第25話 総理声明
1月12日 午前7時
首相官邸記者会見室には国内外の記者が集まっていた。
後方にはびっしりとカメラが並んでいる。
みたかい、入り口―――
ああ、戦場だったんだな、ここも―――
緒方さんが殺されたのか、いくつかの政策が滞るぞ―――
浜松、核攻撃だなんていまだに信じられないな―――
でも東海道新幹線、東海道線は折り返し運転、高速は浜松の前で止まってる―――
物流もやばいな―――
そんな記者たちの声も、総理が入室し、登壇したのを機に黙る。
と、同時にカメラのシャッターが響いた。
司会者が総理がまず声明を発表してから、記者の質疑応答に答えるといった。
総理の斜め後ろで手話通訳が手を動かしている。
「まず、この度の東京の特殊部隊とみられる攻撃、弾道弾による攻撃、また浜松市への核攻撃でお亡くなりになった皆様に哀悼の意を表します、また負傷された方の一刻も早い回復を望みますとともに、被災者の皆さまにお見舞い申し上げます」
総理は大きくため息をつきかけて、ぐっとこらえた。
前を見る。多数の記者、多数のカメラがあった。
「現在、我が国の主権は犯されており、国民の生命と財産は極めて危険な状態であります。我が国は領土も占領され、明確に武力攻撃を受けており、それは亜細亜太平洋島嶼連邦共和国によるものと断定せざるをません」
記者たちは息を呑む。この平和を誓った国において、その国の総理が武力による攻撃を受けていると明言したのだ、しかも相手国を名指しで。
海外の記者たちは総理の発言を意外と淡々と飲み込んだ。事情はわかっていたが、これが(日本政府の見解はどうあれ)戦争である以上、攻撃を受けたこと、そしてどこから攻撃を受けているかを明確化するのは不思議ではない。
しかも相手国は2時間前、日本を攻撃したことを認めている。
「亜細亜太平洋島嶼連邦共和国……亜連と略称しますが、6つの条件を本日午前4時から144時間後。つまり1月18日午前4時に以下の事項を履行せよ、と発表してきました」
すなわち、と総理は読み上げる。
1、全戦闘行為の停止
2、日米安全保障条約の完全破棄
3、亜細亜太平洋島嶼連邦共和国との同盟条約を結ぶこと。またこれには連邦共和国軍の駐留を認めること。
4、日本政府は、亜連政府および連邦共和国占領軍総司令部の意見に従うこと。
5.日本政府は、亜連政府を上位存在と認めること
6,1、2、4、5を包括的に定めた条約に調印すること
「これが履行できない場合はさらなる攻撃を仕掛けると言ってきています」
総理は鼻で息をすると、しかし、と反論した。
「これは到底、主権国たる我が国においては認められないことであります。よって、亜連が付きつける6つの要求には全面的に拒否いたします」
総理は続けた。
「亜細亜太平洋島嶼連邦共和国政府に告ぎます。ただちに我が国外から撤兵し、停戦してください。これ以上の抵抗は無意味です。我が国はいつでも貴国との対等な条件での停戦に応じます」
総理は話を変えた。
「また現在、米国大統領との至急の電話会談も用意しています」
総理は少し黙って、考えた後、言った。これ以降は原稿になかった部分だった。
「改めて強く言うものですが、平和な我が国の主権、領土、国民の生命財産は窮地に立たされております。このような蛮行は許されず、また屈することも当然できません。我々は、この国の主権、領土、国民の生命と財産の保全を行うことが急務であり、これを犯そうとするものはいかなるものでも強く排除するものであります」
『鈴木総理、あなたの気持ちはわかっております、同時に我が国の国民も深い哀悼の意を表しています』
米国のシルヴァーランド大統領は鈴木総理との電話会談に応じた。
間には外務省の通訳が入っている。
「しかし、大統領、米軍の動きは消極的ではありませんか? 我が国と貴国の間には日米安全保障条約があります」
『それはわかっています。鈴木総理。しかしご存じの通り、我が国の軍事力の行使は、我が国の利益のみに行使されるべきだ、そうルールが変わっているのです。それに、他国の介入あらば報復をするといってきているではありませんか』
大統領は続けた。
『もちろん我が国は最大限の努力はいたします。しかし、もう我が国の軍事力が、世界の警察として威張る時代は終わったのです』
鈴木総理は米国の介入を推し続けたが、結局米国は介入せずと平行線をたどったまま、会談は終わった。
「日本で何とか守るしかない、ということか」
総理は語気を強くしていった。




