアから太平洋島嶼部を制圧する全体の作戦だ。
そのなかでも『太平の嵐』作戦は、それは対日戦争計画の符丁だった。
元は1960年代に発案された、Jプラン‐5(ファイブ)という作戦要綱に基づくものだった。
Jプランは、もし日本がソ連の勢力下に置かれる等、亜連に対して敵対する勢力になった場合、必要に応じて日本に対し、軍事行動を起こすための戦争計画であった。
その5は、日本本土に直接進攻し、日本を敵対勢力から打破するものだ。
『太平の嵐』作戦は、そのJプラン‐5を現代に置き換え、日本や亜連、周辺諸国等の現状に即して練られたものである。
「『太平の嵐』作戦を予定通り発動させよう」
ヤー大統領は決断した。
イー元帥は起立し、大統領に敬礼して言った。
「はッ、必ず作戦を遂行いたします!」




