第20話 危険なほど高まる士気
亜連ヘリコプター部隊が皇居上空に到達したとき、皇居前広場は陸自ヘリコプターが着地しており、残骸も見られた。
その時、高速で横切るものをパイロットたちは捉えた。
上空を見ると、赤い丸をつけたF15J戦闘機の4機編隊が自分たちの上空を飛んでおり、さらに多くのF15J戦闘機が旋回していた。
無線で、へたくそな亜連の公用語で呼ぶ声があった。
『こちらは航空宇宙自衛隊である。誘導に従い、新木場のヘリポートに着陸せよ。生命および名誉は保証する。なお、空中戦で貴軍の戦闘機は上空より排除した』
―――排除した、というのは絶妙な表現である。
亜連戦闘機を撃墜したわけではなく、南関東の人口密集地上空より排除したのだ。
『亜連地上部隊はつい先ほど我々が排除した。もう残っていない。我々の指示に、東に従え』
ヘリのパイロットの多くは指示に従った。
一部には指示に従わず、帰投しようとするヘリもあったが、遅まきながら飛行し、都心上空に到達した陸自対戦車ヘリに先回りされ、指示に従わざるをえなかった。
亜連海軍第3艦隊司令官、カン・デーラン中将は空母『ハオツマ』CDCで下唇をかんでいた。
「今から艦載機を増派すれば救出できるか?」
そういうと、作戦幕僚が答えた。
「時間的制約、敵の抵抗からいって難しいかと思われます……」
「なら我々は、みすみすヘリ部隊を敵に渡すだけの結果になっただけか」
こういう事態は予想できたのにな、くそ。カン中将はそうぼやいたあと、命令を続けた、
「今上がっている戦闘機は帰投。本艦隊は本国へ帰投する」
千葉県沖には、出港したばかりの海上自衛隊第1水上戦群が航海していた。
これから厚木を経つ艦載機を載せようとしていたときだった。
統合任務司令部から命令は届いている。
指揮官の中井海将補は『やましろ』CDCにいて、モニターを見ながら、言った。
「反撃だ」
周囲にいた幕僚は頷いた。
それが命令だ。
命令、というより前に、むざむざと東京と浜松をやられて、そのまま返しておくか、という気持ちが中井海将補のなかに渦巻いていた。
それは他の自衛官たちも一緒だった。
もちろん、反撃に有利という点もあった。
敵――そう、敵だ――は政治的制約から米国管理地帯を狙わなかった。
米軍基地として機能を維持している横須賀を叩くのは、敵にはできまい。
つまり、第1水上戦群は、敵の反撃を受けない位置にいるのだ。
もちろん命令とあれば、いかなるものであっても遂行しなければならない。
「第1水上戦群全艦艇に水上戦用意。厚木の第101航空群も対艦ミサイルを装備して上げておけ」
中井の言葉に周りの幹部が了解と返答。
ベルを鳴らすような警報音が『やましろ』全艦に響く。
中井は手元にあったコーヒーを飲んだ。
ぬるくなっている。しかし、できればもっと冷えた、氷水のようなものがほしい。
それが俺の高ぶった精神を冷やすに足るのかはわからないが。
厚木基地でもアラートが鳴った。
海上自衛隊第101航空群のF35C40機に対艦ミサイルが装備され、パイロットたちはコクピットに飛び込んでいく。
「『やましろ』行はいったんやめ、反撃だ! 東京のカタキを取るぞ!」
誰かが叫んだ。
「おい。皆冷静に行こう!」
長峰二佐は叫んだ。部下たちから了解の返答。
長峰二佐は思った。皆熱くなりすぎている。異様なまでに士気が上がっている。
ようやく出撃し、反撃ができるのだ。そうなるのも無理はない。
しかし、頭に血が回って、ミスや余計な犠牲を生むことはあってはならない。
特に余計な犠牲だ。命令以上のことや自身の生命を軽視するようなことはあってはならない。
そう訓示はしたはずだが、やはり異様な熱気は止めることはできない。
かくいう長峰二佐も、内心の、猛獣のような士気の高さを抑えるにやっとだった。
「畜生、絶対亜公どもの命取ってやる」
そうぼやくのは、三橋一尉である。
パイロットスーツに身を包んだ彼は、後ろから青木一尉に肩を叩かれる。
「三橋、落ち着け。頭に血が上ってちゃ、敵をとりようにもとれん」
「青木はいつものように落ち着いてるようだな」
「そんなことないだろ、俺は奴らを許さん」
そういってコクピットに駆けていく青木一尉。
そんなに熱くなっている青木一尉を見た三橋一尉は、思わず口笛を吹いて、おっかねえ、とぼやいた。
厚木基地からF35、40機が発進した。
5時3分、相模灘海戦が勃発した。




