第29話 さまざまな動き
1月12日 午前8時
『連邦共和国軍発表! 我が軍は敵日本首都、東京に進撃し、主要閣僚数名を排除するに至り。なお、当方の損害―――』
「我が軍の損害の方が大きく、作戦は失敗した」
ヤー大統領は呟いた。
ここは大統領官邸の大統領執務室。
椅子に座った大統領と、大きな執務机の前には軍総司令官、イー元帥が起立している。
「これからどのようにするのだ?」
「作戦計画は一部修正を加え、続行されます」
ヤー大統領は、イー元帥をのぞき込むように見た。
「ほう。どんなのだ」
「我々の斬首作戦が失敗した以上、敵は海上戦力をもって我々に占領されている島々の奪還を行うでしょう。敵主力は母港を出て、洋上に出撃しなければなりません。これを洋上で叩きます」
「ふむ」
「これによって、敵の水上戦力は破壊され、着上陸作戦も不可能になり、敵は積極的攻勢に出れなくなるでしょう。そこに断続的にミサイル攻撃を実施し、敵に諸条件をのませます」
「核攻撃はどうする? ハママツの攻撃は有効であったが、同時に日本人の怒りをもって、士気を向上させたぞ。東京攻撃は失敗したが、やはり日本人の世論を怒らせた」
「戦略的な核攻撃は期限が切れた直後に再び実施する考えです。戦術的な核攻撃は考慮に入れながら、作戦を進めていきたいと思います。日本人の怒りは生みましたが、同時に我々に対する恐怖を受け付けることに成功しました。それは怒りや報復論の裏返しとして現れています」
ヤー大統領は自分以外いなくなった執務室で、キューバ産の葉巻を加えた。
気に入らん。
彼は思った。イー元帥のことである。
作戦失敗もそうだが、それ以上に懐疑の念が生まれる。
あの男、何かやらかしはしないだろうか。
大統領は秘話装置を稼働させ、受話器を上げると、ダイヤルを国家保安省大臣室に繋いだ。
イー元帥は国産高級車『ティンリー』の後部座席に乗って、首都ティティリンの様子を眺めている。
全土に非常事態宣言が出ており、市街のあちこちに軍の兵士や装甲車が見える。
彼はシガレットケースをあけると、煙草をくわえ、マッチで火をつけた。
ヤー大統領の不信感は明らかに溜まっている。元帥は思った。
日本人に対する攻撃はある程度、有効だ。しかし、それ以上に軍や国民に大きな犠牲を強いたのが大きかったと思う。
大統領に対する不信感はさらに大きくなっただろう。
大統領に対する不信感が大きくなったとき、国民は彼を見捨てるだろう。
その時、俺は―――。
イー元帥は煙を深く吐き出しながら、今後について考え始めた。
スルン・メーメフ産業大臣は、外務大臣室に呼ばれた。
同じ部屋には、同年代の外務大臣、リー・ランがいる。
「スルン大臣は日本に留学経験があり、日本に多くの友人がいると聞いている」
スルンは頷いた。
「確かに……」
「頼みがある。交渉役をお願いしたい」
「いいが……日本人は怒りが頂点に達している。何をしでかすかわからないという恐怖もあるが、怒りが上回っている。期待はできない」
「それはわかっている……しかし、日本をテーブルにつかせるのは至難だ、この際、あらゆる手段は講じたい」
「うむ……」
スルンが何か言いたげな様子を察したリーは言った。
「この部屋は専門の業者に頼んで『綺麗』だ。私には、そういう友人がいるんだ」
スルンがリーを見た。彼の言っている『綺麗』とは。盗聴装置などの仕掛けがないことだ。どうも(多分国家保安省あたりに)友人がいて、『綺麗』にしてもらったのだろう。
「申し訳ないが、今の私はそれでも不安だ。私は潔癖症なのだ。できれば私の家で話さないか」
彼はメモをかりて、何かを書き込んだ。
「私のスマートフォンの連絡先だ。何かあったら頼む」
リーはメモをみた。番号とともにこう書かれていた。
『私は、貴方と、戦争を終わらせる方法について話したい』




