第36話 雪解け
「でも香菜意外。吹奏楽とか入るかなって思ってた」
「私中学時代ほとんどなにもやってないから今更吹奏楽入ってもなにもできないしだったら本とか読むの楽しいし文芸部でも入ろうかなって」
「そっかー。案外人って変わるもんだねぇ」
まるでなにかを悟ったかのように目の前の通路を見た結衣奈の腕を香菜が軽くつついた。
「なに悟ってんのさ」
「別にー?」
とぼけてみせた彼女は前から回ってきたスイーツバイキングのメニューに目を落とした。
「あ、あの、莉子ちゃん・・・」
「なんですか?」
朝、教室に入ってきた莉子に恐る恐る声をかけてみる。莉子の後方にいる結衣奈からは彼女の顔が伺えなかった。
「ごめん!」
「え?」
結衣奈の突然の謝罪の言葉に莉子が驚いて振り返る。その目を見つめると、今まで話せなかった話をした。
一通り話を聞いた莉子は笑って立ち上がった。
「私も少し寂しかったんですからね?結衣奈ちゃんが全然話しかけてくれないから」
「でも莉子ちゃん他の人と話してるとき楽しそうだったじゃん」
軽く肩をすくめると莉子は話を続けた。
「結衣奈ちゃんと話しているのが一番楽しいんです。たとえ他の人の話が面白かったとしても、結衣奈ちゃんと一緒にいるのが楽しいんです。だから楽しそうに見えてもほんとは楽しくなかったんです。あ、でもほんの少しだけ楽しんでました」
指で『ちょっとだけ』と作り、小さく笑った彼女。今まで抑えていた何かが切れたのか結衣奈は莉子に思わず抱きついた。
「ごめんね」
「あとで一緒にパフェ食べに行ってもらいますよ?」
「えー、太る・・・」
「私は太らないので大丈夫です!」
笑顔でそう言い切った莉子の顔を見て思わず小さくため息をついた結衣奈だった。
「あ、じゃあ無事白石さんとは仲直りできたのね」
「はい。ありがとうございました」
「ううん。最終的に仲直りしたのはあなただから。私はあくまで口を添えただけよ」
「それでもすごく助かりました!」
クラブ前、更衣室で熊田の姿を見かけた結衣奈は一瞬で駆け寄り、お礼の言葉をつらつらと述べていた。q
莉子は用事があるとかで先に帰ったため、更衣室にいるのは二人だけだった。
「先、行くわ。鍵戻しておいてね」
「わかりました!」
熊田が出ていき一人になった更衣室。そこで彼女はとんでもないものを見つけてしまったのだった。




