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神獣と選ばれし王 【伍國豊穣記】  作者: 盛嵜 柊 @ 『シド』書籍化進行中
~白き獣と次代の王~

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〔8〕真意と信頼

 結局のところ、ディアンを助けた『穴』を開けてくれた者の正体は分からなかった。


 農家のおじさん達いわく、近くを通った者は誰もいなかったと首を振り、おじさんは穴を開けた時の爆発音で“兄ちゃんが林で何かをしている”と思ったらしい。

 では一体誰が助けてくれたのだろうか、と心当たりもないままそれから数日が過ぎた。


 そしていつものように依頼も終わり冒険者ギルドへ顔を出した夕刻、ディアンは職員に声を掛けられてギルドの奥に足を踏み入れる事になった。

 初めて入った応接室のソファーに座り、ディアンは一人落ち着かない時間を過ごしていた。



「待たせたな」


 そこへノックもせずに入って来たのは、40代くらいで長身痩躯(ちょうしんそうく)の男性だった。

 ギルドの制服である焦げ茶のジャケットを羽織り、短く整えられた蜜柑色の髪は半分近くが黄色くなって年齢を感じさせるものの、榛色(はしばみいろ)の眼光は鋭く、ディアンは秘密さえ暴かれそうで反射的に背筋を伸ばした。


 ディアンの対面へ静かに腰を下ろした男性は、視点をディアンに固定した。

 ただ何も言わずに壮年の男性から見詰められる状況に、ディアンは困惑して泣きたくなってくる。これから尋問でも始まるのだろうかとゴクリと唾を飲み込んで、ディアンは男の動きを待つ。


「あーじろじろ見てすまなかった。話に聞いたように、本当に女みたいな顔をしてるんだなと思ってな」


 ようやく口を開いたかと思えば、誰に聞いたか知らないがいきなり不躾な言葉を吐く男。こいつは一体誰なんだ。自己紹介もまだされていないのに、失礼にも程がある。そう思うものの、ディアンの口は理性によって押しとどめられている。


 ディアンがムッとした顔をしていたのか、対面の男は目尻を下げて頭を掻いた。

「悪い悪い。俺はレイモンド・ルカーサ、ここのギルド長をしている」

「ギルド長……」

 目の前にいる男性は、ディアンがまだ一度も見た事がなかったギルド長だと名乗った。

 ディアンが固まっていると、言い訳するように言葉を続けた。


「君がDランクのディアンだな? 俺は昨晩、君が関係する報告書を読んだ。今日はそれで来てもらったという訳だ」

 その件かとディアンは首肯する。

「まさか町の近くに、“ドンビッキ”がいるとは思っていなかった。あの依頼についてはこちらの落ち度で、本来ならばCランク相当の依頼になるはずのものだ……申し訳なかった」


 ディアンは目を見開いて頭を下げるギルド長を凝視した。あの魔獣の名前が“ドンビッキ”という事も初めて知ったし、ギルド長が頭を下げた事にも驚いたのだ。


「ちょ、ちょっと待ってください。依頼を受けた時点では原因が分からないものだと聞きました。だから落ち度というのは大げさ過ぎませんか?」

 自分も無事だったのだし、ギルド長が頭を下げる程なのかとディアンは困惑を隠しきれなかった。


「いいや、大げさなものなど何ひとつない。冒険者ギルドは第一に冒険者を守る機関であり、その為にギルドへ来る依頼も無理のないようにランクを設定している。しかしそのランクの設定を見誤っていたとなれば、ギルドの信用にも影響する事だ。いくら何が原因かが分からなかったとは言っても、ギルドは最悪の状況を想定しておくべきだった」

「…………」


 そうまで言われてしまえばディアンが否定する事などできなくなってしまう。

 それに本人が問題ないと言っても、組織としての規律や理念に関する事はディアンが口を出せる範囲ではない。


「分かりました。ギルド長の謝罪を受け入れます」

 ディアンが了承すれば、ギルド長は顔を上げてニヤリと笑みを浮かべた。

 この人変わり身が早過ぎだろう、とディアンは内心で突っ込む。

「そう言ってくれると助かる。ああ、それからあの報酬はギルドから上乗せをする事にした。依頼主からは銀貨一枚だったが、ギルドから銀貨二枚を追加しておいたから、あとで確認してくれ」


 その言葉に、またまたディアンが目を見開く。

 この人は人を驚かせるのが好きなのかと、勘違いしてしまいそうな頻度で何かを言ってくる。

 ただ今度は嬉しい申し出だったので、ディアンはニッコリと笑みを作って頭を下げるに留めておいた。


「いやぁそれにしても君、ディアンだったか。ディアンの体つきでよくあの魔獣を倒せたな。しかも巣穴に連れ込まれたっていうじゃないか。あのドンビッキの一番厄介なところは、舌を相手の体に巻き付けて巣穴に連れ込む習性なんだよ。連れ込まれると長い通路を通って巣穴に着くまで決して足を止めないという。直ぐに喰う事はないらしいが脱出するには八方ふさがりで、まさに袋の鼠だと聞くが……」

 改めて言われるとまさしくその通りと、ディアンは状況を思い出して身震いをする。


「それで、ディアンはソロだ。どうやって一人で外に出たんだ? 報告書にも詳しく書いてなかったが……」


 一気に聞きたい事をまくし立てるギルド長に、どうやって説明するかとディアンは頭を悩ませた。だがどうやっても何も、ただありのままを説明するしかない。


「御期待には沿えないと思いますが……。僕は自力で地上に出られた訳ではありません」

「ほう?」

 ギルド長は面白がるように目を眇めた。

 いや、報告書を読んだのならそのように書いてあったはずだ。ディアンは何度話しても、同じ事しか言えないのだから。


「ではどういう事だ?」

その問いに、ディアンは記憶をなぞる為に手元に視線を落とした。

「……僕が地中の暗闇の中で立ち竦んでいると、いきなり上部に穴が開いたんです。それで空気も入って来て、僕は急いで外に出ました」

「誰がやったんだ?」

「―――それが分からないんです」

「ふぅ~ん」


 ギルド長らしからぬ言い方に瞠目したディアンが目線を上げれば、膝に肘をついて顎を乗せているギルド長と視線が合った。

 これは信じていない目だろうとディアンは直感する。

 だがどう考えても、あんな狭い場所で自らが内部爆発を起こせる訳がないと分かるはずだ。

 とはいえ、ディアンは光が入ってから巣穴が狭いと分かった為、もし爆発させられる物があったら一縷の望みをかけてやっていたかもしれない。だがそれは今言う必要はない事だ。


「僕は咄嗟の事で何も荷物をもっておらず、巣穴に引き込まれた時は背負う剣と腰に差したナイフしか所持していませんでした」

「…………」

「それに三メトル四方しかない空気の滞った空間で、自ら爆発を起こす馬鹿はいませんよ」

「―――確かに、報告書にも爆発は上から起こしたような跡があったと書いてあった。だがそうなるとディアン一人で依頼を受けた訳ではなくなるな?」


 それでか、とギルド職員が訝しんだ理由に思い至る。

 ディアンはソロで冒険者登録をしているし、あの依頼もソロで受けている。どうもしつこく聞いてくると思ったが、ディアンが密かに複数人で依頼を処理していたと思われていたようだ。


 ギルドの依頼は必ず冒険者登録をした者が行い、複数人で受ける場合はパーティー登録をしてから依頼を遂行するのが規則となっている。たまたま手を貸してくれた者がいた場合はその事実をギルドに報告しなければならず、報告しなかった場合は違反を犯したことになって罰金や謹慎という処罰が下るのだ。まあバレなければ処罰はないのだが、ディアンにそれをする意味はない。


「はぁ~」

 繕う事も忘れ、ディアンは盛大にため息をついてからギルド長を見据えた。


「ギルド長は冒険者を守るといいながら、守るべき冒険者を全く信用していないのですね?」

 虚を突かれたというように、今度はギルド長がギョッと目を開く。

「いや、そんなことはないが……」

「いいえ。それではなぜ、僕の述べた事実を受け入れないのですか? 外から開けてくれた穴については、僕もお礼が言いたくて誰がやったのかを知りたいんです。目撃した人はいなかったのか、そこに人がいた形跡はなかったのか、色々と自分なりに調べました。でも未だに誰がしてくれたのかが分からないんです。あの場所には人がいた痕跡すらありませんでしたから……」


 ディアンが一気に話したあと、暫しの沈黙が室内に留まった。


「――――――疑って悪かった」

 しおらしく謝罪するギルド長に、ディアンは込めていた肩の力を抜いた。


「僕の話を信じてもらえたなら、よかったです」

「冒険者ギルドは、君が言ったように冒険者を守る組織だ。だが守るはずの冒険者の中には、組織の目を盗んで悪さをする奴らも存在する。俺達は真面目な冒険者を支援しているが、一方で不真面目な冒険者は矯正したいとも思っている」

「では僕が、不真面目に見えたんですね?」

「…………見えねえ」

「それではなぜ?」

「最近の奴らは巧妙でな……」

 ディアンは“なるほど”と遠い目をする。

「――――――ギルド長は、色んな意味で大変なんですね」

「まあな」

 ギルド長は疲れた顔で肩を竦めた。


「それでは、真面目な冒険者から一言いいですか?」

「……おう、改まってなんだ?」

「これからも僕達の為に、頑張って働いてください」

「――――――ああ、分かってるって」

 クックックと抑えた笑いを添えて、ギルド長レイモンドはディアンの前で初めて眼差しを緩めた。


 最終的には変なやり取りになってしまったが、追加報酬の話や誤解も解けた事で、ディアンも(わだかま)りなくニッコリと笑みを作った。


誤字報告をいただき、ありがとうございます。

助かります!

引き続きお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

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