ある事件と遺跡
酒場に入ると店主だけが一人、皿を拭いていた。昼間だからということもあるだろうが、客は一人も入っていなかった。そこらの酒場よりやや広めのこの酒場に客が一人も入っていないのを見ると余計に広さを感じさせる。そして、この静寂が更に人気の無さを引き立てた。俺は店主に一番近いカウンターの席に座った。
「らっしゃい。」
無愛想な店主はそう言うと、皿洗いを続けた。
「客が居ないな・・・。」
俺はボソッとそう言うと、店主は俺の方に近付いて来た。
「昼間だからな。それであんたは?」
「なに、ただの冒険家ですよ。」
「そうか。まあ、ゆっくりしていきな。」
それにしても、昼間から酒場を開いている何て、珍しいな。
俺が思うに、普段は旅人やハンターが昼間から酒を飲んだくれていたのだろう。だが今は、ある事件がきっかけで人が居ないといったところか・・・。
まあ、その「事件」を今聞きに来ている訳だが・・・。
「マスター。ちょっと聞いていいかな?」
「ん?何だい?」
「やけに人が居ないみたいだが、何かあったのか?」
「今日は人があんまり入らねえ。ただそれだけよ。」
「そうなのか。」
あまり事件に関しては話したくない様だ。それもそのはずだ。
この店主は昔、あの事件に関わった人だからな。
俺は続けて店主に質問をぶつけた。
「ここ最近の噂話を聞かせて欲しい。」
店主は皿を拭くのを止め、黙り込んだ。
「・・・・・・・・・・・・。」
「ん?」
「あんたも・・・行っちまうのか?」
あんたも行っちまう。多分、例の事件が関係しているのだろう。
俺は古い記憶を呼び覚ましてしまった。あの事件、今回の事件とは
関係が無ければいいが・・・。
とりあえず、俺は知らない体で話を進めた。
「あんたも行っちまう?どういう事だ?」
「いや・・・何でもねえ。それより最近の噂だったな!」
親父は口をつむぎ、慌てて本題へと戻った。
「ここから南の方に昔の採掘場があってな。」
「そこで地下遺跡が発見されたらしい。俺は遺跡の近くまで行ったんだが、
何か禍々しいものを感じたんだ。あれは普通じゃない。悪い事は言わん。
あそこには近づかない方が良い。」
「・・・・・・・・・・・。」
遺跡・・・か。もう数年前の事件と全く同じパターンだな。
その事件を知っている店主は多分、冒険者である俺をそこに行かせないために
懸命になっているんだろうな。それがヒシヒシと伝わってくる。
俺はその話にさぞ興味が有る様な素振りで話を進めた。
「遺跡ねえ!何か宝とか有りそうな臭いがするな!」
「止めておきな!あそこはゼッテェおかしい!ありゃまるで・・・。」
店主がそこまで言うとまた口をつむいだ。
「いや、何でもねえ・・・。」
「まるで、数年前と同じ・・・か。」
「!!」
俺がその言葉を言うと店主の顔色が変わった。
「あんた・・・。あの事件の事を知っているのかい?」
あの事件・・・また自分の過去に触れることになるなんてな・・・。
「あの事件はハンター達にとって蔑むべき愚行だ。」
俺は何とも言えない怒りが込み上げて来た。もし、今回もハンターが関わるような事件なら、絶対に俺の手で解決してやる。
「今回の事件も俺が解決しなきゃいけない様だな。」
「今回の事件もだと?あんた・・・まさかケイか!?」
どうやら、店主もようやく気付いたようだ。
「ご名答で~す!よく分かったね!」
「おお!やっぱりな!久しぶりだな!ケイ!」
「ああ、ジョーさんも元気そうでなによりだ。」
「あの一件以来、あんたとは顔を合わせてなかったな。調子はどうでい?」
「今はちょっと旅をしててな。」
「旅か!まあ、あんたなりに目的があるんだろうな。」
「で?あんたは何故この村に・・・?」
「レイアってハンターを探しててな。ジョーさんは知らないか?」
「レイアねえ・・・。最近だとハンター共はこの酒場に寄ることが無くなっ てな。もしかしたら、あの遺跡に行っているかもしれないな・・・。」
あの遺跡か・・・。リューアも言っていたな。今回の事件の原因も多分、遺跡のせいだろう。そのためにも詳しい話を聞いておかないとな・・・。
「その遺跡について詳しく聞かせてくれないか?」
「遺跡についてか・・・。俺も穴の近くまで行ったんだが、
奥の状況までは分からねえんだ。」
「穴?それに奥ってどういう事だ?」
「あの事件で発見された遺跡があるだろう?
更にその奥にある穴が発見されたそうだ。」
「・・・・・・・・・・。」
俺はその穴が今回の事件と深く関係していると思った。
ジョーは話を続けた。
「その穴は村ではデスホールと呼ばれているんだが、
まあ名前なんてどうでもいいか。」
デスホール・・・死の穴か。そのまんまッて感じだが話を進める上では分かり易くて良い。
「いや、呼び名が有れば話易いってもんだ。そのデスホールってのが今回の 事件の原因だろうな。」
「まさかケイ。行く気か?」
「そのまさかよ。今回の事件も俺が解決してやるよ。」
事件の事も気になるが、レイアの行方、そして魔の遺産に関して・・・。
やるべき事が増えてきたぜ。俺の中にある探究心に火が点き始めた。
「ケイ。なら頼みがある。」
「ん?何だ?」
「遺跡に行くなら、村長に声を掛けてから行ってくれないか?この件に関し ては村長が一番、心配していたからな。」
「ああ。分かった。」
俺は席から立つと直ぐに酒場を後にした。この事件が過去の記憶を掘り返す行為だと分かってはいるが、何故だが俺はあの頃の自分が感じる事の無かった晴れやかで尚且つ、痛快な気分に浸っていた。
面白くなってきやがった・・・!
俺は砂を蹴り上げながら村長の家に向かった・・・。




