45.護るもの
「っ!……良く生きて帰って来たね。……おかえり」
「ただいま。左腕なくなっちゃった」
笑いながらそう言うけど。
恵美さんは目に涙を浮かべていた。
右手で恵美さんを抱きしめる。
このぬくもりを失わなくてよかった。
「なんかさ、巻きこんじゃってごめんね」
「ううん。そんなことない。もう大丈夫なの? そのぉ……メデュなんとか?」
「あぁ。メデューサね。もう頭は潰れたから大丈夫」
胸に顔を埋める恵美さん。
顔を赤くしてこちらを上目遣いで見る。
可愛くてしょうがない。
「ってことはさ、付き合えるの?」
「うん。そうだね。よろしく」
唇を重ねる。
この日は、二人で愛を確かめ合った。
◇◆◇
メデューサとの一件から二年程経った。
「そっちいったぞ!」
翔さんの声が聞こえる。
こちらへやってきた武装した男。
ナイフを振り下ろしてくる。
僕の背には、小柄な女の子。
避けるわけにはいかない。
左手を上げてあえて食らう。
相手が固まっている間に、顎へと掌底を当てて気絶させる。
「依頼人は無事です」
「よしっ。よくやった。上がっていいぞ!」
「はい! お先します!」
「しっかりな!」
「はい!」
現場を後にして、いそいそと病院へと向かう。
向かう先の掲示には産婦人科とある。
タクシーで向かっているんだ。
早く向かって下さいとも言えずに、ただ到着を待つ。
着くと飛び出て入口を開ける。
スーツのままで来たけどよかったのかなぁ。
「すみません。館です」
「あっ、館さんですねぇ。奥様お待ちですよぉ。どうぞぉ」
通された病室では、お腹を痛めている恵美。
顔を歪めている。
胸が苦しくなる。
「旦那さん来たから、分娩室へ行きましょうねぇ」
「旦那さん、これ着てね」
頭へ被るものと、着るものがあるようだ。
素直にそれを着て中へと入る。
出産には立ち会うと言ったんだ。
出産が始まった。
心電図のような物を見ながら、「はい、いきんでー!」という声を上げる助産師さん。
「ふんー!」
気張っている恵美の背中を支える。
こうやって二人で踏ん張るんだ。
これまでだってそうだった。
乗り越えて来たんだ。
数度、いきむと頭が出て来た。
「はいでてきたよー。はい、もう一回いきむよー!」
「あぁぁぁああぁぁぁ!」
最後の力を振り絞ったのだろう。
恵美のこんな姿初めて見た。
「おんぎゃー! おんぎゃー!」
聞いたことのない赤ん坊の声が響き渡った。
これが、生命の息吹か。
「はいー。おめでとうございます! 元気な男の子よぉ!」
嬉しすぎて、目からこぼれ落ちるものを我慢できなかった。
そして、疲れ果てた恵美に感謝しかなかった。
「恵美。お疲れ様。ありがとう」
「こっちこそ。ありがとう。心強かったわぁ」
恵美の笑顔がこぼれる。
「あははははっ! そんな格好してたんだねぇ! なんかうける!」
僕の格好が面白かったらしい。
いやいや、こっちはマジメだからね。
こうしないと赤ん坊に菌が移ってしまうかもしれないんだから。
「お父さん。名前は決まったのかしら?」
「あぁ。優しい心を持って欲しいから。優心にするよ」
「亮らしいわね?」
笑顔で抱き合い。
お互いを称える。
こうして、僕にはもう一つの護るものができたのだった。
この家族を僕は命に代えても護っていく。
そう誓うのだった。




