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神獣と選ばれし王 【伍國豊穣記】  作者: 盛嵜 柊 @ 『シド』書籍化進行中
~白き獣と次代の王~

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17/25

〔17〕木漏れ日の中

 町の情報提供という名の無駄話をしながら二人は山の奥へと足を進め、昼近くなった頃に周辺を見渡したウォーレンが(おもむろ)に歩みを止めた。


 今回の魔獣は特殊で目撃情報がある訳でなく、二人は話し合った結果、ウォーレンの『勘』に頼った行動を取る事に決めていた。

 本来ならば地元のディアンが先導できればよかったのだが、当然、初見の者が魔獣の隠れていそうな場所など分かるはずもない。

 そこはウォーレンも分かっていると了承した為、今までの経験値と勘を持つ彼にお任せしたという形だ。


「どうしたウォーレン、魔獣なのか?」

 立ち止まるウォーレンに、ディアンが小声で問いかける。

「いいや? そろそろ昼だなぁと思ってね。ディアンもお腹が空いただろう?」


 ディアンはガクリと肩を落とす。

 ウォーレンが急に立ち止まるから魔獣がいたのかと身構えたのに、呑気な答えが返ってきたのだ。緊張が空振りに終わったディアンである。

 出会いからここまでずっとウォーレンのペースに振り回されてきたディアンは、やっぱり付いてきたのは失敗だったのではとこめかみに手を置いた。


「ディアンはまだ成長期だろう? 食事はしっかり摂らないと大きくならないよ?」

「はあ……そうですね……」


 一気に脱力してしまったディアンを見たウォーレンは、今度は何を勘違いしたのか「歩き通しで疲れたんだね?」とまた独自の思考を披露し始めた。もうこれ以上何も言うまい、とディアンはウォーレンの言葉を軽く流しつつも、結局ここで休憩がてら昼食を摂る事になった。


 今日の昼食は町で買ってきたディアンお勧めの“包肉”だ。それを3つずつ持参している。

 近くの倒木に腰を下ろし、二人は木漏れ日の中で木の葉の囁きを聞きつつ包肉にかぶり付く。少し汗ばんだ体に吹く風が心地よい。


「うん、これは冷めていても十分美味しいし食べやすいね。流石ディアンが勧めてくれただけはある」

「だろう? これなら昼に摂る分としてお腹一杯になり過ぎる事もないし、量も味も申し分ないと思ったんだ」

「うんうん、それは最善の選択だね。それでこれはソーラムの名物かい?」

「ん~どうなんだろう……。僕はこの町しか知らないからなぁ……」

「ああそうだったね。地元の人には当たり前の物だから、聞かれても分からないか」

「うん」

「ふっふっふ」

 何が可笑しかったのか、ウォーレンは嬉しそうに笑う。

「……」

「――ディアンは男にしておくには勿体ないなと思ったんだよ」

「?」


 急に話題が飛び、ディアンは包肉を咀嚼しながら首を傾げた。


「今ディアンが『何故笑っているのか』という顔をしていたから、それに答えたんだよ?」

「………答えになってないんだけど」

「ふっふっふ。冒険者は細かい事には頓着しない者が多い。特に男はね。そういう意味で、ディアンは気が利くよねって事」

「ふ~ん」

 またよく分からない持論が出てきたと、ディアンはそれ以上の会話を放置して黙々と食べる事にした。




「ウォーレン、僕からもひとつ聞いていいか?」


 ディアンは、包肉を食べ終わって喉を潤すウォーレンに声を掛ける。

「ああ、勿論構わないよ? 私も色々と教えてもらった事だしね」

 水筒を仕舞いながら、ウォーレンはニッコリと笑みを作った。


「教えてほしいのは他の町のギルドの事なんだけど……」

「おや? ディアンは他の町に興味があるのかい?」

「うん……この町から出るかは分からないけど、他のギルドがどうなってるのか興味はある」

「そうか。でも何処のギルドもそんなに変わらないよ? 多少冒険者の雰囲気が町によって違うくらいかな」

「へえ。――依頼の内容も?」

「んーそうだねえ。依頼の内容で言うなら“違う”と言えるかな。他はここよりも貴族からの依頼が多い分、依頼内容は多岐にわたるね」

「………ウォーレンはBランクだから貴族の依頼も受けられるんだよな? 確か貴族の依頼はBランクから受注できるんだろう?」

「まあ大して数は出ないけど、貴族の依頼は確かにBランクからだね」

「ーーーその貴族の依頼ってどんなのがあるんだ? 中には変な依頼とか面白い依頼とかもあるのか?」


 ディアンはチラリと隣を盗み見る。

 ウォーレンは遠くの木々を見詰めながら、ディアンへの答えを探していた。


「貴族からの依頼、そうだね…………。多いのは護衛依頼かな。私もそれは何度か受けた事があるよ」

「え? 貴族がなんで護衛を頼むんだ? 貴族は私兵を持ってると聞くけど」


 もしくは、この町のように自警団などの組織を持っているはずだ。わざわざ冒険者に頼まずとも、身を護る分にはそれで事足りるはず。


「そう、貴族は個人で兵士や傭兵を雇っているね。それも少なくはない数を。だから通常時は冒険者に護衛を依頼しない」

「じゃあなんで冒険者に頼むんだ?」

「一言でいえば、見栄えの問題かな。人の見ている所では大勢引き連れていたいのさ」

「……?」

「貴族は“見栄”というものを気にする生き物でね。私は無意味だと思うけれど、彼らは見栄という鎧を纏わないと落ち着かないんだよ」

 関りのない世界の話に頷く事もできず、ディアンはウォーレンを見るに留めた。


「まあ要するに、遠距離移動の際には自分の周りに護衛を多く置きたいという事だね。身を護る為なのは当然として、多くの随従を連れていると“偉そう”に見えるだろう?」

 ウォーレンが告げる余りにもくだらない理由に、グシャリと顔を歪ませるディアン。

「それと、もうひとつ。非常時に“捨て駒”にする為だよ」

「ええ?!」

 捨て駒とは聞き捨てならず、思わずディアンは瞠目して仰け反った。


「私兵は普段から身を護る為に雇っている者達。特に傍に置く者は身元がしっかりした者を選んでいるから、失えばそれを補填する為にまた適した人材を探さなければならない。それは分かるかい?」

「常に自分の近くに置くなら、十分に信用のおける奴を選ぶのは……分かる」

「そうだね。一方で、冒険者はその場限りの者達。その時にだけ数合わせでいてくれればいいし、最悪な事態が起こった場合は真っ先に冒険者を動かして戦ってもらう。その間に、護衛に護られた雇い主は逃げられる。要は足止め要員だね」

「っ消耗品かよ。冒険者を何だと思ってるんだ……」

「私もディアンと同意見だよ。しかし、貴族とはそういうものだと覚えていたほうがいい」

「ぐっ……そう、だな」


 ディアンが視線を落とせば、そこには列を作る蟻が忙しそうに働いていた。


「ああそうそう。――そういえば最近、他の町では“特閲”が増えていたね」

 悪くなった空気を払拭するように、明るい声でウォーレンが続けた。

 話題を変えてくれたウォーレンに苦笑を返し、ディアンはその話にのる。

「その“特閲”って、何?」

「閲覧のみの特殊案件だよ。通常冒険者ギルドの依頼は冒険者が依頼を受ける際に『契約』という縛りが発生し、失敗すると契約不履行として罰金や罰則が科されるよね?」

「うん」


『契約』については皆が冒険者になった時に最初に説明を受ける事で、依頼を受けるとそれには契約という縛りが発生し、不測の事態や天災など一部の理由を除き、失敗すればギルドから罰金や罰則を言い渡されるというものだ。

 ガルムと遭遇した日、ディアンが帰路に無理をしてでもギルドへ立ち寄ったのはその為だった。

 幸いディアンはまだ一度もそれに該当した事はなく、故に罰金や罰則がどの程度なのかを確認した事はない。


「でもその依頼にはそもそも契約がなく、受付に持参しなくてもやる事はできるんだよ。失敗がない代わりに成功者にのみ報酬が支払われる。そのような依頼書には『特閲』と書いてあってね。一見簡単そうに思うだろう? でもそういったものは達成が難しい依頼が多いんだ」

「……待って、意味が分からない」

「つまり、先に結果を出した者だけが報酬を得られるという“特殊案件”。しかも最近のものはランク設定がないから誰でも受けられるっていうおまけつき」

 ピクリ、とディアン指先が微かに揺れる。

「だから見掛けた時は、掲示板の前が凄い人だかりだったよ……」

 とウォーレンが遠い目をして呟いた。

「それで、その依頼はなんだったんだ?」

 ディアンがそれとなく話を促すと、「ん?」と言ったウォーレンの視線が戻ってきた。


「ああ、内容が知りたいんだね。私が見たものは『白い獣を捕まえた者に、金貨15枚を報酬として与える』と書いてあったね」

「は?」

「ふっふっふ。本当に『は?』だよね。何を考えてるんだかという感じだよ」

 因みにそれもイニシャルしか名前がない貴族がらみの依頼だったねと、ウォーレンは呆れたように肩を竦ませてディアンを見た。

「なあ、それって……」

「まあ十中八九、そういう事だろうね……。だから私が興味を引く依頼(もの)ではなかった」


 ――この国には王を選ぶ『神獣』がいる事は皆が知るところで、生まれたての赤ん坊以外の国民全てが知っているといっても過言ではない。そしてここアルメオラ国の神獣は姿こそ伝わっていないが色は『純白』だと云われており、『白い獣』とはすなわちこの国の神獣を意味している。


 とはいえ獣の中に全身に白を纏う物が居ない訳ではないが、既存種において稀に見られる珍しい白い個体は神聖な獣だとされ、もし捕まえたとしても逃がすのが暗黙の了解となっている。

 例えば、白い猪や白い烏がいた場合などはそれに当たる。


 それを“捕まえてこい”とはどういう事なのだろうか……。


「なんでわざわざ、そんな事を依頼するんだ?」

 ディアンは唇を噛みしめたいのを我慢し、その意図を尋ねた。

「これは私の想像だという前提だけど、いいかい?」


 確かに依頼主以外が本当の理由など分かろうはずはなく、ディアンはそれでも構わないと深く頷いた。


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