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第27話 浜松市救護活動


 1月12日 午前6時30分。


 静岡県浜松市 浜名湖北方


 爆心地から30キロ近く離れた市立浜松湖病院の外科医、土屋は30手前の若い医者だった。


 今、彼は隣の浜松市近郊から搬送されてきた大量の負傷者の処置を行っている。



 病院も爆発の影響を受けており、窓ガラスが割れ、職員や入院患者に怪我人が出るなどの被害が出ていた。

 また爆発を不幸にも目視してしまった数名が、失明を負った。


 しかし、それよりもはるかに多い人々が重軽傷を負って病院に担ぎ込まれた。


 医療従事者は、はるかに多い怪我人を、比較するとはるかに少ない人数で対応しなければならなかった。




(きついな……)


 内心でそう思いながら、土屋医師は処置を行う。


 外科医として火傷の患者は診てきたが、これだけ多くの患者をたくさん見てきたのははじめてだ。


 中には処置中に容体が急変し、そのまま意識を取り戻さなかった患者もいる。




 彼は前の人の措置が終わり、新しい患者を呼ぼうとしていた。


「先生……」


 ふとかすれた男性の声で呼ぶ声が聞こえた。


 トリアージエリアの近くにいつの間にか来ていた土屋医師は声のする方を見た。


 担架に横たわる中肉中背の男性だった。


「助けて……助けてください……」


 トリアージは多数の負傷者が出た場合、負傷者のけがの度合いから、治療の優先度を決めるシステムのことだ。


 トリアージは4段階、色によって識別される。


 この男のトリアージは黒、ただちに措置が行っても救命が不可能なものだった。


 男は下半身がなく、左半分が重篤の火傷を負っていた。


「助けて……」


 土屋は呆然とし、戸惑ったが、彼の片手を取り、


「大丈夫だ、悪いがもう少し待ってくれ」


 そういうと、とっさにその場を後にする。





 思わず玄関まで歩いて逃げてきてしまった。


 しかしどうしろというんだ。


 彼は治療エリアに戻るべく、院内に戻ろうとした。


 しかし玄関横でうずくまって、嘔吐をしている、白衣の女性を見かけた。


「どうした?」


 彼は声をかけた。彼の後輩の高橋医師だった。


「いえ……すみません……」


 彼女はそう言ってゆっくり立ち上がる。


「しっかりしよう。患者はもっと来るぞ」


「はい、そうですね……」


 土屋医師の言葉に、高橋医師は頷いた。


 土屋医師は高橋医師に言ったが、同時に自分にもそう言い聞かせた。


「さあ、戻ろう」


 土屋医師は高橋医師を連れて院内に戻った。


 トリアージエリアの近くを通る。


 先ほど、土屋に声をかけた急患の男性の顔に白い布が敷かれていた。


 土屋はそれをちらっとみて、衝撃を受けていたが、高橋医師とともに早く治療エリアに戻ろうと、必死に気持ちを押し殺していた。





 静岡県浜松市 JR舞阪駅前


 浜松市の西端あたりに位置する東海道線舞阪駅の前では陸上自衛隊第10師団が展開していた。


 隊員たちはこの駅やその周辺にいた重軽傷者を付近の病院や、自衛隊が設けた野戦病院に運んだ。

 また、遺体に関しても収集し、これを所定地まで運んでいた。


 舞阪駅には雨が―――黒い雨が降りつつあった。


 多くの自衛官はほぼ通常の装備で救護の任務に当たっている。


 大規模な火災はまだ続いており、現状、爆心地まで到達できそうにない。


 第10師団第35普通科連隊は名古屋市守山区から浜松市に派遣された。


 今、第3中隊が舞阪駅に派遣されている。


(こりゃひでぇや……)


 ベテランの一等陸曹が思った。


 自分の班を指揮しながら、体の多くにやけどを負った人々や四肢の一部を欠損した人などを救護した。


 しかし、ここでできるのはせいぜい焼け石に水のような応急措置だ。


 とにかくトラックにのせて運ぶしかない。彼らに与えられた任務はそうだった。


「班長」


 顔を歪ませた、部下の陸士長が言った。


「山田が作業できないって座り込んじゃいました」


 山田と呼ばれた一等陸士はその場に崩壊した駅舎の横に座り込んで、うつむいている。


「おい、山田。大丈夫か」と一等陸曹。


 普段は明るい山田からは考えられないほど、山田に元気はなく、ただ力なく頷くだけだった。


「どうした? 具合でも悪いんか?」と一等陸曹。


「いえ、大丈夫です。すんません、気が滅入って……」


 山田は少し顔を上げた。


「気にすんな。少し休んでろ」


 山田は、はい、とやはり力なく答えた。


 一等陸曹は、陸士長にちょっと様子見てやれ、といい、自分は作業に戻った。


 目の前で人が倒れた。


 上半身を黒く焦がし目だけぎょろっとしていた。

 上は何も来ておらず、下はスーツをきていたようだ。もうボロボロで、右足が完全に露出していた。足の太さから男性だろう。


「大丈夫ですか?」


 一等陸曹は彼に声をかけ、意味が分からない発声をしていた。


 一等陸曹はここが地獄だと思った。ここでどうしろっていうんだ。俺は神でも天使でもない。


 俺だって、ただの人間なんだぞ……。



 


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