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警護組織イージス~人を護れなかった僕は、誰かを護る盾になる~  作者: ゆる弥


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43.自己犠牲

 夜の八時まであと五分を切った。インカムを取り、ポケットへ入れる。もちろん、聞こえる状態にしてだ。こうしてくれと護さんから言われている。


 指定された場所は、横浜の本牧埠頭の倉庫。そこで、恵美さんを引き渡してくれるらしい。おそらく僕を殺そうとしてくるだろう。


 指定された倉庫への扉を開ける。

 真っ暗な中で声を掛ける。


「亜希さん。来ましたよ?」


 そう声を掛けると、ライトが灯った。その場所だけ。


 椅子に縛られている恵美。

 頬は少し赤く腫れていて痛々しい。

 それに腹を立てている場合でもない。


 ムカつくけど、ここで反抗したら殺されてしまうかもしれない。護さんの魔法能力がどんなのなのかはわからないけど。信じるしかない。


 時間になっただろう。

 護さんたちも外で動いてくれているはずだ。

 なんだか、扉を開け放っているはずなのだが、音も風もない。


「亮君。待ってたわよ? ねぇ。私と一緒にならない?」


「……すみません。今は、恵美しか見えません」


 その答えに満足したように、恵美からこちらへと歩を進めて来る。何やらニヤニヤしている。自分にいいように考えているんだろうね。


「《《今は》》ね? いい答えだわぁ。あの女にも気を使っているのね?」


 恵美の近くには火傷男が側にいる。

 だから、今すぐどうこうすることはできない。


 近づいてくると、顔を近づけて抱き着いてくる。そして、太ももをまさぐっている。

 

 何をする気だ?


 ニヤリと笑った亜希さん。

 ポケットからインカムを取り出して。

 踏み潰した。


「あぁー。こういうのよくないんだぁ」


「別に、一人で来ているんですから、これくらいいいじゃないですか?」


「ダメ! 誰にも聞かれたくないんだもんっ!」


 懐からナイフを取り出した亜希さん。

 そんなことだろうと思っていた。

 恵美は想定外だったのだろう。

 目を見開いて、目に涙を溜めている。


「それで、何をする気なんですか?」


「んふふー。これでねぇ、私に振り向かない亮君を、殺すのっ! いい考えでしょう?」


 あぁ。ここまで狂ってしまったのか。

 僕が放っておいたのがいけなかったのだろうか。

 真剣に断っていればこんなことにならなかったのかもしれない。


 恵美を巻き込んでしまった。

 その後悔が大きい。

 こんなに狂うような人だとは思わなかった。


 これじゃあ、あの時の彼氏と同じじゃないか。

 本質は、あの男と変わらなかったんだね。


「ちょっといい考えじゃないと思いますけどねぇ。僕を殺したら、もう一緒になることはありませんよ?」


「んー。それはちょっと考えちゃうわぁ。でもぉ、私と一緒なることある?」


「そうですねぇ。今はないです」


 その答えにニコッと亜希さんは微笑んだ。

 そして、ナイフを頬に当てる。

 頬を伝わせて首へと撫でていく。


 そのナイフの感触に、思わず震える。


「あれぇ? 亮もナイフは恐いのぉ?」


「それは、刺されたり切られたりしたら痛いですからね」


 その答えにも満足そうに微笑む。


「そう。正直でいい子ね。痛い目見せてあげようか? その方があの女は泣き叫ぶでしょうねぇ?」


 僕を痛めつけて恵美さんへ精神的ダメージを与えようとしているんだろうか。だとしたらまずい。僕は、今自己治癒が自動でかかる。


 だから、傷を負ってもすぐに回復してしまうんだ。

 それを知られたら、今後に響く。

 よくないな。


「そんなに、僕と恵美を痛めつけないんですか?」


「あの女には、精神的苦痛を味わってほしい。だから、亮を痛めつけるの。ふふふっ」


 あぁ。これはもうダメだ。亜希さんは僕を痛めつけるのを何とも思っていないんだろう。それは、もう犯罪者になる。捕縛しなければ。


 なんか急に耳鳴りがした。


「あぁ? なんか結界に入ったか?」


 火傷男に何かを感付かれたらしい。僕はなんのことかわからないけど、騒ぎ立てよう。インカムはもう聞こえない。プランBだ。


「亜希さんのことなんて最初から何とも思っていません! 何を勘違いしたんですかぁ?」


 僕は大きな声であえて捲し立てた。

 この状態が良いのか悪いのかがわからない。

 指示も聞こえない。


 だけど、僕なりにどうにかする。

 そうすることで、活路が見いだせるはずだ。


「きぃぃぃ! 何を言ってるの? 私に惚れてたでしょ?」


「どこがですか? 1ミリたりともそんな感情はありませんでした」


「うそだうそだ! うそだ! うそだ! うそだぁぁぁぁぁぁ!」


 ナイフをこちらに突き立てる。

 痛みが来ることを察して、身構える。

 ここで、刺されないと……。


 ──グサッ


 ナイフが胸から生えている。

 血が溢れだす。

 口からもゴフッと空気と共に鮮血が出る。


「あっはははー。本当に刺しやがった。女って怖えー」


 火傷の男は油断している。

 完全に俺が死んだと思っただろう。


 亜希さんを押しのけて、ナイフを抜く。

 そして、膝をついた。

 その瞬間。


 景色がゆっくりになった。

 来た。

 体はオレンジに光っている。


 そうだ。早く修復するんだ。


 ゴフッ。

 一回血を吐いた。

 心臓が動き出す。


 一気に足に力が入る。

 今だ!


 一瞬で、恵美の前に立つ。

 火傷男と目がある。

 だが、魔法能力を発動させるより先に、恵美を抱えて駆ける。


「おい! 待てゴラァ!」


 スピードでは勝ると思っていた。


「軟化!」


 床が柔らかくなり、踏ん張りがきかない。

 マジか!

 こんな時に。


「誰が逃がすかよ!」


 近づいてくる火傷男。


「今度こそ死ね! 五月雨!」


 前と同様、身体がぐにょぐにょになる。

 来るとわかったので、一旦恵美さんを置いて壁となる。

 

 迫る刃が、僕の体を切り裂いて鮮血を上げる。

 痛みに耐えながら、床を蹴る。

 蹴ることができた。


 わかった。

 魔法能力を使う時は、並行発動はできないんだ。

 

 なんとか、血だらけのまま駆ける。

 倉庫を出ると護さんが待っていた。

 恵美を渡すと、何やら膜のような物の先へと連れて行く。


 後から来た火傷男がその先へと追うように突っ込むが、弾かれて尻もちをつく。

 

「どういうことだ⁉ 舎弟どもはどこだ⁉」


 護さんが戻って来た。


「恵美さんはこれで無事だ。安心するといい」


 すると、その先から、伴さん、ララさん、仁さん、流さん、蓮さん、最後によしさん。


「この倉庫は、いうなれば別空間だ。俺と俺の指定した人しか通れねぇ」


 なにその最強の魔法能力?

 咲月さんと翔さん、雅人さんを護りに置き、最高の攻撃陣であの男に迫る。


 絶対に負けねぇ。

 そう思えた。

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