動き始めた運命
沈黙と微かな耳鳴りだけがこの部屋に残っていた。
俺は寝慣れないベッドで静けさを味わっていた。
静けさが隙間から漏れる風を一層冷たく感じさせる。
やけに静かだ・・・。
アルベールが寝ているベッドの方に目をやると
そこには誰もいなかった。
「アルベール?」
俺は体を起こし、ベッドから出た。
夕方の酒場で挟んだ噂話が脳裏を巡った。
「嫌な予感しかしねえな。」
俺は部屋の外に出て、灯りが消えている廊下を歩いた。
その時、強力な魔力を感じた。
「アルベールのか?いや、違うな・・・。」
魔力は外の方から感じた。
魔力を辿っていけば出口に行けるな。
宿屋の外に出ると、アルベールの姿を見つけた。
そして、アルベールの向かい側には血色の悪い男が立っていた。
昨日、酒場に居た奴か?何だってこんな夜中に・・・。
とりあえず、状況をアルベールに教えてもらうか。
「アルベール。」
「ケイか。どうした?」
俺はアルベールの近くに行った。
「どうしたって・・・。お前こそ、何やってんだ?」
「ふっ・・・。そこの落ちぶれた魔人と
ちょっと遊んでいただけだ。」
「魔人?」
そうか。こいつ、やけに血色が悪いと思ったら、
「魔人」だったのか・・・。
昨日、酒場で気付けなかったのは俺の失態だ。
「愚かな・・・。お前は今、
何と対峙しているのか分かっているのか?」
血色の悪い男はもろ悪役という感じで喋った。
「貴様こそ、誰を目の前にしているのか
分かっているのか?成り損ないが。」
成り損ない。魔人。
大量の魔力を一挙に浴びてしまった人間だ。
体内魔力のバランスが崩れ、魔力過多になってしまった状態だ。
そうなってしまったら、自分で魔力をコントロール
するのも一苦労だろう。
ましてや、感情のコントロールも出来るかどうか・・・。
「魔力に溺れてしまった外道・・・か・・・。
そんな奴が俺達に何の用だ?」
「簡潔に述べよう。貴様等を殺しに来た。」
やはり、そういう類か。俺は剣を抜いた。
「今までの言動で、貴様等の死は決まった。」
「下らん。人間風情が魔力の制御も出来ん奴に、
死ねと言われて黙って死ぬ奴がいるか。」
「誰の命令だ?」
「死にゆく人間に答えて何になる!?
死ねえええええええええええええ!」
魔人の男は叫ぶと魔力弾を放った!
俺とアルベールはそれを避けて、体勢を立て直した。
「おい!アルベール!挑発しすぎだ!」
「こいつには何を言っても無駄だ。力で分からせてやる。」
そう言って、アルベールも魔力弾を相手に撃ち込む。
甲高い独特の音が聞こえた。撃ち込んだ魔力弾が相手に当たったようだ。
「この力。貴様、何者だ?」
魔人の男は驚いた様子で口を開いた。
「貴様に名乗る名は無い。」
「つくづく、カンに障る野郎だ。消えろ!」
「また撃ってくるぞ!」
「避けるまでもない。」
アルベールは左手を前に出し、魔力を一点に集中させた。
そして、男が放った魔法弾を左手で受け止めるとそのまま跳ね返した。
「ぐわアアアアアア!」
男は叫び声を上げながら体勢を崩した。
「何故だ!何故この私が!魔人であるこの私がァ!」
男は体勢を崩したまま、アルベールを指さして叫んだ。
俺の出番は無さそうだな。俺は剣を収めた。
すると、アルベールが少し前に出た。
「所詮は元人間だ。人間以上のものにはなれん。」
アルベールが止めの一撃を放とうとした直後、
男の体はドス黒いオーラか何かに包まれた。
「クソオオオ!覚えていろ!」
そう言い残して、男は消えてしまった。闇の転移魔法か・・・。
結局、誰の差金なのか分からなかったが・・・。
噂の真相は魔人だったか。
「やはり、お前が動くということは大きい事の様だな。」
「いや、俺達が・・・だろう。」
俺達の行動が誰かに見られているとでも言うのだろうか?
そんな事を考えながら、俺達は部屋に戻った。
全てが動き始めたといったところか・・・。




