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第7話 核攻撃

 4時26分。


 悲劇は静岡県浜松市で起こった。


 亜連国内から発射されたIRBM、アンダ5号から空中で切り離された核弾道は、浜松市に向かう終末段階を飛行していた、


 4時26分32秒。


 浜松駅南方にある龍禅寺町という地区の上空で炸裂した。


 一瞬の閃光。上空に火球が形成される。爆風と熱線、そして目に見えぬ放射線がそれぞれ強烈な勢いで周囲に広がっていく。


 爆発は浜松駅やその周辺の商業施設、さらに住宅街を飲み込んでいく。


 爆風は堅牢な建物以外は全てを吹き飛ばし、熱線は全てを焼いた。そして放射線は呪いの様に周囲のものすべてに突き刺すように飛ぶ。


 浜松市に投下された強化原子爆弾の威力は300キロトン。広島原爆の20倍の威力だった。

 



 ここで時間はさかのぼる。去年夏のことだ。


 亜細亜太平洋島嶼連邦共和国の大統領公邸、その5階にある大統領執務室では、ヤー・カミン大統領が執務机に座り、書類を読んでいた。


 机の前には国防大臣ミ・カーロン、軍司令長官イー・スルン国家元帥、そして軍総合司令部作戦部長のドー・ドラン少将がいた。


「この対日侵攻作戦……『太平の嵐』作戦とあるが……」


 大統領は書類を机の上に置いて言った。


「いささか大胆過ぎないか? 全体的にではあるが、最も気になるのは日本に対して核攻撃を実施するところだ。日米との条約で、強力な同盟関係にある日本とアメリカだが、日本に核攻撃を行った場合、米国の報復を招くのではないか?」


「大統領閣下、私から説明を」


 踵を鳴らしたのはトー少将だった。海軍士官学校を首席で卒業し、史上最年少で将官になったこの30代半ばの男は、目つきが鋭く、細身の男だった。

 少将はいずれ軍総司令官待ったなしであり、現在でも『トー軍総司令官閣下』と影で嫌味半分に言われている男だった。


「トー少将、説明してくれ」とヤー大統領。


「はっ。日本の核攻撃でありますが、米軍基地など米国の施設や艦艇への直接攻撃がない限り、米国からの報復は受けず、また我が国にとって利点もあると思います」


「どういうことだ?」


「まず米国からの反撃はないと考える理由は、まず、ご存じのように米国が孤立主義に走っている点です。同盟関係にあるとはいえ、深くかかわらないことと思います」


「うむ……いささか短絡的な気がするが……」とヤー大統領。トー作戦部長は続ける。


「他にもございます。こう申し上げるのもいささか気が引けますが、核を実戦使用した我が国に対し、自暴的になったと思われるでしょう。そして我が国は依然として核兵器を保有しています。米国は米国に対する、核による報復攻撃を恐れると思います。日本が核攻撃を受けたからと言って、その反撃を行うことは、米本土における核攻撃を招くことになりかねません。それは米国にとって、日本の都市を核攻撃されるより、懸念される事態でしょう。よって米国は、我が国に核攻撃を行うことを避けるでしょう」


「うむ……他には?」


「我々には核攻撃を経てある種のサインを発信することができます」


「どういうことだ?」


「我々はいつでも核攻撃ができる。そういうサインを日本はじめ、全世界に送ることができます。核の後ろ盾を失った日本は、再度の核攻撃を恐れ、また我が国の武力攻撃を恐れ、早期に交渉のテーブルにつかせることができましょう。さらに、我が国のサインは今後の大亜細亜太平洋主義の実現、大亜細亜太平洋共栄圏構想の実現をより円滑にできるかと……」


「うむ……」


 なるほどな……そうヤー大統領は言うと、それ以後、自ら核攻撃の局面について言及することはなかった。





 時間は戻る。


 火球は消え、浜松市街地に大きなきのこ雲が形成されようとしてた。


 きのこ雲の直下にあっては、すでに地獄が誕生していた。


 家屋の多くは蒸発、または吹き飛んだ。

 浜松駅も炎上し、骨組みをほとんど燃やすのみであった。

 線路も高熱と爆風でひんまがってしまっていた。


 市街に立っていた高層ビルも全てのガラスがなくなり、内部は炎上していた。

 華やかなビルも、まるで大きな墓標のように炎の中に立っていた。


 浜松城も暴風で消し飛んでいた。太平洋戦争の戦災で焼失したこの城も、再び失われようとしている。


 爆風は浜松の周辺の街にも吹き飛び、きのこ雲は名古屋市や熱海市でも目撃できた。


 日本はみたび、核攻撃を受けることとなったのだ。






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