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神獣と選ばれし王 【伍國豊穣記】  作者: 盛嵜 柊 @ 『シド』書籍化進行中
~第一部 白き獣と次代の王~

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35/50

〔35〕言い忘れてた

 打ち合わせを終えたディアンは、冷めてしまったパンケークとお茶を完食したあと、ウォーレンと共に領主館へと向かっていった。


 今日はまず自警団の動きを知る事と、館の人物の動きを監視する予定だ。

 その動きを踏まえて二人は明日、行動を起こす事にした。


 二人は領主館の正面近くにある建物の影に身を潜める。その場所からは隣の自警団の詰所と館の門が見えて、人の動きを把握する事ができた。


 配置についてすぐ、ディアンの頭にリヒトの声が響いた。

『近くにいるようだな』

 ディアンは目線を動かしウォーレンを見るが、彼はリヒトの声に気付いた様子はない。


(館の門前にいる)


 声に出せず伝わらないとは知りつつも、ディアンは心の中で返事をする。

 すると思いもよらず、ディアンの返事に続いて言葉が届いた。

『そなた一人か?』

(……いや。ウォーレンというBランク冒険者に協力を仰いだ。今は彼と同行している)

『うむ。ではそなたとは以後も別行動としよう』


 どうやら声に出さずとも、会話が成立しているようだとディアンは胸を撫でおろす。これでリヒトとも連絡が取れるというものだ。

 とはいえそうであるならば、先に教えてほしかったと思わなくもないディアンであるが。


(助かる。それで、アメリアの様子は?)

『変化はないが』

(が?)

『その娘に変化はないが、あれからまた数人が連れてこられた』

 ディアンは顔をしかめる。

(今、そこには何人いる?)

『今は六人だな』

(二人増えたのか……)

『まだ連れてくると言っていた』

(……分かった。僕は外から見張っているから、リヒトは引き続きアメリアを頼む)

『承知した』


「……アン? ディアン?」

 ディアンがリヒトとの会話を終えれば、ウォーレンが心配そうにディアンを覗いていた。

「ん? ああ悪い、考え事をしていた。何だ?」

「今自警団員が戻ってきて、子供を連れて門の中へ入っていった」

「子供……」

「ああ。怯えたようにしていたから、自ら進んでついてきた訳ではなさそうだったけどね」

「それは多分、税が払えなかった家の子供だろう」

 ディアンがそう付け加えれば、以前ディアンがした話を思い出したのか、ウォーレンの眉間にシワが寄った。


「そういった噂もあると言っていたね……」

「それは実話だった」

「そのようだね」

 ウォーレンはそう言うと、本当に嫌そうに口を引き結んで門を睨んでいた。



 ◇ ◇ ◇



 その日の夜、ウォーレンが泊っているという宿の食堂で、ディアンとウォーレンは顔を突き合わせていた。


 日も暮れて館周辺の流れがある程度見えた段になり、何処かで打ち合わせをしようと話したところで、行く場所に悩んだ末である。

 まさか冒険者ギルドへ行くわけにもゆかず、かといって町の食堂では酒を飲んでいる者達が騒がしく落ち着いて話をする場所でもなかった。


「それじゃあディアンの家に行く?」とウォーレンには言われたが、まさか「異性だから駄目だ」とも言えず言葉を適当に見繕い、家に来ることは辞退してもらった。

 そうした流れで、ウォーレンが泊っている宿の食堂の片隅に落ち着いた訳である。

 因みに、ウォーレンが泊っている宿はある程度値の張る宿であり、食堂を使う者も皆静かに利用する品のよい客層だった。


「今日一日見た限りでは、自警団員は五十名程度というところだったね」

「みたいだな。普段は余り見回りもしていないのに、案外人数がいるんだな」

「今の時期はなんだか忙しいみたいだけどね」

 ウォーレンは自分で言いながら、嫌そうに口を歪めた。


 その理由は多分、税金の回収と人を連れてくる事、そして連れてきた者を何処かへ移動させるからだろう。


「なあ。罪を犯した者を強制労働をさせる場合って、普通は何処に連れていくんだ?」

 ディアンが聞いた噂では、税金が払えぬ者は労働を対価として差し出す為に連れていかれると聞いている。


「ああ、税が払えなかった者達の事だね? 一般的な犯罪者の強制労働とは、国や自治体の設備や施設を整える為に働く要員にされる事をいい、それらは収容所へと連れていかれる。国内には収容所が何か所かあって、ここから一番近いのは、そうだね……西隣りのアドラージュ領にある施設かな」

「そうなのか……」

 ディアンは手元に視線を落とす。

 だとするとアメリアがこの町から連れ出されたとしても、そこへ助けに行くこともできるかもしれないとディアンは考えた。


 しかし。


「でも恐らく、館に連れていかれた者は、そこへは行かないと思うよ」

「え?」

 ディアンが驚いて顔を上げれば、ウォーレンは恐ろしい程の眼差しで食堂に灯された明かりを見詰めていた。

 そしてウォーレンの目元が穏やかになってから、その瞳がディアンの視線に戻ってきた。


「私が先程、人身売買という言葉を出したことを覚えているかい?」

 訊かれれば確かに、最初に訳を話した時にウォーレンがそんな事を言っていた気がする。

「覚えてる、けど」

「私はね、そういう組織が裏で動いているという噂を知っているんだよ」

「え?」

「しかし、まさかこんな辺境の町でとは思わなかったけどね」

「どういう事だ?」

 ディアンは首を傾げる。


「先程ディアンは訊いたね? 強制労働者は何処に連れていかれるのかと」

「ああ……」

「その施設は、ここ何年も入所する者の人数が減っているんだよ」

「?」

「つまり、刑を終えて退所する者がいても、入所する者はいないという事だね」

「……」

「そしてディアンは私に言ったよね? 毎年何人も何処かへ連れていかれ、そしてそれらが戻ってくる事はないと」

「ああ。そういう噂だった」

「それが矛盾を生じさせているんだ。つまりここから連れていかれた者は、その施設には連れていかれてはいないという事だよ。そうでなくば辻褄が合わないんだ」

「じゃあ」

「恐らくは何処かへ売り飛ばされている、と私は考える。それが人身売買という言葉に繋がる」

「そんな…………」


 それではアメリアをここで助けられなければ、彼女は何処かに売り飛ばされるという事になる。

 アメリアはディアンの親友であり、そして家族でもある身近な存在だ。そんな彼女が何処かへ売り飛ばされるなどと、ディアンが許せるはずもない。

 ディアンはきつく目を瞑り、真っ赤に染まる視界を強制的に塞いだ。


『どうした』


 その時、ディアンの脳裏に凪いだ声が聞こえ、ディアンは止めていた息を吐き出した。ディアンの心の中に宿った憎しみを、リヒトが感じ取ったのかも知れない。


(そこにいる人達は、人身売買で売られる可能性がある)

『…………』

(だから絶対に助け出す。―――リヒトも力を貸してくれ、頼む!)

『無論』

(……頼りにしてる)

『任せておけ。いざとなれば、吾が全て屠る』

「ははっ」

 リヒトの容赦ない言いように、ディアンは思わず小さく声を零した。


「ん? どうかしたのかい?」

 ウォーレンが首を傾げてディアンに問うも、ディアンは首を振って苦笑する。

「なんでもない。絶対に(みんな)を助けような」

「みんな? 二人だけではないのかい?」


 そんな返しに、そういえばアメリア以外にも何人も捕らわれた者がいる事を、ウォーレンに伝えていなかったとディアンは思い出す。


「今あの地下にいるのは七人のはずで、まだ増える可能性もある」


 ディアンの言葉を聞いたウォーレンが、目を零さんばかりに大きく開いた。

「ちょっとディアン……それ今いう事かい?」

「いや、言い忘れてたと今思い出した……悪い」

「はあ~。それなら作戦を考え直さないといけないな……。それだけの人数を助けるのであれば、助け出したあと何処へ誘導するかも考えないとならない。一人二人を匿うならまだしも、それだけの人数では追手が掛かった場合に匿う場所も確保する必要があるからね」

「ほんと、ごめん……」

「いいよ、今伝えてくれた訳だから。――ただしそれが明日だったら、本当にまずかった事だけは覚えておいて?」

「……肝に銘じておく」


 こうして二人は改めて作戦を立て直す為、この日は夜遅くまで話し合う事になったのである。



こんばんは。

いつも拙作にお付き合いくださり、ありがとうございます。

そして、昨日は「シド」の話にもお付き合いいただき、ありがとうございました。

ディアンの話も何だか慌ただしくなってきたようです。

こちらも引き続きお付き合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします。

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