妙な噂
宿屋に泊まるなんて何年ぶりだろう。
最近は自分の家で寝るか事務所で居眠りするかばっかりだった。
「さて、俺は酒場で情報を集めるよ。
アルベールはここでゆっくり休んでくれよな。」
「まあ、私は休まずともいいが、たまにはいいだろう。」
アルベールの余裕な表情が少し笑えたが、そこは耐えておいた。
俺はそのまま部屋のドアに手を掛けた。
「よし、じゃあ行ってくるわ。」
酒場は確か、この宿の入口の近くだったな。
そうだ。ヒロの様子もついでに見よう。
俺はヒロのいる部屋のドアをノックして入った。
ヒロは何か悩んでいる様子だった。
「どうした?ヒロ?」
「ああ、ケイ。ずっと思ってたんだけど、
俺達が狙われる理由なんて無いはずだろ?
森で会った男。あいつは確実に俺等を狙ってたよな?」
俺はあいつから何一つ確証がある話を聞いていない。
とりあえず、心当たりはあるが、今はまだ話す必要もないだろう。
「今は考えててもしょうがないだろ?
時期に分かるさ。俺も思い当たりがないしな。」
「そうか・・・。」
ヒロは納得がいかない様子で腕組みをした。
まあ、本当に時期に分かることになるだろう。
俺は直感的にそう思った。
「んじゃあ、俺は酒場に行ってくるぜ。
ヒロはゆっくり休んで明日に備えろよ!」
「オーケー。」
ヒロは親指を立てながら笑みを浮かべた。
俺はヒロの部屋を後にして、酒場を探した。
「お、ここか?」
宿屋の二階に酒場か、面白い作りだな。
二階への階段を上ると暖炉も点いていないのに、
嫌になるくらいの暑さが体を包んだ。
男どもしかいないむさ苦しい酒場だ。
見るからに酒豪だと思わせる大男と
金髪の冒険家らしき青年、青髪の血色の悪い男が
酒飲みに明け暮れていた。
俺は足を止めること無くカウンターへ進んだ。
まずはレイアについて聞いてみるか。
「マスター。ここに飛剣のレイアが来なかったかい?」
「ああ、昨日は居たねえ。今日は顔を見てねえが・・・。
多分もう旅立ったんだろうよ。」
「そうか・・・。」
「エレンの街にでも行ったんじゃねえか?」
「俺はエレンの街の方から来たんだ。それはないだろうなあ。」
「・・・だとしたら、ゲヘルザード山脈を越えた可能性があるな。」
「もっと東か・・・。」
「まあ、山脈を越えるとしたら、気をつけて行けよ。」
「わかった。ありがとな。」
やれやれ・・・。今度は山越えか・・・。
俺はこの旅がすぐに終わらないことを悟った。
「だんな。最近、妙な噂が聞こえてきてるんだ。」
「妙な噂?」
「ああ、何でもこの村で焼死体が発見されたらしい。
あれは魔法でやられたとかなんとか。」
「できれば、この村に泊まんねえ方がいい。」
「そうか。でも、もう泊まる事になってるんだ。
気をつけることにするよ。」
俺は酒場を後にして、部屋に戻った。
「どうだ?いい情報は仕入れてきたか?」
「まずはレイアの件だが、奴がここより更に
東に行った可能性が出てきた。」
「ほう・・・。」
「それで、今度は山脈を越える事になりそうだ。
それでも大丈夫か?」
「私は問題ない。」
「そうか。分かった。」
この件は明日にでも、ヒロに伝えとくか。
それと、もう一つの妙な噂の話だな。
「後な。妙な噂を聞いた。」
「妙な噂だと?」
「ああ、何でもこの村で魔法関係の殺人事件が起こったらしい。
犯人はまだ捕まってないようだし、気を付けないとな。」
「治安の悪い村だな・・・。」
アルベールは窓の外を見ながら呟いた。
俺はベッドに横になって、天井を呆然と眺めた。
いつもと違う天井。それだけでも、旅をしていることを実感できる。
いつもと違う・・・ねえ・・・。
俺はそんな事を考えながら、眠りについた。




