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神獣と選ばれし王 【伍國豊穣記】  作者: 盛嵜 柊 @ 『シド』書籍化進行中
~白き獣と次代の王~

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18/22

〔18〕クリプトンボア


「ディアンは最近、王の噂を聞いた事はない?」


 説明するといったウォーレンの話の流れが見えず、ディアンはコトリと首を傾けた。

「最近の王の噂? まあ聞いたと言えば聞いたけど?」

「ねえ、その噂はどんなものだったか覚えているかい?」

「ええっと――『近く、王が変わるだろう』っていう噂だった」

 ディアンの答えを聞いたウォーレンは、よくできましたと言わんばかりに笑みを作った。


「やはりここまで噂が広がっていたんだね」

「どういう意味だ?」

「王の噂が出るのは決まって中央からだよ。その中央から出た噂が時間をかけて、国中の至るところに伝わっていく。そうやって国の端にあるソーラムまでにも届けられた」

「って事は、コレはもう皆が知っている噂なんだな?」

「そういう事。そして出てから随分と時間が経っている事を意味する。つまりその噂を流した中央はもう、次の動きに出でていると考えられる」

「それは分ったけど、どうして特閲……貴族の動きが噂に繋がるんだ? 王が変わるにしても、別に貴族が何かする事はないんだろう?」

「そこは着目点が違うよ。―――自分こそが『次期国王たるや』と考えていたとすれば、その行動は意味を持ってくる」


 自分が次の王に。

 そしてこの国の白い獣を捕まえる。

 つまりは……。

 その思考に辿り着いたディアンは、言葉を失った。


 王になった者はその寿命が只人よりもずっと長くなるのは皆が知る事だ。故に王が変わる周期は短く見積もっても100年。子供が王に選ばれればさらに長く、200年以上は王の世代交代がない計算になる。そんな節目に自分が居合わせるなど千載一遇といえて、だからこそその機会を逃さんとする思考が働いたのだと推測できた。


 ―もしかすると自分が王に選ばれるかも知れない―と。


 ディアンのような平民がそれを考えるなど烏滸(おこ)がましくてそれ以前の問題だが、もしそんな奴がいたとしても『笑止千万』だと取り合ってももらえないだろう。だが現在の王は貴族出身だと伝わっているし、もし自分が貴族であればその可能性が十分にあると勘違いする輩がいてもおかしくはない。


「だからって捕まえてどうするんだよ……」

「さあね。私程度の人間には到底理解できない思考だよ」


 口元を歪めるウォーレンに同意し、ディアンはここまでの話にある意味では納得してもいたのだった。



 ◇ ◇ ◇




 その後、休憩を終えた二人は再び森の中をあてどなく歩きだした。

 時々ウォーレンが「こっち」と示す方向に進み、休憩から半時も経った頃、ウォーレンがピクリと揺れた。


「止まって」

 それまでの柔らかな気配は消え、有無を言わせぬ気迫を纏うウォーレンの声にディアンは背筋を伸ばした。

「いるよ、近くに」

 分かった、とディアンは声を出さずに頷く。

 しかし見回してみても景色は緑一色の森。大きな獣というならそれなりに目立ちそうなものの、そんな塊は視認できなかった。


「奴は景色に溶け込んでいる。ディアンも気配を探ってみて」

 視線は進行方向に向けたまま顔を近付け、最低限の音量でウォーレンは伝えてきた。

 それに頷きディアンは気配を探る。

 ただし、まだ魔獣に慣れてもないディアンが感じ取れる気配なのかは正直分からない。だがこれからの事を思えば、自分一人でも抑えられた魔獣の気配も感じられるようにしなければならないのだ。


 暫し立ち止まったまま二人が顔と視線だけを動かしていると、ウォーレンがゆっくり腕を上げて指をさす。

「あの辺りだね」

 やはり、先に見つけたのはウォーレンだった。

 示された場所はそこから40メトル程先の、立ち並ぶ喬木の隙間に落ちた陽が輝く低木が生い茂る一角。そんなところに……とディアンは内心舌を巻く。


「あの茂みの中に身を潜めているよ。あいつが動き出す距離は、10メトルまで近付いた時」

「分かった。で、見えないのにどうするんだ?」

 ただ剣を向けて突っ込んでいっても先に向こうが反応する事が分っている中、しかも魔獣の位置が少しでもずれていた場合こちらが不利な状況に追い込まれる事は想像に難くない。


「一応策はあるよ。私の方針でいいかい?」

 ここまでの道中、ディアンの戦闘方法は既に伝えてある。

「勿論、先輩の指示に従う」

「ふふ、それならよかった。じゃあ今から手順を伝えるからね」

 ウインクまでしたウォーレンは、ディアンの耳元でその作戦を伝えていく。それは至って単純明快なものでディアンは心得たと即座に頷いた。



「それじゃ、いくよ」


 場所は先程の場所から10メトル近付いただけの木の上。まだ魔獣とは30メトル程の距離があり、隣の木に登ったディアンが頷いた。視線を戻したウォーレンは、軽い動作で引き絞っていた弓から右手を放す。


 ―シュンッ―


 立ち並ぶ木々などまるでないもののように、放たれた矢は目で追えぬ程の速さで一瞬にして低木の中へと消えた。それが茂みに消えると同時、何処からともなく獣の悲鳴が響いた。


『ブギャーッ!!』


 間を置かず茂みが発光し、中から体長3メトル程の塊が現れる。

 ただし全体が光に包まれているせいで、眩しさ故に細かいところはよく見えない状態だ。これが発光する魔獣かと、ディアンは話に聞いた通りの光景に深く納得する。百聞は一見に如かずとはこの事だ。


 出てきた魔獣は顔らしき部分を空に向け、しきりに辺りの匂いを嗅ぐように動かしている。その背に一本の矢を立てて。


「まだ私達の居場所を特定できてないようだね。じゃあディアン、頼んだよ」

「了解」


 言うが早いか、ディアンは勢いをつけて飛び出していく。

 隣の木またその隣の木へと素早く飛び移りながら、魔獣との距離を半分に詰めてから地に降りたディアンは、抜剣し光る魔獣目掛けて駆け抜けていく。それに気付いた魔獣も地を掻き殺気を膨らませると、ディアンに向かって猛烈な速さで移動を始めた。


 蛇行しながら走るディアンの横を、ウォーレンの援護弓射が通り過ぎていく。先程の一射だけでもウォーレンが伊達にBランクではない事は証明済みで、ディアンが何の心配もなく走れるのはありがたかった。


 タンッと地を蹴って飛び上がったディアンの足元を、目標を見失った魔獣が通り過ぎていく。後方で『ドーン』という衝撃音がして、魔獣が何かに激突したと知る。

 振り向くと、勢いを失わぬまま魔獣が木に激突している姿が目に入る。続けてメリメリッという悲鳴を上げた木が、周りの木を巻き込み向こう側へ倒れていった。巻き込まれた木の上に居たウォーレンが、直前に長い鞭を使い別の木に乗り移ったのが見えた。


「へえ、鞭も使えるのか。確かに射手が木伝いに動き回れる手段があれば、それだけでも戦況が有利になるな」

 立ち止まって見ていたディアンは、感心しながらウォーレンを見た。

 やはり上位に行く者は違うな、と。


 先程の打合せでウォーレンが言った言葉の意味。

『私の位置を気にする必要はないよ。ディアンの動きたいように動いてくれていいからね』

 ディアンはここで理解した。


「なるほど」

 ディアンが独り言ちたところで、「ほら、私に見惚れている暇はないよ」と上から声が降った。

 ウォーレンの揶揄う言葉は、その実ディアンを案ずるものだ。その証拠に矢は魔物に向かって降り続いていた。

 ハッとして光る物を見れば、体勢を立て直して再びディアンへ向かってくるところだった。


 上位冒険者との共闘に浮かれている場合ではないと、ディアンは剣を握り直し、再び魔獣へ向けて再び走り出していった。


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