第39話 核攻撃への対応
1月14日早朝、官邸で睡眠をとっていた鈴木総理は、大きな爆発と振動で起きた。そして、秘書官に声を掛けられ、窓越しに西の空を見た。
しばし数秒、そのきのこ雲を見つめていた総理だったが、我を取り戻し、官邸の地下危機管理センターに入った。
「どこだ? どこがやられたんだ?」
「核攻撃を受けたのは千葉県船橋市と山梨県甲府市です。他にも全国で数か所、通常弾頭による攻撃で被害を受けている場所があります」
総理の言葉に戦争に突入して以来、官邸に籠っている防衛省のリエゾン(連絡員)がいった。
「自衛隊は何をやっていたんだ?」
思わず総理は言う。
防衛省のリエゾンは返す言葉なく、窮していた。
鈴木総理はそれを見て、言った。
「すみません。思わず……」
ああ、いえ……と防衛省からきたそのリエゾンは顔を蒼白させて、頷いた。
いけない、と総理は思う。
まずは現場への救援だ。
「状況はどうなっています?」
防災庁の情報収集担当が言った。
「詳細な状況は、現段階では不明です。千葉県は県内全域に外出禁止を発しました。救護のために消防も動いているという情報もあるそうです。災害派遣要請も出ています」
「消防は危ないな……かといって第1師団は東京の警備にも回っているが……防衛省は即応し、ただちに救援部隊を船橋と甲府に動かしてください」
わかりました、防衛省のリエゾンは頷いた。
総理は、次に山梨県庁は、と言おうとしたが、愚問であることに気が付いた。
(甲府市が吹っ飛んだということは、山梨県庁も……)
鈴木総理が思わず呆然とした。
県庁がなくなったとなると、山梨県はどうなるんだ。県ごとの行政は行えなくなる。当然、そのなかには、今回のような非常時の対応も含まれる。
「すぐに総務大臣と呼んでください。また、地方自治に関する総務官僚もつれてくるように、と」
秘書官が頷く。
「まず、千葉市とその周辺……茨城県南部や埼玉県、東京都、神奈川県に外出制限を出しましょう。これは政府としての呼びかけです。同時に山梨県は全県に対して、政府として呼びかけましょう」
はっ、と内閣府の防災担当が言って、その場を後にした。
総理は暗雲たる気持ちになった。
首都の眼前での核攻撃。恐らく今日は、南関東の人々は外出できまい。そして千葉をはじめ、南関東を中心に人々は、放射線そのものの被害や、それに関する風評などにしばらく苦しまねばならない。
そして甲府。県庁そのものがなくなったのは、核攻撃という災害対応や、これからの災害支援、復興に大きな困難……いや、県庁がないと不可能なことも起こるだろう。超法規的措置もいくつか行う必要があるだろう。
恐らく、県庁全てが消える、なんて事態はどの法律や政令、条例にも想像していなかったことだ。
たぶん、総務官僚が何とか手立てを考えてくれるはずだが……。
そして、と、戦争継続だ、と総理は思う。
この核災害救護のために自衛隊も戦力を割く必要がある。
このあたりは防衛省に聞く必要があるが、占領された地域の奪回作戦に影響はあるのだろうか。
おそらく、この核攻撃は敵の、これ以上攻撃するなという示威行為だ。
もちろんこれで我々は屈服するわけにはいけない。だが、国民感情はどうだろう。
いや、そもそも核攻撃を食い止めるにはどうすればいいのだろう……もし敵が核兵器を撃ち続けるとして、我々はどう食い止める必要があるのか……自衛隊の戦力にも限界はあるが。かといって……
総理は考えていたが、新たな情報が入ってきたため、そこで思考を切り替えた。
総理は数分後、防衛省に対して、核含むミサイル攻撃を受けた被災地へ、自衛隊の災害派遣を行うこと、また災害派遣に影響のない範囲で作戦を続行せよと命じた。
防衛省並びに自衛隊は了解の返答をした。
作戦にどう影響を与えるか、まだ未知であった。
船橋市の核攻撃で、精鋭第1空挺団などが駐留する習志野駐屯地が被害を受けたからである。




