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神獣と選ばれし王 【伍國豊穣記】  作者: 盛嵜 柊 @ 『シド』書籍化進行中
~白き獣と次代の王~

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23/25

〔23〕遠方へは余裕を持って

 今日ディアンが受けた依頼は普通ならばパーティーで受けるようなものであり、ソロならば一泊を要するものだった。

 魔獣の生息地が遠い為だ。

 パーティーであれば、時間を掛けずに魔獣を倒して戻れば日帰りで済む距離だが、人海戦術ができないディアンでは日没までに戻る事はまず不可能。

 それ故今日のディアンは予め、野営する準備を整えてギルドに向かっていたのである。



 町から南下する街道を進み、黄色く色付き始めた景色を視界に納めながら歩いていく。前回の遠出は数日前だった。その時は日帰りできる距離だったものの、戦闘や事後処理に時間が掛かり、帰りが遅くなって翌日は寝坊するハメになってしまったのだ。

 その為今回はその反省も踏まえ、始めから余裕を持って行動する事にしたディアンである。


 今回の獲物はアルマジーロという魔獣だ。

 大きさは小型に分類されるものの、背中の皮膚は甲羅のような形状で、硬い鎧を纏っている為に刃物が通らない。だがその硬い皮膚が素材として求められ、こうして依頼として掲示板に貼り出されている。

 攻撃は風を纏った体を使って突進してくるだけで、あとは丸まって防御するだけと比較的弱い魔獣だと言えるものの、その防御は完璧で、仕留める場合はいかにして隠された腹を突くかが鍵になってくる。

 という情報は冒険者ギルドで仕入れたもので、ディアンのアルマジーロ討伐は今回が初めてである。


 そのアルマジーロの生息地は町から南下する街道に沿って四時間程歩き、そこから東にある森を抜けた山の麓の野原にある。片道六時間の道のりだった。



「ふう~。話し相手がいないのは辛いな」


 ディアンは森の木陰で独り言ちる。

 もうすぐ森を抜けるだろうという頃に、沢の音色に誘われて昼休憩も兼ね倒木に腰を下ろしていた。

 頭上に覗く流れる雲を仰ぎながら、昼食に買ってあったサンドパンを頬張った。


 先日、ディアンは冒険者になってから初めてパーティーを組んで行動した。

 その時は他人が居た事で疲れてしまったが、話し相手が居た為に一日があっという間に感じたのは否めない。それにウォーレンとの会話は得る物があり楽しかったといえて、一度その感覚を味わってしまった為に黙々と歩くだけでは少々物足りないとディアンは感じてしまうのだ。


「こればっかりはソロを選んだ自分のせい、だからな」

 そう呟いたディアンの脳裏にいつも楽しそうなロセット達三人の顔が浮かんだものの、(かぶり)を振ってそれを追い払った。

 ディアンはサンドパンを口一杯に詰め込んで、水で押し流す。

「さてと。行きますか」

 休憩もそこそこに歩き出していったディアンを、沢の音色と共に薄紫のリンドウが静かに見送っていた。



 森を抜けた途端、視界に広がった一面の野原を色なき風が通り過ぎていった。

 そこに立ったディアンの羽織る外套の裾を弄ぶように、熱のない風がディアンの存在をも包み込んでいく。

 足元を埋め尽くす青い地に所々背の高い草が白い穂を揺らすその向こう側で、仰ぎ見る山は頂を黄色く染めながらディアンの訪れを静かに見守っていた。


「さて。この辺りと聞いたけど……」


 アルマジーロは夜行性で、陽のある日中は地中の穴で寝ているはずだ。

 それではなぜ冒険者が日中にそれを探すかといえば、巣穴に眠るアルマジーロを見付ける事ができれば、それが一番簡単な捕獲方法だからである。

 アルマジーロは鎧を纏うが故に戦いに持ち込めば長期戦になるが、動きの鈍る就寝時を狙えば捕獲だけなら短時間で済むという訳である。あとは息の根を止めるだけで、その方法は冒険者によるだろう。


 たなびく裾をそのままに、ディアンは緩やかな起伏の野原の中へと歩を進め、そして目を閉じた。

 周辺に薄っすらと生き物の気配を感じるが、肌を刺激する危険な類のものはない。多分、寝ているアルマジーロもそれに含まれているのだろう。

 ディアンは瞼を上げて五感を研ぎ澄ませると、魔獣の気配を求めて広い野原を静かに歩き出して行った。


 この広さでは見付けるのも時間との戦いになるはずだ。

 今はまだ陽が高い昼間だからいいようなものの、陽が落ちればそこからは魔獣や獣達の時間となる。それまでにディアン一人で目的の魔獣を捕獲しなくてはならない。さもなくばディアンの行動は後手後手に回り、挙句、依頼の失敗すらあり得るのだ。


 ディアンは集中してアルマジーロの気配を探した。


 ディアンはチリリと肌を刺す刺激に足を止める。

 弱い刺激だがこれは魔獣の放つ気配に相違なく、巣穴で眠る物からであると確信する。

 野原を歩き回る事一時間。その感覚が強くなるほうへと向かいながら、ディアンは腰に下げた小さなポーチを探って目当ての物を握り込んだ。


 目の前に見えてきた茶色の地面は、草むらに隠されるように30セッチ程の穴が開いていた。

 一筋の風が藍色の髪を撫でて通り過ぎる中、ディアンは足音を消して穴へと向かっていく。ディアンは手にある物を強く握り込んで、カチッという音を立てたそれを穴の中へと放り投げた。

 ディアンがすかさず飛び退って距離を取ったと同時、穴からボンッという音がして白煙が上がる。


 今投げ込んだ物は安価な煙玉と呼ばれるもので、衝撃を与えると一秒程で白煙を出すだけのただの目くらましだ。

 ディアンはこれまでにも地中に住む獣や大型の獣などに遭遇した時に使用してきた物で、下級冒険者には常備すべき必須アイテムなのである。


 ディアンは続けて網を放つと、手から離れた途端それは解けるように広がってパラリと穴の入口を覆う。

 ディアンの足元に微かに振動が伝わり、間を置かずして穴から何かが飛び出してきた。


 だがそれはディアンが思い描いていた物とは異なり、白い体毛を纏う物だった。


『キィー!』

「っ!」


 ディアンは更に後退して二度三度と跳び退り、目線は穴に固定したまま背後から剣を引き抜いて両手で構える。


「間違えた……アルミラージの巣だったのか」

 その光景を見詰めながら、ディアンから悔しさを滲ませた言葉が漏れる。

「どの穴がアルマジーロかなんて分かんないってば……」

 ディアンはため息を押し殺して、わらわらと出てくる白い魔獣へと意識を集中させた。


 六、七、八―――数えれば十体の白いウサギがディアンを囲むように広がっていった。その内の一体だけは網に絡まって動きを止めているが、それ以外は怒りを湛えた眼差しでディアンを見詰めている。


「そういえば、こいつも“白”だったな」

『ピキィー!!』


 場違いな事を考えるディアンへ、アルミラージは示し合わせたように一斉に飛び掛かってきた。即座にディアンも腰を落とし、地を蹴ってその集団の中へと突っ込んでいく。


 ―カキーン!―


 振り下ろしたディアンの剣を、一体のアルミラージが額にある小さな角で器用に弾く。その隙に他の個体がその背後から襲い掛かるという連携を見せ、ディアンが息をつく間のない程にアルミラージとの応戦は続く。

 その一体一体は小さく弱いといえるが、それが集団となれば話は変わってくる。

 赤い目を怒りで染めた魔獣達は、少しずつ巣穴から移動しながらディアンへと休みなく襲い掛かってきた。


 ―キーン! シュパッ!―

『キュウ!!』

 ―シュッ! ズサッ!―

『キュイー!!』


 それでも一体、また一体とアルミラージは数を減らしていき、ディアンが荒い息を吐く頃には網に掛かった最後の一体となっていた。

 ディアンは風になびく外套を背後に振り払うと、網の上から垂直に刃を下ろして止めを刺す。


 ―ザクッ!―

『キューゥ!!』


 一見可愛いウサギに見えるアルミラージは、その容姿から相手を油断させて相手を襲う魔獣だ。

 確かにディアンも可愛らしい物を切るのは心が痛まぬ訳ではないが、どんなに可愛く見えたとしても、それは人を襲う魔獣である事を忘れてはならない。


 ディアンは剣を振り、背に収めてから背後を振り返る。

 これから野原に散らばるアルミラージを全て解体してから、場所を変えてまた探索に出なければならないのだ。

 遊んでいる暇はないとディアンは自分にため息を吐き、終わりの見えない作業を開始するのだった。


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