第30話 雲
「なんだ、先に戻ってたのか」
不安を抱えながらグラウンドまで戻った渡辺と結衣奈を迎えたのは完全回復して笑顔の瑞井と莉子だった。
「心配してたのにー。」
「大丈夫ですよ。少なくとも結衣奈ちゃんより体力はありますから。」
「そういう問題じゃないでしょうがぁー!」
「迷わなかったか?」
「うん。迷った。で、道にいたおばあさんに聞いて帰ってきた」
「いつ帰ってきたんだ?」
「んー、5分前くらいかな。よな?白石」
「確かそれくらいですよ。渡辺先輩たちはいつ帰ってきたんですか?」
「10~15分前くらいだな。」
「私たちの方が早かった!」
「なんか心配して損したな。」
「ほんとですよ!」
結局不安も杞憂に終わり、結衣奈は息を吐く。置いてあった自らのタオルで汗をふくと水筒の水を飲む。走り続けた喉を冷たい水が通りながら潤す。
「さて、帰ってきたことだしあとは50メートル10本走って終わりますか!」
「おい、瑞井、まだ走るつもりか?」
「え?走らねえの?」
「いや、永山・・・。」
渡辺の声に、視線が集中する。
「え、私ですか?」
「大丈夫か?走れるか?」
「あ、大丈夫です!10本くらいなら・・・。」
「よし、なら行こう!」
無駄にテンションの高い瑞井の横に全員並ぶ。
「行きます!よーい、はい!」
掛け声とともに地面を蹴る。すぐ視界に渡辺と瑞井が入り、視界の横に莉子が入り込む。
負けるかと結衣奈は足の回転速度を上げた。
「終わったー・・・・。」
10本を走りきり、水筒のある場所まで戻ってくると地面に座り込んだ。上にかぶせてあったタオルを取ると顔を埋める。
隣に人が座る気配に顔を上げて話しかけかける。だが、その人は莉子ではなく、結衣奈は慌てて口をつぐんだ。
「結衣奈ちゃん、おつかれさまでした。」
「あ、莉子ちゃんこそおつかれさまー。」
人の背丈ほどの移動式の防球ネットに寄りかかり、雲が流れる空を眺めながら莉子と言葉を交わす。
やがてそこに渡辺と瑞井も加わり、話は更に盛り上がった。




