44.仇討ち
狼狽えている様に見えていた火傷男は、イージスが出て来たことを察すると、急に真顔になって倉庫へと引き下がった。
僕は、それを圧倒されたんだろうと思った。
でも、それが甘かった。
「おーい。ハルク―」
そう声を掛けると、倉庫の上から何かが降ってきた。
──ズンッッッ
凄まじい衝撃音と共に、コンクリート片が飛び散る。
僕はあまりのことに目をひん剥いた。
仲間がいたのか?
二メートルはあるのではというくらいデカい男。
筋肉も隆々としていて、伴さんより大きい。
「こんなこともあろうかと、信頼できる部下を連れてきてよかったわぁ」
「お頭? 何すればいいんだ?」
「あのデカいやつ抑えといて? それ以外はいいや」
伴さんを抑えろという。それだって、並大抵のことじゃないと思う。伴さんなんてゴリマッチョだし、ララさんの援護があったら最強だ。
「わかった」
「さて、やろうか?」
このままだとまずい。
火傷男と相性がいいのは、伴さんなのに。
「思い通りに行くと思うな? エクスプロージョン!」
近距離からいきなり伴さんが火傷男へと魔法を放つ。
爆発音が響き渡るが、ハルクとかいう奴が身を挺して守ったようだ。
体が頑丈というか、なんなんだ?
どういうことだ?
俺とも相性が悪そうだ。
「ガハハッ! お前面白いな!」
伴さんと同じようなテンションで襲い掛かってきた。
振りかぶった拳をそのまま地面へと叩きつける。
凄まじい衝撃で地面をめくりあげた。
「ライトニングボルト!」
蓮さんが巨大な男へと雷を放つ。
「アハハッ! ビリッときたぁ!」
笑顔でそのまま突進してくる。
皆が避けると、空間の端へとぶつかる。
それでも、なんともない様子だ。
「これは、やばいねぇ」
護さんが悠長にそう話す。
「よそ見してんなよ? 軟化。山茶花」
ララさんの後ろに移動してきた火傷男はまた刃を放ってきた。
花の如く、中心から広がるように刃の波が襲う。
僕が咄嗟に盾となる。
背中に痛みが広がる。
血しぶきが前にも飛び散ってきた。
「亮!」
「大丈夫です! ララさんは、伴さんを!」
この二人のペアは最強なんだ。離すのは得策じゃない。
「お前か! ライトニングボルト!」
蓮さんが手をかざすと、雷が腕に纏う。
そこから稲妻が火傷男へ迫る。
「硬化」
雷をくらうが、なんともないらしい。相性良くないのがここにもいた。蓮さんもダメだ。
「これはどうかな? アースニードル!」
今度はよしさんが魔法、土の棘が放たれる。
「硬化」
二秒後に警棒で殴る。
ギィィンという金属同士がぶつかったような音が鳴り響いた。
三秒後に殴ろうとすると、飛びのかれた。
ふぅぅん。
三秒かな?
伴さんはなんとかやりあっている。
デカい敵と真っ向から殴り合っていた。
引いていないことに驚いた。
さすがは、ゴリマッチョとパワー強化補正。
ララさんとの相性はこれだからいいんだ。
「軟化。一閃!」
後ろで声がした。
体が柔らかくなり、大きな刃となった。
よそ見をしていたら、狙われてしまった。
流石にまずい。
咄嗟に転がって避ける。
真っ二つにされたら、たぶん、僕は生きていないと思う。
こちらも攻撃をしようとしたが、逃げられた。
だが、そこを狙っていた人がいたのだ。
「アクアカッター」
ダイヤモンドも切るという水の威力。
その威力は、火傷男を真っ二つにした。
──ザンッ
「やった!」
僕は思わずガッツポーズをした。
だけど、違和感があった。
血も何も出ない。
えっ?
なんで?
「軟化」
また柔らかくなり、合体して元に戻った。
生身の状態の時にダメージを与えないといけないんだ。
三秒。
さっき、軟化したのが四秒後だった。
三秒と四秒の一秒の間だけが隙だ。
「ちっ! なんだよ!」
「ぐあぁぁぁ!」
伴さんの声だ。
声がする方を見ると、血を吹き出して倒れていた。
「みなさんは、あちらへ加勢を!」
「亮はどうする気だ?」
流さんが問い詰めて来る。
僕には、勝算が見えた。
「大丈夫です。負ける気はありません」
「本当だな? 任せたぞ!」
頷いて見送る。
こっちは、ギミックが分かればどうにかなる敵だ。
あっちは単純にパワー系。
人数をかければどうにかなる。
「ほぉぉぉ? 回復できるからって、一人でいいってか? ナメられたもんだねぇ」
スタスタと近づいてくる火傷男。
遠距離武器がこっちにはある。
銃を向けて発砲する。
──パンッ
「硬化」
1秒。2秒。3秒。
「ここだぁぁ!」
警棒を顔へ振るう。
当たる。
いけぇぇぇ!
──バギィィィ
火傷男の顔面が歪んだ。
「ぐおぉぉぉ!」
叫び声を上げながら一回転する。
「軟化」
やわらかくなってから戻るが、傷はそのままだった。
「はぁぁ? まだ、いてぇぇし!」
「はぁぁ。滑稽だな?」
「あぁぁ? うるせぇよ! 勝ったと思うなよ! まだやれんだからな!」
威勢よく大声で虚勢を張っている。
僕には、もう攻略法が見えた。
もう、やられないよ。
「いてぇぇぇ!」
野太い声が聞こえる。
ハルクとかいう奴が両手を失って悶えていた。
流さんと仁さんの魔法にやられたようだ。
後は、コイツだけ。
頭は冷静だ。
前とは全然違う。
皆がいるからだ。
だから、冷静でいられる。
倉庫の中へと逃げていく火傷男。
後を追うと、亜希さんを人質にとっていた。
「こいつが死んでもいいのか? 殺すぞ?」
「えっ? なになに? なんで?」
いきなり襲われたことで、パニックになっている亜希さん。
恨みしかないからなぁ。
でも、殺されるところをみすみす見捨てるわけにもいかないか。
お構いなしに近づいていく。
「おいおい。死んでいいのか?」
銃を手にして亜希さんの腕を狙う。
「こいつを殺す気か⁉」
──パンッ!
腕を打ち抜いた。
「きゃぁぁ!」
腕を抑えて悶える亜希さん。
隙ができた。
火傷男を狙って打つ。
「軟化」
体を通過していく玉。
僕はそのままかけて近づいていく。
もう何も怖くない。
「死ねぇぇぇ! 五月雨!」
硬化だと攻撃できないから軟化にしたんだろう。
でもな、それは僕には効かないよ?
全身がまた刃の波で切り裂かれる。
腕から、頭から、胸から。
鮮血が目に入るが、僕は止まらない。
三秒ジャスト。
警棒を再び顔面へ振り下ろす。
今度はちゃんと下あごを狙って。
「ふごぉぉぉ!」
吹き飛ばされた火傷男。
だけど、立ち上がった。
「思い出したぞぉ。あかりぃだっけかぁ。無様に泣いていたよなぁ?」
頭が沸騰する。
覚えていたのか。
突っ込んで殴りつける。
「軟化」
殴りつけた頭は、トプンと柔らかくダメージにはならない。
クソがぁ!
頭が一瞬真っ白になる。
「これは避けないとダメなんだろう? 一閃!」
大きな刃が迫る来る。
死んでも殺す!
『過去にとらわれて、今を見失うなよ?』
護さんの声が脳裏に響いた。
大きく避けると、三秒後を逃す。
最小限で避ける。
左腕から鮮血が飛ぶ。
構わないさ。
お前をやれるなら!
「終わりだぁぁ!」
上から脳天へと警棒を振り下ろす。
確実に捉えた感触が伝わる。
頭から血を流す。
脳が揺れたようで気絶した。
魔封手錠で拘束する。
ハルクは焼いて止血してそのまま輸送。
両腕が亡くなった状態で過ごすことになる。
最高に地獄だろう。
これまで好きなことをしてきた報いだ。
この男ももう何もできないだろう。
監獄には、魔吸と呼ばれる魔法能力を吸う人がいる。
一生魔法は使えなくなるだろう。
「亮! やったのか⁉」
流さんが駆け寄ってきた。
嬉しそうな笑みを浮かべながら。
「はい。能力の穴を突きました」
「でも、その腕、大丈夫か?」
目を移すと、左手が肩から先がない。
仕方ないよ。
それだけ強敵だったんだ。
「よくやったよ。よく生きていたな」
護さんも誇らしげだ。
なんとか倒せた。
殺さなかったけど。
灯、なんとか仇を討ったよ。
ごめん、僕は、前を向くよ。
大切な人を護るために。




