海の街
ゲヘルザード山脈を越え、やってきたのが海の街・ベルト。
ケイから聞いたところ、ベルトは漁業が盛んで有名らしい。
エレンの街も海は近いが宿泊や観光がメインらしいから、
海の街という二つ名がこちらの街に付いたのだろう。
「ケイ。到着早々だが、寄りたいところが有ってな。
少しばかり別行動させてもらうぞ。」
アルベールは腕組みをしながら、こちらの反応を窺っている。
寄りたいところ?どこだろう?
「そうか。じゃあ、俺達は酒場で情報収集してくるわ。」
「うむ。分かった。」
二つ返事で会話は終わり、颯爽とアルベールは歩いて行ってしまった。
ケイの反応から、アルベールの行き先が読めているように見える。
後でケイに訊いてみるか。
「さて、アルベールも行ってしまったし、俺達も行くぜ?」
「あ、ああ。行こう。」
俺とケイは酒場へ向かった。
この街の街路樹は低木が規則正しく並んでいる。
酒場は街の中心近くにあり、海の音が聴こえてくる。
なかなか良い雰囲気だな。
海の方を見ると、今まさに夕陽が海に溶け込もとしている時間だった。
それを見ているだけで、今までの事を忘れてしまうほど綺麗な夕焼けだった。
俺達は無言のまま、酒場のドアを開けた。
夕陽も綺麗な良い時間なのだが、人が全く入ってない。
居るとすれば、カウンターに男が一人だけだった。
ケイはカウンターへ直進し、
マスターに声をかけると単刀直入に訊いた。
「飛剣のレイアがここに来なかったか?」
「・・・飛剣のレイア?」
マスターは首を傾げ即座に答えた。
「ここには来てませんねえ。」
俺はちょっとした疑問をケイにぶつけた。
「もしかして、レイアは酒あまり飲まないとか?」
「う~ん。飲まないにしても、酒場で情報収集すると思うんだがな・・・。」
「ああ~。だと思うけどな。普通。」
何かあまり意味のない会話をした気がした。
「ちょっといいか?」
不意に聞き覚えのない声に驚いた。誰だ?
声がした方向に目をやるとごく普通のおっさんがそこにいた。
「すまんな。話の途中に。」
「俺の名前は次郎。冒険家だ。」
ケイは特に警戒する事無く、冷静に返した。
「それで、何の用なんだい?」
「盗み聞きしてすまんが、
君達は飛剣のレイアを探してるんだってな?」
「ああ、そうだ。」
「実は俺も探していてな。」
「何のために?」
俺はとっさにそう訊いてしまった・・・。
このタイミングで訊くべきことだったのか、
俺には全く分からないのについ口が滑ってしまった。
「実はな・・・。
数十年前の魔術戦争の事を調べていてね。
その関係者を探しているんだ。」
魔術戦争?俺がまだ小さい頃に起こった戦争だ。
それだったら俺も関係者だろうが、次郎が言う関係者とは
多分、その戦争に関係した重要人物の事だろう。
「・・・・・・・・・・・・。」
ケイは右手を顎先に当てた。何かを深く考えているようだ。
少なくとも俺にはそう見える。
「それで、現在でハンターの者の中に
当時の関係者が多数いるらしいんだ。」
ケイは手を当てたまま答えた。
「分かった。共にレイアを探そう。
俺はケイだ。よろしくな。」
ケイが自己紹介をした瞬間、次郎の顔が一瞬ピクリと動いた。
そして、少し笑みを浮かべながら手を前に出した。
「助かる。これからよろしくな。ケイ。」
「おい!ケイ!いいのかよ!?」
俺は少しばかりこの次郎という男に疑いの念があった。
「ああ、目的は一緒だしな。
それに人数が多い方が楽しいだろ?」
「う~ん。」
別に中年期を迎えたおっさんが一人増えたところで
男臭さが増すだけで全然楽しそうではない。
だが、ケイが決めたことに今更反対しても、
この場の空気が悪くなるだけだろうから、良しとする事にしよう。
「まあ、いいか・・・。
俺はヒロ。よろしく。」
「よろしくな。ケイ。ヒロ。」
「よし、この酒場にはレイアは来てないみたいだし・・・。
他に当てがあるとすれば・・・。」
「街の神父が俺の知り合いでな。そいつから何か聞けるかもしれん。」
「ついでに借りたい物もあるしな。」
「そういや、アルベールはどうするんだ?」
「あいつはもう教会にいるだろう。
さっきの寄りたいところって言うのはそこさ。」
アルベールが教会に?何かがおかしい気がするが、
どんな人でも神に祈りを捧げるもんなのかね~。
俺はちょっと不思議な気分のまま、酒場を後にした・・・。




