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神獣と選ばれし王 【伍國豊穣記】  作者: 盛嵜 柊 @ 『シド』書籍化進行中
~白き獣と次代の王~

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〔19〕微笑みの圧

 向かってくる光は、合間の木々をぬって更に速度を増している。

 その背に受けた矢はもう何本もあるというのに、一向に弱る気配がないのは想定内だ。


『魔獣は急所を突かなければ倒れない。しかしこいつは急所である胸の位置が見えづらい。だから私が依頼を受ける時は、感覚的なところで“目”を狙うんだよ。目を射抜けばどんな物でも動きが鈍るからね。そうすればあとは簡単さ』


 ウォーレンの言葉がディアンの脳裏をよぎる。

 Bランク冒険者が簡単だと言ってもそのまま鵜呑みにはできないものの、確かに顔面を狙うのはありだと思っている。だがまだ見た事もない魔獣の部位など、ディアンに分かろうはずもない。


 ディアンも負けじと速度を上げて間近まで接近すると、剣を脇に構え切っ先を向けて突っ込んでいった。


 ディアンを狙って突き進む魔獣は、ディアンが迫ろうともお構いなしだ。弾き飛ばしてやるとばかりに緩めぬ速度を維持した魔獣と重なり、ディアンは大きな光に飲み込まれる。


 ――ガキーンッ!――


 剣に当たった魔獣によってディアンは弾き飛ばされる。

 飛ばされた先に迫る木に、打ち付ける寸前で身を(ひるがえ)し体勢を立て直したディアンは、幹へ着地するように足を付き、その反動で魔獣へと取って返す。

 その先には、まだ突き進む魔獣の後姿。

 それに追いついたディアンは、剣をその背に突き立てる。


『ブギャーアッ!!』


 痛みに身を(よじ)る魔獣に振り落とされぬよう、ディアンは剣を握る手に力を込めて背に下り立った。

 ググッと更に力を込めて剣を押し込めば、流石に振り切れないと諦めたのか、魔獣は狂ったように走り続けた。そして速度を上げた魔獣は迫る大木の直前で身を捻ると、勢いをつけたまま己の背を大木へと激突させた。


 ――ドォォーン!!――


 だが、すんでのところで剣から手を放していたディアンは、宙に漂いながらそれを見ていた。それらは緩慢な動きとして捉えられ、ディアンの目にはハッキリと映っていた。

 トンッという軽い音と共に地に下り立ち、ディアンは瞬時に間合いを取るべく飛び退った。

 それと同時に振り向いた魔獣の、怒りの咆哮が森に轟く。



『ブヒィーー!!!』



「ディアン、来るよ」

 上空から振った声に頷き、ディアンは身を低くして魔獣へと走り出す。

 魔獣は降り注ぐ矢を頭部で振り払うと、身を屈めた瞬間、ディアン目掛けて突っ込んできた。


 絶え間なくウォーレンから放たれる矢が、ディアンの横を通過して魔獣の右正面に突き刺さる。

 ――ザクッ!――

 刹那、怯んだ魔獣とディアンは正面からぶつかり合った。

 ――グサッ!――

『グギャァーー!!!』


 ディアンが魔獣の前面に突き立てたのは、腰に所持していた短いナイフ。それを互いの勢いを殺さぬまま深く正面から差し込んだディアンは、止まる事ができない魔獣の下で引きずられていった。


「手を放せ!」


 焦ったようなウォーレンの声に急いで手を放せば、ディアンは土埃にまみれて止まるものの、地を掻く地響きは続いている。


 ――ドドオォォーン!!――


 続けて聞こえた音に身を起こす。

 そこでディアンが見たものは、木の幹に(もた)れるようにして倒れた大きな茶色い塊だった。


「茶色だ……」


 力が抜けて地面に座り込めば、なんとも間の抜けた感想がディアンの口を伝う。

 近くでタンッという音と共に風が舞い、見上げたディアンの隣には笑みを浮かべたウォーレンが立っていた。


「お疲れ様。怪我はないかい?」

 引きずられた事を心配してか、ウォーレンが屈みディアンを覗き込む。

「ああ。服はすり切れたが、問題ない」

 ディアンは起き上がり大丈夫だと態度で示せば、ウォーレンはひとつ頷いて魔獣へと振り返った。


「思ったより大きな個体だったね。お陰で矢の数が増えてしまったよ」

 そう言ったウォーレンは、地に刺さる矢を回収し始める。

「そうなのか?」

「ああ。私が以前見た個体よりも大きいね。おっと、ディアンも先に剣を回収した方がいいよ」

「そうだった」


 小走りで魔獣に近付きその背に突き立つ剣を力の限りに引っ張るが、しかし柄の根元まで深々と突き刺さった剣は動こうとしなかった。

 うんうんと力むディアンに気付いたウォーレンが、「抜けないのかい?」と近付いてきた。

「まずい、深く入り過ぎてビクともしない……」

「もしかすると骨に刺さっているのかも知れないね。こいつは自分で深く刺していたようだったし」


 確かにディアンを振り落とす為とはいえ、剣の刺さった背中を木に激突させていたのだ。それで骨まで深く刺さったとしても何もおかしくはない。それにしてもその状態でよく動けたものだと感心するディアンである。


「どうせだからこのまま解体してしまおう。結局素材を持ち帰らなければならないのだし、剣を引き抜くならばそのほうが手っ取り早い。駄目だったら最終的に骨を砕けばいいよ」

「あははは……」


 物騒な事を軽く言ってのけるウォーレンは、戦闘中の張り詰めた気配はなりを潜め、当初の爽やかな雰囲気に戻っている。どちらが本当の彼なのか……と過ぎる思考をディアンは瞬時に消した。


 その後二人で解体に取り掛かり、納品する外皮や爪などの部位を剥ぎ取っていった。それらは血を拭き取り、油紙と呼ばれる梱包材に包んで積み上げられていく。

 作業中、ディアンは視線を手元に向けながら何気なさを装って話し出す。


「ウォーレン、さっきは助かった。流石だな」

「おや? なんの事かな?」

 ディアンはウォーレンの視線が自分に向いていると認識するも、視線を手元に落としたまま会話を続けた。

「矢で、魔獣の動きを制限してくれていただろう?」

「ふふふ。気付いていたのだね」

 嬉しそうな声を出すウォーレンに、やっと視線を上げて対面を見るディアン。


「ウォーレンの矢は一見外れているようにも見えたが、それらは魔獣の動きを単純化させる為の牽制だったんだろう? そのお陰で魔獣の軌道を読むのが楽になったから助かった。そんな援護方法もあると知って今回は勉強にもなった」

「勤勉だね、いい事だよ。尤もそれは射手限定の援護方法だからディアンには使えないけれど、今後他の射手と共闘する場合の参考にはなるだろう」

 ディアンは素直に「ありがとう」と頭を下げる。


「そう面と向かって言われると照れるね。でもその代わりディアンには体力勝負をさせてしまったから、お詫びも兼ねてだけどね」

「いや、僕はどのみち体を使った接近戦でしか戦えないし、身が軽い事しか取り柄がないから。そこは気になくていい」

「ふふふっ。ディアンは気配りもできて、ほんと男にしておくのは勿体ないね。女の子だったら絶対手放さないのに」

「ははは……」

 内心冷や汗をかきながら、ディアンは男の振りをしていてよかったと胸を撫でおろしていた。



 その後解体したクリプトンボアの骨に深く刺さっていた剣も無事に回収し、二人はそのまま帰路につく。

「ボアの肉は美味しいから持って帰ろう。買い取りも高額だし、勿論自分で食べてもいい」

 というウォーレンの一言で、肉も持ち帰る事になった為大荷物だ。


 太陽の方角を確認し、南に下りながら真っ直ぐ町に向かって森を進む。

 下りは楽に見えて地味に足に来る。ディアンは知らず無口になってウォーレンの後ろを付いてくと、少ししてウォーレンがディアンを振り返った。


「そういえば、ここの奥にもう町はないのだったね?」

「ああ。この山の奥にはもう際涯(さいがい)しかない。辺境だからな」

「そうか。私はまだ際涯を一度も見た事がないんだが……。折角辺境に来たのだからこの目で見てみたいと思っていたんだよね」


 またウォーレンが面倒な事を言い出したと、ギクリとディアンの肩が揺れた。


「いや、また今度にしたらどうだ? 今日はもう流石に町に戻ったほうがいいって。荷物もあるし……」

 慌てて町のほうを指さすディアンに、ウォーレンの爽やかな笑みが突き刺さる。

「そうかい? でも私がまたここに来るとは限らないからねえ。……駄目かい?」

「ぐっ」

 ディアンが思わず渋い顔をするも、ウォーレンは微笑みを保ったまま。


「…………わかったよ」

 流石Bランク冒険者。

 ウォーレンの笑みの裏にある圧に負け、渋々折れるしかなかったディアンであった。


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