洗礼の神殿
俺はケイのすぐ後ろを歩いていた。
湿った雑草と土のにおい。それだけがこの辺りに広がっていた。
俺はこの近くに住んでいるが、
一度もこの廃神殿に近付いたことはなかった。
正直言って、周囲を取り巻く雰囲気が不気味すぎて
近付きたくなかったからだ。
ていうか、廃墟に入る人の気が知れない。
面白半分で入っていいものではないだろう。
幽霊を信じているとかそういうのじゃなくて、何か・・・。
何か他のものでやばい気がするからだ。
「ここが・・・。」
俺の目の前に突如として現れた。
やっぱり不気味な廃神殿は今も尚、その形を保とうとしていた。
「ああ、洗礼の神殿・・・。表向きはな。」
「どういう事だ?」
表向き?ケイの言っている意味が理解できなかったので、俺は訊いた。
「実際はさ。異教徒の拷問場なんだ。
この神殿の{洗礼}の意味は多分、そっちの意味もあるんじゃないかな?」
ケイは至ってまじめにそう答えた。
「それは昔の話だよな?」
「ああ、何年か前までは使っていたが・・・。
拷問行為が発覚してな。歴史の闇に消えたんだ。」
歴史の闇?ケイは何でそんなことまで知ってるんだ。
前から結構物知りだと思っていたけど、そんなことまで知ってるのか。
「ま、今この神殿の歴史を知る者は数えるくらしかいないだろうし、
知ってても口にはできんだろうし。」
「・・・教会の連中が騒ぐからか?」
「いや、消されるの方が正しいな。」
「え!?」
俺はその言葉を聞いた途端、驚きの声が漏れた。
「な~に、教会の連中だけじゃないさ。
どこの世界でも都合が悪いものは消える。それだけの事さ。」
爽やかに言いのけるケイだが、言ってることは凄まじいことだ。
歴史の影の部分か・・・。
「悪いことをしたら隠したくなるでしょ?それと同じ同じ~。」
「そうか・・・。」
「さて、そろそろ行くか。アルベールが行きたがってる。」
「ふっ、全く・・・。お前等の下らん話に付き合わされる身になってみろ。
こっちはそんなものよりも・・・。」
そこで、アルベールは口ごもり黙って歩き出した。
「??」
「何でもない。それより早く中に入るぞ。」
何かを隠してるようだったが、俺は敢えて探りを入れることはしなかった。
「はいはい。じゃあ、中には入りましょう!」
ケイが手を叩きながら入り口に歩き出した。俺もそれに続く。
建物は石造りで、入り口はだいぶ朽ちていた。
枯れた草木と砂利で床は汚れているし、人気がない。
この廃墟ですよ感が俺は一番キライだった。
そんな事を思いながら、覚悟を決めて神殿の内部へ侵入した・・・。




