静寂なる月夜
「ふう・・・。部屋が余っててよかった。」
俺は宿屋の休憩所のソファーに体を委ねた。ソファーは俺の体を跳ね返す事無く、あらゆるエネルギーを全て受け止めた。そして、俺の体はソファーに静止した。ああ、くつろぐために作られた物ほど素晴らしい物はない。
それを実感した俺は、体に入っている無駄な力を抜き、大きく深呼吸した。
それにしても、こんな時間でも部屋が余っているという事は、よっぽどハンターがこの街にいない証拠だ。ほとんどはハンターに宿屋の部屋がほとんど取られているものだが、この街はそうではなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
考えても分かりそうに無かった。俺はハンターの事なんてよく分からないし、知る必要もないだろうしな。でも宿屋にハンターが一人もいない。
そういえば、酒場にもいない様子だったな・・・。何かがおかしい・・・。
俺が考えを巡らせていると突然、バタンという音とともに宿屋の入り口の
ドアが開いた。そこには鋭い目つきをしたアルベールが立っていた。
「・・・・・・・・・・。」
アルベールは俺を見ると、無言で俺の隣に座った。怒ってる?
空気が重い気がする・・・。何が起こったかは知らないが、
無言の重みが俺に押し掛かる。どうすればいいんだ。
「・・・ヒロ。人は何故、他を蔑み、貶すのか?」
「・・・え?」
突然のアルベールの問いに俺は戸惑った。
蔑み、貶す・・・。前にもこんな話をした気がするが、
俺には十分な答えを出せそうになかった。いや、アルベールが満足するような回答が俺にできる気がしない。その結果、俺は黙ってしまった。
「・・・ふッ・・・そうか。」
アルベールは真面目な顔つきて顎に手を当て、何かを考えているようだった。俺はアルベールの問いの意図がさっぱり読めずにいた。
「・・・人間は分からんな。」
「・・・?」
アルベールはボソッとそう言い、また黙り込んだ。
俺に言わせれば、アルベールの事の方が分からない事だらけだ。
まるで自分が人間でない様な口ぶりと、人並み外れた魔力。
やっぱり、凡人とは違う何かがアルベールにはあるのか・・・?
考えてもさっぱりだ・・・。
俺は辺りを見渡すと、窓の外には月が見えた。
半分に欠けたその月が窓枠に収まって小さく見える。
そういえば、ケイが一緒じゃないな。何でだ?
「何で、ケイがいないんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
俺の言葉に答える気がまるで感じない。喧嘩でもしたのだろうか?
とりあえず、ケイがここに来るまで待つしか無いか。
下手に動いて彼女の機嫌を損ねるのも嫌だしな。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
数分してから宿屋のドアが開いた。ケイ達だ。
ケイは俺達の姿を確認すると少し不気味な笑顔で話しかけてきた。
「部屋あった?」
「あ、ああ。何とか取れたよ。」
「そりゃあ、良かった。じゃあ今日は休もう!」
「オーケー。」
「よし、じゃあ明日からよろしくな。次郎さんよ。」
「ああ、よろしくな。」
ケイは次郎の肩をたたきながら話した。
これからこのよく分からんおっさんと旅するのか。
俺は心地よいソファーから飛び上がった。早くベッドに横になりたいのと、
未だ見たこと無い砂漠というものに胸を躍らせながら部屋へと移動した。
部屋は4つ有る内の2つも余っていたので、丁度良くケイとアルベール、
俺と次郎に部屋を割り当てることが出来た。
俺は眠たいのを我慢しながら次郎に質問をしようと考えていた。
部屋に入るとまず俺はリクライニングチェアに座り、次郎も続いて座った。
俺は次郎と向かい合うように座って話をした。
「次郎さんは魔術戦争の関係者を探してるって言ってたけど、
魔術戦争が貴方と何の関係があるんですか?」
「ああ、戦争に関しては俺には全く関係がないんだが、この世界の歴史を
俺は調べているんだ。」
「あ、それと俺の事は普通に次郎で良い。変に改まると話辛いだろう。」
「分かった。次郎。」
「歴史を知るねえ・・・。俺には興味ない話かな~。」
「そういえば、ヒロは何でケイと旅をしているんだ?」
「何となくとしか言い様がないかな。」
「何となく、か。」
次郎は両手を頭の後ろにやりながら椅子の背もたれに寄り掛かった。
俺も少し落ち着くために体に入ってる無駄な力を抜いた。
「それにしても、何で俺達と何か一緒に行こうと思ったんだ?」
俺は次郎に問いかけた。普通に考えてそこら辺の若造である俺達と組んだ
ところで、十分な結果が得られそうな気配がしないと思うものだろう。
次郎は両手を今度は前に持ってきて語り出した。
「・・・直感みたいなもんが働いたんだよ。それだけ。」
直感、ねえ。俺はさておきケイが只者ではない事がこのおっさんには
分かったのだろうか。そうだとするとこの人も只者じゃないな。
まだまだ訊きたいことは沢山あるが、いい加減に俺の眠気が最高潮を迎えたために会話を中断せざるを得なかった。
「とりあえず今日はもう寝るよ。山を越えてきたから疲れた。」
「山を越えてきたのか。そいつはご苦労さんだな。」
「そういう事、じゃあお休み。」
「ああ、俺も寝るとするかな。」
俺は先に布団に潜り込んでこの素晴らしき空間に身を委ねた。
そして、直ぐ様眠気が体を包み布団が自分の温もりと同化するのを感じる前に眠りに就いた。明日もまた大変なんだろうな・・・。




