ガルダの過去
砂漠の村の陽は傾き始めた。昼間の暑さは若干失せていた。
砂漠の夜は寒いと聞いているがどれほどのものなのだろうか?
俺はよく分からない期待が胸いっぱいに広がった。
初めての事は何でも面白く感じるものだ。
そんな事より今はアルベール達と合流し、村の空き家で一晩過ごすことになった。
俺達は今、少し大きめのテーブルがあるところに皆で休憩をしている。
ケイは軽く息を吐き、おもむろに話を始めた。
「さて、まず最初にこの村にレイアは居なかった。」
俺はケイの言葉を聞いて黙って頷いた。ケイはそのまま続けた。
「早急にこの大陸から去りたい所なんだが・・・。少し問題が発生したんだ。」
「問題?」
次郎は組んでいた腕を解き、ケイに尋ねた。
「ああ、村で起きている奇っ怪な事件。
それは数年前のある事件と関係していると俺は読んでいる。」
「重ねがさね質問して悪いが・・・。この村で何かあったのか?」
「次郎は聞いてなかったか。この村の事件の事を。」
「この地のハンターや冒険者、大陸に寄っていた旅人達の消失、
それが今回の事件の大まかな内容だ。」
「消失か・・・。確かに奇っ怪だな。」
次郎は再び、腕を組んだ。
「この事件の原因が数年前の事件と関与していると?」
アルベールが口を開いた。目は鋭くケイに向けられていた。
「これはあくまで推測だけどな。魔物の仕業という可能性もあるが。
数年前の事件と類似している点が幾つかあるんだ。」
「まずはその数年前の事件について話さなきゃいけないな・・・。」
ケイはそこで一旦、話すのをやめた。
「・・・ふぅ。」
「・・・・・・・・?」
ケイは息を吸い込んで肩の力を抜いた。
「今から4、5年くらい前にその事件は起こった。」
「ハンター同士での争い・・・。原因はこの大陸の鉱山資源だった。」
「北側のハンター勢と南側のハンター勢の二つの勢力がこの大陸の領土を巡って
争いが始まったんだ。」
「ハンター同士での捕縛、殺戮、闇討ち、数々の残虐な行為が島全体を
恐怖に陥れた。」
「勢力的には北側が有利だったが、南側の必死の抵抗で二つの勢力は拮抗していた。」
「しかし、北側の頭首が突然の死を遂げたため、北側のハンター達をまとめる
力が弱まった。その隙を突いた南側の攻撃に北側のハンターの勢力は陰りを見せ
始めた。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「だが、その時にハンターギルドの介入によって、南側のハンター達は潰され、
結果的にこの大陸の領土はこの地に住まう人々に返還された。
そう、この大陸の領土は全て、この村の村長が握ることになった。」
「けれども、村の人々は鉱山資源を採掘出来る技術も無かったし、
そもそも、鉱山資源を必要としていなかった。」
「その結果、手付かずになっている鉱山を無断で採掘し、他の地方へ売買する
密売人やハンターが後を絶たなかった。」
「その時に発見されたのがある遺跡だ。その遺跡には【魔の遺産】が
眠っているという噂が流れ、たちまち世界へ広がった。」
「そして、この村はハンターや冒険者達の駐屯地として使われる様になった。」
「ここからが本題だが、その遺跡にはある怨念が渦巻いていたと聞いている。
それは突然の死を遂げた北側の頭首の霊魂だったそうだ。」
「あまり、信用ならない話だろうが生きて帰って来た者達は口をそろえて
そう言っていたらしい。」
「遺跡での死者は数え切れないほど出た。そのお陰でますます【魔の遺産】に
関わる噂もエスカレートしちまってな。人々が数多くこの地に訪れるようになった。
それで、この村に多大なる利益が舞い込んで来た。」
「いつしかこの村はハンター無しでは成り立たなくなってしまったんだ。」
「ハンターがこの地から居なくなれば、潤いが無くなる。稼ぎを増やすために
噂を世界に振り撒いたんだろう。本当は【魔の遺産】など無いのにな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
一瞬の沈黙、そして襲い掛かる眠気・・・。
それに耐えながら俺はケイの話を黙って聞いていた。
「当時、俺はこの事件の調査をしていた。その遺跡にも足を運んだ。」
「そこで見つかった金塊に人々の心は奪われていたのだろう。
そこで会う人のほとんどが支離滅裂で、金塊の所有権は自分にあるのだと
言い放つだけで、まともに取り合ってくれなかった。」
「遺跡はいつからかその地のハンター達が占拠してしまい、遺跡の宝は
そのハンター達が独占する形なった。」
「ハンターギルドの方も【魔の遺産】が欲しかったんだろう。
公認のハンター達を送り込み、その遺跡にたかるハンター達を一人残さず殺した。」
「また、ハンター同士の争いが起こってしまったんだ。」
「皆、己の欲のままに人を騙し、殺し合った。この地はいつからか・・・。
呪われた地、と呼ばれるようになった。欲望が集まる呪われた大地。
それが、ガルダなのだと・・・。当時の俺もそう思った。」
「その遺跡は今はもう何も無くなったはずだった。
今回の事件の話を聞く限りそれは覆されたけどな。」
「その遺跡と同じ場所で遺跡の深部が発見された。
それが今回の事件と深く関わっている。」
「死の穴と村人は呼んでいる。過去の事件で発見されなかったこの穴が
今となって姿を現した。事件解決への鍵はこの穴にあると見て間違いない。」
「俺の我儘ですまないが、この事件を解決へ導きたいんだ。
この地を呪いから開放する。それが俺のやるべき事だと思っている・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
さっきから黙って聞いていたが、何やら俺には重すぎる話みたいだな。
軽い気持ちで聞き始めてたけどまさか、これほどまでとは・・・。
それにケイがこの地と関わりを持っていた?何でだろう?
ケイもハンターなのだろうか?それとも昔から何でも屋をやっていたのか?
俺は眠気に耐えながら思い切ってケイに訊いてみることにした。
「ケイ。ちょっと聞いていいか?」
「ああ。良いぜ。」
「ケイはこの地に関わりが有ったみたいだけど、何でなんだ?」
「何で・・・か・・・。」
「それはあれか?何故、昔の事件の調査をしていたかって事か?」
「うん。やっぱり、今みたいに何でも屋やってたのか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
ケイは少し黙りこんでから答えた。
「まあ、それで大体合ってる。」
「そうなのか・・・。」
昔から何でも屋をやっていたのか。
それにしても、俺とは比べ物にならないくらいの壮大な過去があるんだな。
今までの俺の生活には無縁すぎて、現実味が沸かないぜ。
ふと、皆の顔を見ると難しい顔をしたまま考え込んでいた。
空気が重いな。とりあえず話を進めないと・・・。
俺が何か言うよりも早く、再びケイは話を始めた。
「とりあえず、今回の目的は!この事件を解決する事だ!」
「それで、村長は報酬としてハンターに詳しい人物と合わせてくれるらしい!」
ハンターに詳しい人物?そのワードだけだと全く信頼性が無いよな~。
「それで?その人物を紹介するから、事件を解決してくれと?」
アルベールは鋭い目つきのまま、ケイに言葉を質問をぶつけた。
「そういう事さ。当てが無いんだそれでいいだろう?」
「・・・愚かだな。」
アルベールはそう呟くと、席を立った。
「私はもう、休む話はもう済んだだろう。」
「ああ。お休み。」
そのまま、寝室の方へと歩いて行ってしまった。
愚か・・・か。その言葉の意味は俺には理解できなかった。
何がどういう風に愚かなのか。俺には到底、考えも付かない事だろう。
「それで・・・。数年前の事件と今回の事件はどちらも、
死の穴のせいだろうと推測している訳だな?ケイ。」
「ああ。そうだ。当時、発見されなかったこの穴が魔力の根源だろう。
これを消せば、全て丸く収まるはずだ。」
「成る程な。じゃあ、明日は遺跡の調査で決定だな。」
俺がアルベールの事を考えている内に話が決まってしまった様だ。
まあ、良いか。俺が出しゃばっても収まりそうな話でもないしな。
明日は遺跡の調査。また、死霊関係か・・・。嫌だなあ・・・。
「そうと決まれば、もう寝よう。すっかり暗くなっちまった。」
「ああ。そうだな。」
「すまないな。長話してしまって・・・。」
「いいや、こちらとしても貴重な話を聞けたからいいさ。」
次郎とケイはすっかり意気投合していた。
そんな事より、話を聞いていた途中でもそうだったが、とてつもなく眠い・・・。
今日は大したことしてないはずなのに。
多分、慣れない砂漠の気候によって体力を奪われたのだろう。
「じゃあ、俺お先に~。」
俺はそう言って直ぐ様、寝室へと歩いた。
そして、固いベッドの上に横たわると吸い込まれる様に眠ってしまった・・・。




