35.朝の一幕
休暇を貰って少しリフレッシュできたと思う。でも、警備会社がどうなるのか。それは凄く気になるところだった。
そんな不安を抱きながら、会社へと出社した。
この日は、僕が一番だった。
なんか、いろいろ気になって早く来てしまった。
自分の席へと座り、ため息を吐く。
急に思い立って立ち上がり、コーヒーを淹れる。
自動でやってくれるインスタントのやつだ。
部屋にコーヒーの香りが立ち込める。
いい香りで、僕の心をリフレッシュしてくれる。
香りをいっぱいに吸い込んで一口すする。
苦みが口いっぱいに広がり、脳を覚醒してくれる。
やっぱりブラックがいいよね。
たまには糖も必要だけど、今はいらないかな。
「あー! 珍しくコーヒー飲んでるぅぅ。私ものもー」
やってきたのはララさんだった。
ララさんが早いのも珍しい。
声を明るくして隠しているけど、表情が暗い。
「ララさん、伴さん無事でよかったですね?」
「はぁぁ。なに? 顔に出てた?」
「はい。バッチリ」
僕もあえて明るく答えた。ここで暗い雰囲気にしたら、ララさんの努力を無下にするようで嫌だったからね。
「……なんか、弱いって辛いね」
「わかります。……僕は弱かったですから」
「そうだったね。弱者を知る強者だ」
ララさんのその言葉は自分もそうなりたいという願望もはらんでいるのではないだろうか。僕からしたら、自分の武器があるララさんが羨ましいけどな。
「僕は、ララさんも強者だと思いますよ? 体柔らかいから戦い辛いし、魅力的だし。それだって、女性としての武器じゃないですか。羨ましいです」
そんなことを話したら、ジト目で見られてしまった。
そして、ため息を吐くララさん。
「あのさぁ。亮に言われたくないんだけど、わかってる? 自分の顔」
「僕の顔は普通じゃないですか。どこにでもいますよ。こんな顔」
「はぁぁぁ。これだから困る……」
最後の言葉は小さくて聞き取れなかった。
「なんか言いました?」
「なんでもないですぅぅぅ」
なんか、不機嫌になった?
女性ってのは本当に難しいなぁ。
そんなことを思っていたら、続々と出社してきた。
「あらぁ? 珍しいツーショットだねぇ。はははっ。なんでララは不機嫌そうなの?」
翔さんがそう問いかけると、ララさんは睨みつけて口を開いた。
「亮の無自覚さに飽きれてんのぉ」
「あぁ。それは仕方ないよ。亮は自己肯定感低めだからね」
その会話を聞いていた流さんが割って入った。
「そんなに自分を低く見ていて楽しいのか?」
はぁぁ。また喧嘩売って来てる。
最近は、良いかなぁと思っていたのに。
認められてるんだか、違うんだか。
嫌になるけど、なんか反論したくなった。
「逆に、そんなに自分を高く見せていて、辛くありませんか?」
口元を緩めて挑発してやった。
なにせ、僕に勝てていないんだからね。
たまには僕だって言うんだぞ。
「なん──」
流さんが文句を言おうとしたところで、よしさんが入って来た。表情は険しい。もしかしたら、会社が潰れるという最悪の事態かもしれない。
みんな一斉に整列する。
「おはよう」
「「「おはようございます!」」」
みんな表情が硬い。護さんがしばらく入院というのは知っているからね。ただ、護さんの話を聞くと誰もお見舞いには行ってないっぽかったよねぇ。
「亮は、休みの間護さんのところへ行ったらしいな?」
「……はい」
ここで、僕は気になってしまった。
護さんから、僕の復讐の話を聞いたかなと。
聞いていたとしたら、幻滅したかもしれないなと。
「なら、亮は知っている通りだが、護は元気にリハビリに励んでいる。ロボット義足を発注していて、頭脳の信号を拾って動いてくれるやつだ。それがくれば、今まで通り生活できる」
「じゃあ!」
流さんが嬉しそうに声を出す。
それに、よしさんは頷いた。
「復帰する予定だ。まだ社長は譲れないそうだ。誰かさんには断られたみたいだしな」
チラリとこちらをみるよしさん。
その表情はいたずらっこみたいな笑みを浮かべている。
やめてくださいよぉ。流さんがめちゃくちゃ睨んでるからぁ。
「依頼を受けるのは、引き続き護さんがする。指示の伝達役はボクが。割り振りも護さんがするから。それでな、今日からはツーマンセルで仕事に当たってもらう」
その言葉の後に、誰がペアかの指示が通る。
よしさんは、咲月さんと。
蓮さんは、流さんと。
仁さんは、雅人さんと。
ララさんは、伴さんと。
最後に、翔さんは、僕と。
そのペアの発表で頭を抱えていたのは、蓮さんただ一人だった。
まぁ、ベストじゃないかな。蓮さんは流さんにだとヤンキーみたいなしゃべり方できないし。ちょうどいいんじゃないかなと思える人選だった。
「いいか? 恐らく、メデューサにイージスは認知された。これまで以上に危険を伴う。各自、気を引き締めるように」
「「「はい!」」」
これで朝礼が終わり、続いて依頼の内容が読み上げられてこれからの任務についての話になって行った。
この時は、まだ知らなかった。
まさか、警察組織が壊滅的な被害を受けていたなんて。




