第66話 亜連政府内部
自衛隊が各島嶼を奪還した後、亜細亜太平洋島嶼連邦共和国は沈黙していた。
しかしこの沈黙の中で、亜連政府内部は極めて混乱していた。
1月16日 朝
イケブンブロク島にある亜細亜太平洋島嶼連邦共和国の首都、ティティリン。
ティティリンの街は一層戦時下の様相を深めていった。武装した、迷彩服を着た兵士たちがあちらこちらにいる。
車道を、戦車や装甲車両が走っている。公園や空き地は陣地となっている。
ティティリンの官庁街、シーナ地区は関係者以外立ち入り禁止となった。
官僚や政府職員、政治家以外は兵士たちが警備に立っている。
また戦車や対空兵器が構えている。
「なんたるざまだ」
閣議室。ヤー大統領が円卓を叩いた。
「日本国占領作戦はとん挫した。海軍力も半数以上が壊滅。我々は日本国の反撃すら怯えなければならない」
「しかし、閣下」軍総司令官のイー元帥が言った。
「我々の3度の核攻撃は、敵の産業、経済と同時に精神的にも大きな打撃を与えています」
「しかし、わが国民にも不安が蔓延している。今まで介入してこなかった合衆国軍や人民解放軍が介入し、我が国に核攻撃をしかけてるといったうわさが蔓延している。これに起因する暴動が我が国各地で8件確認されている。密出国しようとする国民も少なくない」
ヤー大統領が脇にあったコップに注がれたレモネードでのどを潤す。
その間に、リー・ラン外務大臣が起立して意見を述べる。
「大統領、外務大臣として申し上げます。今こそ講和のときです。敵に大打撃をあたえました。敵は核を持たず、また大規模な侵攻能力も有していません。今、我々の有利な条件で講和を結ぶことができます」
「だめだ」大統領はコップを机の上に叩きつけた。
「それは現状、我が国に不利な条件下での講和を結んでくることになるだろう。我々にあるのは日本の降伏、それだけだ」
リー外務大臣は席に座った。
深い、絶望が彼を襲った。大統領はまともな現実認知能力を失っている。
恐らく戦地から遠くのこの地で、自軍が絶望的な状況になってしまった状況を受け入れられないのだ。そうすると、もはや現実は希望的観測に代わる。希望的観測が最高指揮所にとっての現実として認識され、戦場に反映されるのだ。
そしてその代償は兵士や国民の血によってあがなわれることになるのだ。
しかし、大統領はそんなことは気に留めず、話を続けた。
「とにかく、残存艦隊は再編成して、敵の攻撃に備えよ。核攻撃も準備だけはしておくように。いつでも、どのような手段でも発射できるようにな」
イー元帥もまた、大統領が限界にきているのを感じた。
と、なれば次は俺の時代だ。
彼は閣議後、国防総省の自室に戻った。
彼は椅子に腰かけ、電話をかけた。




