冷たい雨
旅に出る一週間前くらいの出来事。
俺はいつもの様にエレンの街の酒場「海の風」で酒を飲んでいた。
その時の俺は随分と気が沈んでいた。多分、いや確実に過去を思い出していた。
「ケイ。どうした?やけに浮かない顔してんなあ。」
話しかけてきたのは、元ハンターのグレイ。エレンの街ではよく一緒に酒を飲んだりする。歳は離れているものの奴とは戦友みたいなものだ。右腕と左脚に深い傷を負わなければ、今でもバリバリのハンター生活を送っていたに違いない。
「ふう・・・。何でもないさ。」
「そうか?何か悪い事でもあったんじゃないのか?」
「本当に何でもないんだ。」
ため息と嘘が同時に吐き出された。
気分が悪い、酒のせいではない事は俺自身も分かっている。
「ケイさん。貴方が暗い顔するなんて、らしくないっすよ・・・。」
心配したエルクがこちらに話しかけてきた。
新米ハンターにまで変な気を遣わせちまったな・・・。
「変な心配させてすまんな。本当に大丈夫だって。」
「だがよ。どうみても・・・。」
俺は即座に立ち上がり、お代を置いてその場を去った。
そして、小声で「すまん。」と謝った。
俺は酒場のドアを開けた。外は雨が降っていた。
「雨か・・・。」
あの時もこんな雨が降っていたな・・・。
冷たい・・・。心も体も冷えきる様な雨が・・・。
「認めたくないな・・・。」
「最愛なる者を亡くす悲しみ。帰る場所を失くす苦しみ。」
「まるで全てを失ってしまった様な・・・。」
俺は一つため息を吐いて、顔にかかった雨を払う。
「認めたくない。この感情を。」
俺が求めていたモノじゃない・・・。
俺が描いていた未来はこんなんじゃない・・・。
俺が・・・。
俺が本当に望んでいたものは・・・!!
光が俺を包んだ。何が起こったか分からない。
目の前に映るのはカーテンを開けたアルベールの姿だった。
「いつまで寝ている?」
「あ、ああ。すまんな。」
少しだるめの体を起こし、朝日を体に取り込んだ。
嫌な夢を見た・・・。俺は気を引き締め直した。
彼女の前では笑顔を絶やさない。俺が決めたことだ。
それを守っていかないとな・・・。俺は振り返って笑った。
「おはよー!アルベール!」
唐突な俺の行動にアルベールは驚いた。
「気味が悪い奴だな。いいからさっさと準備をしろ。」
「リョーカイ!!」
これで良いんだ。ありきたりな朝が来て、今を平和に過ごせる。
それが幸せなんだろうと・・・思いたい。
だが、俺は今回の旅で自分の一番触れたくない部分をまた・・・。
また、掘り返すことになるだろう。
悲しき過去を・・・。




