42.女の嫉妬
今日は出社の日だった。
「いってらっしゃい。ご飯作って待ってる」
「うん。行ってきます」
これが当たり前のやり取りになるんだと思ったら、僕はなんだか夢のような気持ちで、家を後にした。
少し歩いた先に職場のビルがある。
だから、いつも歩いて出社なんだけど、なんか違和感がある。
誰かに見られている様な……。
後ろを振り返ると、誰もいない。
なんだ?
なんか変な気がする。
でも、その違和感が何かわからなくて僕はそのまま出社したのだ。
「おはよう」
「おはようございます。護さんも退院してたんですね?」
会社へ行くと護さんが出社していた。
そこで、みんなにも挨拶した。
お見舞いに来てくれたありがとうございますとお礼を言って回った。
「メデューサ対策のために、今日は警視庁へと行くことになっている。みんなであの時のことを話しながら、打ち合わせがしたいそうだ。わかる情報を集めて戦おうということらしい」
これから、メデューサと本格的に、対峙する。
鍛えておかないとなと気合を入れた。
そんな時、スマホが鳴り響いた。
「ん?」
確認すると、ビデオ通話のようだ。
電話を起動すると、スマホに映ったのは最初の依頼の時に依頼してくれた亜希さんだった。
『あっ! 亮くん。ご無沙汰ー。全然連絡してくれなくて寂しかったよー?』
なんなんだ?
一体?
もう縁を切ったつもりでいたんだけど。
だから、連絡しなかったのに。
しかも、今は仕事中だし。
「すみません。仕事中なので……」
『これを見ても、そんなこと言えるのぉー?』
そこに映し出されていたのは、後ろで手を縛られて口をガムテープで塞がれている《《恵美》》だった。
「恵美⁉」
『あぁー。なんかムカつくなぁ。名前呼び捨てまで発展してるのかぁー。許せないなぁ』
映像は変わって亜希さんが映し出されている。なんだか、隣に誰かいる?
この場所どこだ?
雅人さんに目配せすると、動画を回してくれた。
そして、ここからはスピーカーで流す。
「恵美をどうするつもりですか? そこはどこなんです?」
『えぇー? 教えなーい。この人が協力してくれたのー。亮くんわかる?』
亜希さんが楽しそうな声でスマホを移動させたのだろう。
隣にいた人物が映った。
顔に火傷の跡がある男。
頭が沸騰しそうになるのを抑えて、今は情報収集に当てなければと冷静に対応する。
「あぁ。わかるよ。その人がどんな人かわかってそこにいるんですか?」
『えぇー。なにその説教みたいな言いかたー。やだなー。この女死んでもいいの?』
ゴクリと唾を飲み込む感触を鮮明に感じる。
これは、まずい奴だ。
どうにもできない。
なにやら後ろで音がしているけど、何の音かは聞こえない。
「すみません。生意気なこと言いました。その人には、傷つけないでください」
『えぇー。やだぁ。それっ!』
頬へビンタをする亜希さん。
何がしたいのかわからない。
なんでこんなことするの?
恵美さんが首を振りながら、何かを叫んでいる。
ガムテープ越しには何を言っているかわからない。
でも、きっと、来るなって言ってる。
『亮くんさぁ。全然私に興味持ってくれないじゃん? それなのに、こんなビッチに興味持って! コイツがいけないんだよねぇ! そそのかしてさぁ!』
二度も三度も平手打ちを頬へ食らわせる亜希さん。
ここで、僕も逆上できない。
この隣にいる男は油断できない。
人を殺すことを何とも思っていないだろうからな。
『お前さぁ。どうやって生き残った? 治癒系の魔法能力者がいたのかぁ? 俺様の五月雨で生き残ったのはお前が初めてだぁ』
歯を食いしばる。
もう、どうしたらいいのかわからない。
眉間の血管が切れそうな程に力が入る。
「亜希さん、その人を返して欲しい。なんでもします」
その言葉は、頭で考えているわけではなかった。恵美さんを護りたい一心で出た言葉だった。
『はぁぁ。亮君、私のものになるなら、見逃してあげるよ?』
「すみません。今は、恵美しか見ていません」
『あははー。そう来ると思ったぁ。じゃあ、今日の夜八時、送る座標まで一人で来て。絶対一人で来てね? 亮の死ぬとこみたいからさぁ。誰かと来たら、この女殺すからねぇ?』
亜希さんはどうしてしまったのだろうか?
こんなにおかしい人だったか?
僕が狂わせたのだろうか。
『お前をもう一度、確実に殺してやるよぉ。この女、いい女だな? お前が死んだら俺の女にしよー』
そう言うと、通話が切れた。
頭の中は、真っ白だった。
何にも考えることができない。
「亮。今は、恵美さんの命のことを第一に考えろ。夜八時、一人でその場所へ行け」
護さんが肩を叩いてそう口にする。
僕に、恵美を護ることができるだろうか。
アイツに対抗できるだろうか。
「おい! 俺達が何もしないとでも思ってるのか?」
顔を上げると、伴さんが笑っていた。
親指を上げている。
何か考えがあるのだろうか?
「位置情報は送られて来たか?」
護さんの質問に、送られてきた情報をみんなに共有する。
でも、誰かが来たら、恵美が死んでしまう。
それは絶対に嫌だ。
灯の二の舞になったら、僕はもう立ち直れない。
黙って下を向いていると、誰かが肩を組んで来た。
顔を横に向けると、翔さんだった。
「俺たちを信じろよ。護さんの魔法能力、まだ見たことないだろう?」
「はい……」
僕は、不安で一杯で目を潤ませる。
「安心しろ。こういう時に護さんの魔法能力は有効だ。発動まで時間かかるんだよ」
「そうなんだよなぁ。能力は強力なんだが……」
護さんがため息を吐く。
今は、それに頼るしかない。
「でも、まさか亜希さんがメデューサと繋がるなんて……」
「休みの日に、亜希さんと会ったことがあります。その時、恵美とバチバチやりあってました。それが気に入らなかったとしたら……」
「うぅぅ。女の嫉妬は恐いからねぇ」
よしさんが身体を震わせる。
冗談じゃないぞ。
こんなことで、恵美を失うわけにはいかない。
絶対、助ける。
俺だって、魔法者になったんだ。
アイツの対策は考えてる。
きっと大丈夫。




