第36話 27式高速滑空弾
1月13日4時
宮崎県えびの市 陸上自衛隊えびの駐屯地
開戦から24時間が経った。
まだ空が暗かった。
西部方面特科連隊第7射撃中隊、第8射撃中隊は駐屯地内の広場に展開していた。
装備している27式高速滑空弾の発射筒が重装輪回収車を改造したトレーラーから天を仰いでいる。
27式高速滑空弾は、25式高速滑空弾の発展型で、かつては島嶼防衛用高速滑空弾ブロック2と呼ばれていた。
2030年代の開発を目指していたが、開発が早く進み、2027年度中の配備となった。
射程3000キロを誇る極超音速ミサイルは慣性航法とGPSによって誘導され、目標に到達する。
本戦争では目標到達までにGPS機能を使うため、米国の介入があると思われかねない、という声が政府内部でもあったが、そもそも現時点でもアメリカ製の兵器や衛星情報を得て作戦を進めているため、今更気にしても仕方ないことであり、そもそも米国の情報や技術抜きでは自衛隊の作戦に支障があることから、日本政府当局も黙っていることにした。
ともかく、この27式高速滑空弾は、別3 1/2tトラックに搭載された射撃統制装置のなかでデータを入力し、射撃準備を整えている。
指揮統制装置内では、各発射装置のデータ収集や無線による指示を行っている。
指揮官の二佐は緊張した面持ちでデータを見つめていた。
よし、ここまでは演習通りだ……。二佐は思った。
高速滑空弾は亜連本土に向けて発射し、核戦力が配置されているとみられる地点を攻撃する。
敵基地攻撃、自衛隊内外で兼ねてから議論されていたことを、我々今、実施するに至るのだ。
「ニ佐、全発射機、目標への滑空弾発射可能です」
ヘッドセットを付けた二等陸曹が二佐に向けて言った。
「よろしい……」
二佐は一瞬息を呑んだが、各機に、なるべく冷静をつとめて命令を発した。
「全弾発射」
各発射機から発射炎が上がり、高速滑空弾が発射される。
暗い空をミサイル群が走っていく。
滑空弾は水平飛行に移った、高速滑空弾はそれぞれの目標に向かっていく。
しばらく飛行したあと、ブースターが分離され、滑空体が空の上で、川の上で水を切るように跳ねていく。
ある滑空体は、目標に最接近すると、一気に降下する。なお、ここまで亜連の迎撃手段はない。
降下した先には、中距離弾道ミサイル、アンダ3号の、巨大な装輪が16個付いた巨大な移動式発射機があった。
「うわあ!!」
発射機周辺で警戒に当たっていた兵士は絶叫とともに爆風に吹き飛ばされてしまった。
ズレた鉄帽をはめなおし、小銃を掴むと、後ろをみた。
そこには炎上する移動式発射機があった。
日本国産の人工衛星で追跡され、カモフラージュをされても分析された結果、正確な位置を特定された目標は、27式高速滑空弾の餌食となった。
他にも空軍基地に駐機していた亜連空軍の爆撃機も攻撃を受けた。
27式高速滑空弾の攻撃はその実被害よりも心理的負担の方が大きかった。
つまり、日本本土から、いつ、迎撃不可能な手段で攻撃されるかわからないという恐怖が亜連軍人を中心に付きまとった。
自衛隊は、今回の攻撃目標は亜連の核戦力に限定して行われており、民間関連への攻撃はしないと言明したが、それでも亜連国民間にも恐怖心を植え付けた。




