41.告白
「ただいま」
この日は、退院して荷物を持って帰ってきた。家にいた恵美さんと挨拶を交わす。
「寂しかったよぉ。おかえり」
なんかちゃんとした清楚な格好で待っていてくれて、意外に思い驚いてしまった。どうしたんだろう?
いつもは、胸が見えそうなくらいだらしない格好で待っていてくれたりするのに。あれもよかったけど、なんか清楚な恵美さんもいい。
「そんなに見られると恥ずかしいんだけど?」
「えっ。すみません。なんかその格好、珍しくないですか?」
「ふふふっ。お似合いに見えるかな?」
どういうことだろう。
なんか気にしていたのかな?
僕は別になにも気にしてないけど。
「どうしたんです?」
「あのね。私、夜の仕事辞めようと思うの」
「えっ? そうなんですか? ……でも、そんなことできるんですか?」
あのキャバクラの主戦力だったと思うけど、大丈夫なんだろうか?
その疑問は、すぐに解消された。
「オーナーと話をつけたわ。私が本気の人がいるって言ったら、わかってくれた。ナンバーツーの子なんて喜んでたわよ。『ようやくですか。お疲れさまでした。おばさん』だって」
「おば……?」
意味がわからなかった。こんな綺麗な恵美さんをおばさん呼ばわりってどういうこと?
「あの世界ではね。25歳を超えたらおばさんなの。私は、今26歳。もう若い子には勝てないのよ」
「そうなんですか? まぁ、しばらく働かなくても……」
僕だって、そこまで安い給料ってわけじゃない。
25歳の平均給与から考えると高いと思う。
だから、養っていけるとは思う。
僕も全然お金使わないし。
ただ、前の恵美さんみたいに羽振り良くとはいかないけど。
それでもいいのかな?
「私、貯金しているのが数千万あるし、しばらくは大丈夫よ? 亮には迷惑かけないわ」
「僕の給料、そこまで安くないんですよ。普通に生活していれば、余裕あると思います」
「亮。私ね……」
恵美さんの口を人差し指で抑える。
気障すぎたかな?
でも、これは僕が言いたかったんだ。
「僕から言いたいことがあります。今の、メデューサとの闘いが終わったら……」
恵美さんは目を丸くして固まっている。
僕がこんなこと言うとは思っていなかったのかもしれない。
なんせ、僕は灯がずっと頭にあったからね。
一旦深呼吸する。
あぁ。緊張してる。
敵を前にした時より、緊張してる。
これは、強敵だ。
落ち着け。
言うんだ。
「……付き合ってもらえませんか?」
「うん。もちろん。やっと……やっと、彼女になれるの?」
「待たせてすみません」
手で口を抑えて目を潤ませる恵美さん。長い間待たせちゃったからね。あれから、どれくらいの時間が経ったんだろう。
エレナさんとしての恵美さんを護衛して。
恐い目に遭って家に泊まって。
そこからなんとなく仲良くなって。
この前、みんなにも知られて。
あの後、恵美さんが帰ってからが大変だった。
みんなからからかわれて。
「私が待ちたかったの。今のテロリストとの闘いが終わったら、付き合ってくれるのね?」
「はい。この戦いが終わらないと、安全ではないので……」
「わかった。絶対、帰って来てね?」
胸に顔を埋めた恵美さん。
顔を上げて上目遣いで見つめて来る。
それは、反則だよ。
顔を近づけて、唇が触れる。
柔らかくて。
頭が蕩けていく。
「ねぇ、なんか食べません? お腹空いたぁ」
僕がそう口にすると、くすっと笑って胸を叩く恵美さん。
「もう! 雰囲気台無し!」
「だってぇ。病院食、腹減るんですもん!」
頬を手で掴まれる。
一体どうしたんだろうか?
「その敬語も禁止!」
「えぇー。恵美さんには、なんか敬語で話しちゃう」
「……やだ」
そりゃそうか。
今まで敬語で我慢してきたんだもんなぁ。
我慢させたよね。
今まで、灯がやっぱり脳裏を過ぎっちゃってたから。
「わかった。やめるよ。敬語」
「よろしい! 褒めて遣わす!」
また唇を重ねて来た恵美さん。
こういうやり取りが日常になるんだね。
付き合うって最高だね。
でも、恵美さんに言われた。
これだけ一緒にいるのに、手を出してこないって、もう病気かと思ったと。
僕としては、お客さんだったということもあるし、あんまりそういうのはよくないかなぁと思っていたからね。
「今日は、私が作るよ」
「えっ? 恵美さん作れるの?」
その言葉に沈黙が漂う。
何か変なこと言ったかな?
なんか睨んでるし。
「恵美《《さん》》ってやめて?」
「え、恵美?」
「それでよしっ!」
冷蔵庫のキャベツともやし、ピーマンと肉をだして何を作るんだろう。だいたい想像できるけど……。
「今日は、肉野菜炒め! 焼き肉のたれ味でーす」
「ぷっ!」
思わず笑ってしまう。
それって、肉と野菜をただ炒めて、焼き肉のたれかけるだけじゃないか。
「あぁー! わらったなぁ! 焼き肉のたれかけて炒めると美味しいんだからねぇ!」
そんなの知ってるよ。
どういう怒り方なの?
「なんか、もっとこった料理作るのかと思ったからさ」
そういうと、腰に手を当てて大きな胸を張った。
「あのねぇ。料理は、適当に作った方が多い場合が多いって相場は決まってるのよ?」
まぁ、たしかに。
手を抜いたほうが美味しいって言われたっていうのは、よく聞くよね。
この楽しい時間がずっと続けばいいのにと思っていた。
だけど、まさか誰かがついてきていただなんて、この時は思いもしなかった。




