第35話 どこかへ
「おはよー。」
「あー、おひさー!おはよー!」
休日、結衣奈は久しぶりに香菜と会うことになった。なんとなく仲のいい誰かとどこかへ行きたかった結衣奈は半ば強引に香菜を誘い出したのだった。
「急にどうしたの?」
「なんか久しぶりに会いたくなって。」
「そっか。莉子さんとなにかあった?」
「あ、うん。さすが香菜。」
香菜は、そんなことはお見通しだという風に軽くウィンクしてみせた。そのまま香菜は後ろを向くと、結衣奈の手を取り、目的地に向かって歩き始めた。
一年前、受験勉強のさなかに感じたのと同じ温もりに、結衣奈は安心感に包まれた。
LINEでいつも話しているはずなのに話題は尽きなかった。逆に話題が増えすぎたせいか、駅から目的地であるモールまで喋り倒していた。
だが、一年近く経ってももっぱら結衣奈が喋り、それに香菜が相槌を打つという構図はあまり変わってはいなかった。
「さぁーやってまいりましたスイーツバイキングー!」
「おおー!」
モールの中に最近できたという、スイーツバイキング。遊びに行くのはどこがいいと聞いたときに香菜が真っ先にあげたのがそこだった。
昼前に着いたものの、すでに店の外には順番を待つ人の列ができていてそこの人気の高さを伺わせた。
「あ、ねぇねぇ、陸上部、どんな感じ?」
名簿に名前を書いて待機列に並ぶと、香菜が話題を振ってきた。少し悩んだものの、口が動いて気がつけば入ってから今まであったことを片っ端から話していた。
渡辺の話をしたときはさすがに香菜に止められたが。
「そっかそっかー、楽しんでるんだねー。結衣奈もー。」
「なんか香菜寂しそう?」
「んー?全然寂しくないよー?むしろあんなだった結衣奈ちゃんがちゃんと高校生活を送ってくれてて私は嬉しいよー。」
そう言うと香菜は笑い泣きの真似をしてみせた。
おばあちゃんじゃないんだからという結衣奈のツッコミに香菜は笑っていた。いつもどおりの日々だった。
「そういえば香菜は?」
「え?私?」
「うん。全然香菜の学校の話聞かないけどどうなのさ。」
「んー、私はーなんかなにもない。」
「えー?」
「だってさ、ただの女子校だよ?しかも入って数ヶ月しか経ってないのになにもないって。」
「部活は?」
「文芸部。」
「なんか地味!」
「全国の文芸部さんに謝れい。」
「すみませんでしたー。」
少しテンションを上げすぎたのか、隣に座っていたおばさんと目が合う。気持ち声のボリュームを下げて話を続けた。




