第5話 奇襲開戦
1月12日早朝
護衛艦『きりさめ』は南西諸島南方-――亜連との国境に接する海域で亜連の大規模演習を監視する任務を帯びていた。
演習は終わっていたが、彼らは監視を続けている。
何せ艦隊は集結するだけで、帰港する兆しがなかった。
艦長の今西二佐はCICの艦長用座席に座って、少し考え事をしていた。
(艦隊は集結し、帰港する兆しがない……まさか)
今西の頭には嫌な予感しか過ぎらない。
「艦長、11時の方角から本艦に高速で接近する飛行物体を確認。数は3」
「来やがった」
艦長は思わずぼやいた。不思議と、思ったより冷静だった。
艦長はインカムで全艦放送を行う。
「総員起こし。対空戦闘よーい!」
「了解、対空戦闘よーい!」
砲雷長が復唱する。
カンカンカンカンと鐘のなるような警報が鳴った。
寝ていた乗員らも飛び起きる。
各員、確認しながらハッチを締め、部署につく。
その間にも艦長が全艦放送。
「総員に告ぐ。これは演習にあらず。繰り返す、これは演習にあらず」
亜連国産の5発の対艦ミサイルが『きりさめ』に向かっている。
3発はWW-S-21対艦ミサイル。通称『シラメ(日本語で斬撃の意味)』。500キロの通常火薬を搭載している。
亜連駆逐艦から発射された3発のミサイルは『きりさめ』に向かっていた。
ECM(電子的妨害装置)がパッシブモードからアクティブモードに変更。強力な妨害電波が発射される。
シラメミサイル1発が外れ、海上で落下。爆発する。
ちょうどそれと同タイミングで、生き残った2発のミサイルが低空姿勢を取った。ミサイルは次の飛行段階に入った。
と『きりさめ』からも発展型シースパロー(ESSM)対空ミサイル2発が垂直発射装置-――VLSから発射される。
そこへ新たに亜連側からWW-S-24対艦ミサイル2発発射。通称は『ラーワ(鉄拳)』。1トンの通常爆薬を搭載している。
『きりさめ』さらに2発のESSMミサイルを発射。
と、2発のシラメミサイルのうち、1発がESSMの迎撃を受ける。
もう1発のシラメミサイルが爆風の中をすり抜けて飛んでいく。
後方ではESSMがラーワミサイルを1発撃破。もう1発が『きりさめ』に向かって行く。
『きりさめ』前方に取り付けられた76ミリ単装速射砲が敵ミサイルに向けられる。砲撃。迎撃するまでを連続する。が、あたらない。
シラメミサイルは突然、高度を上げ、一定の高度を上がったとき、機首を下に向けた。その下には当然『きりさめ』がいた。
この時『きりさめ』艦橋前方に置かれたCIWSが発動、上空に向け20ミリ機関砲弾を撃ちまくる。
シラメミサイルのエンジンに機関砲が当たり、稼働しなくなる。
『きりさめ』にとって不幸だったのは、爆発したのはエンジンの一部であったこと、エンジンの燃料と火薬はまだ破壊されていなかったこと、そしてそのまま1発のシラメミサイルは『きりさめ』に―――『きりさめ』艦橋に落下したことだった。
爆発。レーダーなどを搭載したマストごと、艦橋を吹き飛ばす。
強い衝撃が艦内を吹き飛ばし、艦内に爆風が飛び込む。
エンジンの燃料も火炎に飛び込み、さらに『きりさめ』を炎上させた。
爆発は『きりさめ』CICにも及び、全ての機能を止め、数名の負傷者を出していた。
今西艦長も負傷し、頭から血を流している。
インカムで全艦放送を行おうとする。総員退艦。しかし、インカムが故障して使えない。
畜生。何とか全艦に総員退艦の命令を出さねば。しかし、うまく立ち上がれない。右足に激痛。座席に思いっきり放り出されたショックで右足を骨折していた。
そこに1発のラーワミサイルが突入していく……
ラーワミサイルは艦中央に命中した。
『きりさめ』は巨人が握りつぶしたかのように歪み、真っ二つに割れた。
あとは早かった。2つに割れた艦体は海にあっという間に吸い込まれ、残ったのは破片というに等しい浮遊物と何とか生存した十数名の乗員だった。
生き残った乗員は亜連海軍駆逐艦に救助され、捕虜となった。
こうして、日本と亜連との戦争がはじまった。




