39.仇のアイツ
窓から外を確認すると、家の前にぞろぞろと現れた黒ずくめの奴ら。それぞれが何かしら武器を持っている様子だ。家の正面にも路地があるのだが、そこも埋め尽くすほどの人数である。
『いいねぇ! ガッハッハッハッ! 亮の出番だぞー!』
陽気な感じで大笑いしながら僕を呼ぶ伴さん。
なんで僕なんですかぁ?
「えぇ? 僕ですか?」
『超近接特化型に誂え向きだろう?』
そりゃそうだけどさぁ。
「ふんっ。俺も出る。さっさと始末するぞ」
そう言いながら玄関を開ける。
警視総監がすぐ前にいた。
「警視総監は、中へ。家族との時間を過ごしていてください。俺達は、敵を殲滅します」
「すまないな」
「こちらの住宅、裏口は?」
流さんは何かを考えているようだ。
「裏に勝手口がある」
「もし、我々が全滅しそうなときは、裏口から逃げてください」
「家族は逃がす。……私は残るよ」
その答えに、流さんは何と言っていいか躊躇っている様子で、沈黙する。
少し考えた後、口を開いた。
「そこは、お任せします。では」
「すまないね。ご武運を」
そう話す警視総監はなんだか悲しそうで、体が少し小さく見えた。この家に来たら、警視総監じゃないんだ。ただの、家を守るお父さんなんだ。
僕も警視総監へと軽く頭を下げると、外へと出て辺りを見渡す。
見渡す限り敵ばかりのようだ。
「えっ? なんか魔法とかで殲滅しちゃダメなんですか?」
「んー。魔法で来た時は仕方ないけど、基本的には、住宅地で魔法を使っちゃダメなんだ。護衛をするためであってもね。そこは正当防衛って感じ」
僕の質問によしさんが答えてくれた。魔法に関しては正当防衛じゃないとダメらしい。たしかに、この前の襲撃の時も撃たれてから撃つみたいな感じだったもんね。
深く息を吸い、大きく息を吐きだす。
「よっしゃあ! いくさじゃぁぁ!」
伴さんの気合いの怒号と共に、玄関へと襲い掛かってくる黒ずくめ達。
僕が一番前で応戦することになった。
入口が狭いので、敵も順番待ちみたいな感じになっている。
頭へ迫ってきた鉄パイプを半身になって避ける。
その腕を捻り上げて、顎へと掌底。
鉄パイプを拾って正面にいた男の顔を突く。
血しぶきを上げて倒れた。
面倒になった僕は、鉄パイプの真ん中を両手で持ってぶん回す。
的確に頭を狙って黒ずくめの中を進んでいく。
集団戦は得意だからね。
あえて集団の中へと潜っていく。
「そっちいったらお願いしますね!」
『任せろ』
流さんが玄関は抑えてくれている。
塀を上ろうとしている人を警棒で叩きつけている咲月さん。
なんだか笑みを浮かべながら「もぐらたたきみたーい」と言っているのはちょっと恐怖を感じた。
『亮。私が少し手助けしてあげる。彼に力を……スピードアップ!』
ララさんが何かをしたみたいだ。
急に、周囲の速度がゆっくりになった。
ゆっくりと迫りくるナイフ。
鉄パイプで弾き、顔面を殴る。
後ろから金属バット。
これもゆっくりだ。
鉄パイプを突いて弾き飛ばし、そのままハイキックで吹き飛ばす。
何人か共にドミノ倒しになる。
なんか、アドレナリンがドバドバ出てる気がする。
なんだこの感覚。
体が、いつもの何倍も早く動いてる。
倒しても、倒しても迫ってくる黒ずくめ達。
次々と迫りくる黒ずくめ達を殲滅していると、奥に人影が見えた。
視線を送ると、頬に火傷の跡のような物が見えた。
見えた瞬間。
理解したのだ。
あの日、灯の血を浴びていた男だと。
頭が沸騰した。
考えるより先に、体が動いていた。
その男に向かって駆けていた。
迫りくる黒ずくめ達を適当に押しのけて。
道を作って通る。
倒れている奴を踏みつけながら前へと。
『亮! どこへ行く!』
流さんの声を無視して僕は、体が動くがままにその男へ突進していた。
「おまえぇぇぇ!」
「硬化」
男が何かを呟いたが、構わず鉄パイプで頭を殴りつける。
金属を殴ったような感触が手に伝わる。
こっちの手が痺れる。
「くっ!」
「あぁ? 誰だっけ? ……いちいち人の顔なんて覚えてねぇからな」
顔をちゃんとみて確信した。
灯を殺したのはお前だ。
「ぐぉぉぉぉ!」
動け体!
腕を振るい、喉元目がけて突きを放つ。
火傷男は、身体を仰け反らせて避ける。
数歩分一気に踏み込む。
仰け反っている状態の顔面を上から拳で叩きつける。
「軟化」
トプンッと顔が弾けた。
「はっ?」
拳を引くと、男は元通り。
どういうことか、理解できない。
さっきは硬かったのに、今度は柔らかい?
「軟化。誰だか知らないけど、死ね。……五月雨」
体がぐにゃりと型崩れする。
意味が分からない状況に戸惑っていると。
男の体から無数の刃が伸びる。
刃物の波が、雨のように降り注いだ。
そこに逃げ場はない。
全身の痛みと共に、鮮血が飛び散る。
目の前が赤く染まった。
体がグニャグニャになったと思ったら、全身を切りつけられた。
理解ができぬまま、膝をつく。
体に力が入らない。
地面には赤い液体が広がっていく。
これで、僕は終わるのか?
このまま、死ぬのか?
「おぉぉ。なんかだいぶやられてんなぁ。一人じゃ荷が重いか?」
そんな声が頭上から聞こえて来る。
「さっきの爆発の魔法とか怖えし、相性わりーな。一旦引くか」
遠くで誰かの声が聞こえて来る。
こいつを逃がしたくない。
でも、体が動かない。
「おい! やめっ! 今日は撤退!」
火傷男が号令をかける。
足音がどんどん遠ざかっていく。
それと同じように僕の意識も遠くへといってしまいそうだ。
「亮! 大丈夫か⁉」
誰だろう?
「亮くん! 酷い傷! 救急車!」
「今呼んでる! まだかかる! 止血!」
「止血ったって、全身やられてんだぞ?」
「これは……ダメかもしれないね」
皆が暗い空気になってる。
僕は、やっぱり死ぬのかな……。
灯、僕は仇を取れなかったよ。
ごめんね。
でも、そっちに行くね。
『亮。まだ死んじゃダメだよ? 大切な人ができたんでしょう? 今度は、私が守ってあげる』
なんだか、身体が何かに包まれている感覚に陥る。
あぁぁ。温かい。灯なのか?
お風呂に浸かっている様な。
そんな気持ちよさを感じた。
僕の意識は、落ちていく。




