Episode 5
「無名の町」は、桃山の巨大な影の下にひっそりと佇み、一年中、陰鬱な霧と不毛な灰色の塵土に覆われていた。住民はまばらで、その大半は流刑者や貧しい木こり、あるいは禁断の山から漏れ出るわずかな霊気を頼りに身を寄せる、仙道を志しながらも道に迷った者たちであった。空気は常に息苦しく、まるで三界に重くのしかかる見えざる天規そのもののように重苦しかった。
しかし、その死気と陰鬱さに満ちた光景の中に、ここ最近、理解に苦しむほど粗末な店がひょっこりと店を構えた。
門前にはひび割れた木製の看板が斜めに掛けられ、質の悪い墨で蚯蚓ののたくったような文字が滲みながら書かれている。
「ジェスダ東医学木工&祭祀品店 — 信用が信頼を創る」
その破れ寺のような店の中には、朽ち木の青臭い匂いと、店主が「東医学の神薬」と自称する乾燥した雑草の鼻を突く臭いが混ざり合っていた。部屋の隅には、指一本が余裕で入るほどの隙間がある、雑に作られた松の棺桶が積み上げられており、その傍らには塵にまみれた冥銭(金銀紙)の束が置かれている。
この奇妙な店の主こそ、他ならぬジェスダ・ジェンソンであった。かつて尾を一振りするだけで十万の天兵を吹き飛ばしたという、身の丈二メートル十センチの「古神」は、今やその神威を完全に隠し、小賢しい目眩ましの術を使って、うだつの上がらない三流道士へと身をやつしていた。彼ははげた灰色の道着をだらしなく纏い、継ぎ接ぎだらけの衣服の顎には、犬の尾の毛で作った小汚い付け髭を貼り付け、紐の切れた草鞋を履いていた。
この時も、ジェンソンはひょろ長い脚をがたつく木製の机の上に放り出し、破れかけた蒲葵扇をパタパタと仰ぎながら、身のないスイカの種をパチパチと口で噛み砕いては吐き出していた。時折、手を伸ばして向こうずねを掻き毟り、大きなあくびを噛み殺すその姿は、村の老婆から小銭を騙し取る薄汚いペテン師そのものであった。
まさにその時、赤土の埃が舞い散る道の向こうから、二つの影が静かに歩み寄ってきた。一男一女、その超俗的で非凡な気配は、このうらぶれた町の中で完全に浮き上がっていた。先頭を行くのは楊戩。威風堂々たる体躯に、ボロボロの麻布に包まれた「三尖両刃刀」を固く握り締め、その鋭い眼光は剣の如く桃山の頂を見つめていた。その後ろをぴったりと追うのは楊嬋。白い衣をなびかせ、手には石造りの灯籠「宝蓮灯」を捧げ、その端正な顔立ちには拭いきれない憂いの影が差していた。
ジェスダ木工店の前を通りかかった瞬間、楊嬋の足がふと止まった。彼女の心臓がドクンと小さく跳ねる。彼女は振り返り、だらしなく椅子に座ってスイカの種を噛んでいるあの三流道士を見つめた。確かに容姿は醜く、不潔で、髭面である。しかし、その骨の髄から滲み出るような怠惰な佇まい、何事にも無関心で冷淡なその空気感は、彼女の魂を激しく揺さぶるほどの強烈な既視感をもたらした。
(まさか……あなたなのですか?)楊嬋は心の中で呟き、その澄んだ瞳を微かに揺らした。
しかし次の瞬間、その三流道士は大口を開けて涙目になりながら豪快にあくびをし、手元にあったスイカの殻を地面にペッと吐き捨てると、下品にお尻をボリボリと掻いた。楊嬋は一瞬にして現実に引き戻され、自嘲気味に微笑んだ。
(私としたことが、どうかしていたわ。あの偉大なる大御神様を、こんな粗野なペテン師と見間違えるなんて)
客が通りかかるのを見るや否や、ジェンソンは即座に椅子から飛び降り、足早に門前へと駆け寄ると、へらへらと笑いながら手を振って呼び止めた。
「おやおや! そこのおでこの広い大兄、ちょっと立ち止まってくだされ! 貧道が見るに、あんたの眉間はどす黒く曇り、殺気が天を突くほど立ち上っておる。今日はまた一段と乾燥しておるゆえ、近いうちに大火に見舞われ、その身を焼き尽くされるやもしれん。どうだね、万が一に備えて棺桶を一つ買っていかんかね? うちの松の棺桶はひんやりとして寝心地が良く、一度入ればあらゆる憂いを忘えられる。あんたとは何かの縁だ、銅銭二枚まけておこう。さらに線香を一束おまけするが、いかがかな?」
それを聞いた楊戩は足を止めた。そして、これから命懸けの決戦に挑もうという門前で、臆面もなく不吉な呪詛を吐く狂った道士を睨みつけた。「八九玄功」を極めたばかりの者が放つ殺気を含んだ眼光により、周囲の空気は一瞬にして氷点下へと凍りついた。
「失せろ」
楊戩は冷酷に一言だけ吐き捨てた。その声は氷河が砕け散るかのように冷たく、彼は二度とそんなどこの馬の骨とも知れぬ凡夫に目をくれることなく、再び山へと向かって歩き出した。
ジェンソンは二人の後ろ姿を見送りながら肩をすくめ、口を尖らせて不満げに呟いた。
「チッ、買わないなら買わないでいいだろ、何をそんなにカリカリしてやがる。後で焼け死んでも、俺のところに泣きついてくるんじゃねえぞ」
そう言うと、彼はまたのんびりと店内に戻り、再び足を机に乗せて目を閉じ、居眠りを始めた。
町を後ろに置き去り、楊戩と楊嬋は桃山を登り始めた。高く登れば登るほど、天規による圧倒的な圧力と、天庭が至る所に張り巡らせた無数の金色の符札が、彼らの身に重くのしかかってきた。
「何奴だ! 大胆にも禁忌の地たる桃山に立ち入る者は!?」
雷鳴のような咆哮が轟いた。金甲に身を包み、巨大な大槌を手にした数十人の「穣紅力士」が、虚空から姿を現して行く手を阻んだ。彼らは玉皇大帝に絶対の忠誠を誓う守護者であり、移山倒海の怪力を秘めている。
「そこをどけ!」
楊戩は二言目を持たなかった。八九玄功が極限まで巡る。全身の筋肉が膨れ上がり、その皮膚は鋭い金色の輝きを放った。彼が麻布を激しく引き剥がすと、三尖両刃刀が目も眩むような銀の光を放ち、「三頭の蛟竜」の黒き邪気を纏いながら咆哮とともに突き進んだ。
天をも揺るがす悪戦苦闘が始まった。砂塵が舞い、巨石が飛び交い、雷鳴が轟く。楊戩はさながら現世に降臨した戦神であり、彼が一太刀振るうたびに空間が裂け、穣紅力士たちは悲痛な叫び声を上げて、その堅牢な護法神体は逆天の力によって粉々に打ち砕かれた。
一柱の香が燃え尽きるほどのわずかな時間で、天庭の防衛線は楊戩によって完全に掃滅された。彼は桃山の頂に立ち、荒い息を吐きながら、血走った眼光で山頂を幾重にも縛り付ける万の「玄氷の鎖」を睨み据えた。
「母上……! 今、お救いいたします!」
楊戩は天を裂くような咆哮を上げ、大地を激しく踏みしめると、山の半分がひび割れた。両手で柄を固く握り締め、額の「天眼」が見開かれると、九天をも照らす神火の光線が放たれた。全修為、怨恨、そして八九玄功の全力をその一撃に込め、楊戩は桃山に向かって大刀を真っ直ぐに振り下ろした。
轟轟轟!!!
まさに「石破天驚」である。凄惨な崩壊の音が三界に響き渡った。破壊不可能とされた巨大な山は、山頂から麓へと一瞬にして真っ二つに裂け、轟音を立てて左右へと崩れ落ちた。玉皇大帝の符札は万の金色の火花となって爆発した。
立ち込める煙と塵の中に、痩せ細り、満身創痍となった一人の影が落ちていくのを見て、楊戩は矢の如く飛び出し、その冷たくなった身体を抱きとめた。
「母上!」
楊戩と楊嬋は声を上げて号泣し、砕けた岩の上に膝をついた。
**瑶姫**は疲弊しきった鳳凰の目を開け、口元から血を流しながらも、囚われの歳月の中で最も輝かしい笑みを浮かべた。
「戩児……嬋児……こんなに大きくなって……」
彼女の震える手が楊戩の涙に濡れた顔に触れ、楊嬋の髪を優しく撫でた。再会の幸福は、今まさに満たされたかに見えた。
しかし、絶対たる天規は、その威厳を踏みにじる者を決して許しはしなかった。
親子が血の涙を流しながら抱き合っているまさにその時、突如として空の色が変わった。黒雲が押し寄せたのではない。天幕のすべてが、まるで巨大な八卦炉の中に空間ごと押し込められたかのように、血のように真っ赤に染まり、燃えるような熱気が襲いかかってきたのだ。
遥か九天の彼方から、玉皇大帝の無情で冷酷な声が響き渡った。
『瑶姫は天律を犯し、凡夫と密通した。今またその不浄の種が、斧を振るって山を壊すとは、大胆不敵なり! 十日金烏よ、下界へ降りて天罰を執行し、あの忌むべき者どもを焼き尽くせ!』
刹那、霧が引き裂かれた。一つではない、十個の巨大な太陽が同時に桃山の真上に姿を現したのだ。「十日金烏」——玉皇大帝の十人の息子たちが、激しく燃え盛る「太陽真火」を纏い、容赦なく舞い降りてきた。
恐怖の熱度が上昇していく。山の木々は猛烈に燃え上がり、巨石は溶けて溶岩へと変わった。周囲の川や泉は、瞬きする間に蒸発して干上がった。
「あああああ!!!」 瑶姫が悲痛な悲鳴を上げた。
長年玄氷に閉じ込められていた彼女の神体は、すでに極限まで衰弱していた。かつてジェンソンが残したわずかな温もりも、とうの昔に底を突いていたのだ。今、十の太陽の至陽の炎に同時に晒され、彼女の身体からは煙が立ち上り、皮膚が裂け、溶け始めた。
「母上!!!」 楊戩は狂ったように叫んだ。
彼は必死に己の身体で母を覆い隠し、八九玄功を発動して真気の障壁を形成した。大刀を虚空に向けて何度も振り回し、熱気を吹き飛ばそうと試みた。さらには、山の半分ほどもある巨石を素手で持ち上げ、母の日よけにしようとした。しかし、金烏の太陽真火がどうして並大抵の代物であろうか。巨石は赤く焼けただれ、瞬く間に灰となって崩れ落ちた。楊戩の真気の障壁もまた、炎によって容易に貫かれた。
「戩児……嬋児……母のことはよい……」
瑶姫は息も絶え絶えになりながら、その身体が徐々に透明になり、無数の小さな光の粒子へと変わり始めていた。
「お前たちは……生き延びるのです……決して、恨みを抱いてはなりません……」
「嫌だ! 母上が死ぬなど絶対に許さない! 退け! 忌々しい太陽どもめ、失せろ!!!」
楊戩は狂乱して刀を振るったが、彼は空を飛ぶ術を持たず、九天に浮かぶ十の太陽には届かなかった。
子供たちの腕の中で、瑶姫の肉体はついに持ちこたえられなかった。彼女は安らかな微笑みを浮かべ、その瞳にかつて見たあの偉大な背中への遥かな思慕を微かに宿しながら、最後の一滴の血の涙をこぼした。そして、瑶姫の身体のすべてが銀色の灰へと変わり、楊戩の指の隙間から滑り落ちて、燃え盛る虚空へと舞い散っていった。
「母上ーーーー!!!」
楊戩と楊嬋の慟哭が五臓六腑を切り裂くように響き渡った。楊戩の天眼から一滴の血の涙が頬を伝って流れ落ちる。極限の絶望は、瞬時にしてこの世で最も残酷な殺意へと変貌した。
「天庭……玉皇大帝……十日金烏……お前たち全員、命で償わせてやる!!!」
楊戩は完全に発狂した。八九玄功が限界を超えて暴走し、彼の体躯は百倍にも巨大化して、大地を踏みしめ天を衝く巨人となった。彼は山を引き抜き、巨大な砲弾の如く次々と天へ向かって投げつけ、それを踏み台にして天へと駆け上がった。
戦神が狂乱の虐殺へと突入した。彼は虚空に浮かぶ山々を跳び移りながら、三尖両刃刀を振るって金烏たちを真っ二つに叩き斬った。
ザシュッ!
一つの太陽が両断された。烏の悲痛な叫び声が響き渡り、燃え盛る金色の血が豪雨のように降り注いで天を赤く染めた。
ズシャッ! ドスッ!
二つ目、三つ目の太陽が次々と撃ち落とされていく。楊戩は痛みも疲労も忘れ、皮膚が黒焦げになろうとも、その瞳には復讐の炎だけが燃え盛っていた。彼は地獄から這い上がってきた悪鬼の如く、高天の神々を追い詰めた。九天は震撼し、諸仙は恐怖に慄いて逃げ惑った。燃え盛る金烏の骸が流星雨のように下界へと降り注ぎ、人間界に滅亡の災厄をもたらしていった。
三界が焦熱地獄と血の終末に沈む中、地上では「無名の町」が本物の悪夢に見舞われていた。
十の太陽の熱に焼かれ、町は激しく炎上していた。民衆は悲痛な叫び声を上げ、水を求めて押し合いへし合い逃げ惑ったが、水源はとうに干上がっていた。子供たちは声を枯らして泣き叫び、老人は火の海の中で次々と倒れていった。
まさにその街角で、ジェスダ・ジェンソンはまだ自分の木工店の中に座っていた。猛烈な熱気のせいで滝のような汗が吹き出し、道着が肌にぴったりと張り付いている。彼は不機嫌そうに蒲葵扇を激しく扇ぎながら、悪態をついた。
「クソったれが! 空のガキどもめ、どんな火遊びの仕方をしたらこんなに暑くなるんだ!? 脂身が溶けちまうだろうが! 見ろよ、俺の神聖なる東医学の薬草がからからに干からびて、松の棺桶にはヒビが入っちまったじゃねえか。こんな商売じゃ、飯も食えやしねえ!」
その時、遥か上空から、楊戩によって斬り落とされた七番目の太陽である巨大な金烏の骸が、万度の炎を纏いながら「無名の町」を目指して真っ直ぐに墜落してきた。天空を覆い尽くすほどの火球が放つ圧倒的な熱量は、一瞬にしてこの地のあらゆる生命を焦土と化そうとしていた。民衆は目を閉じ、絶望の中で死を覚悟した。
ジェンソンは落ちてくる火の塊を見上げ、舌打ちをした。
「めんどくせえな。これじゃあ俺の祭祀用の冥銭の山が全部灰になっちまう」
彼は立ち上がり、窓を閉めに行こうとした。そして、旅の泥にまみれた足を浸して洗うための、濁った水が入った木桶の脇を通りかかった瞬間、ジェンソンは何とも間抜けな様子で「おっとっと」とつまずいた。
「うわっと!」
彼のつま先が木桶を蹴飛ばし、桶は窓の外へと文字通り吹っ飛んでいった。そして、中に入っていた濁って臭う足洗いの水が、すべて虚空へとぶちまけられた。
しかし、誰も想像だにしなかった。その薄汚い水の中には、古神の肉体から排出された無上の「始源の霊気」がほんの微かに含まれていたのだ。その水が乾燥した熱気と接触した瞬間、大爆発を起こし、さながら大海をひっくり返したかのような豪雨へと変貌した。
ザーーーーー!!!
奇妙な漆黒の雨雲が突如として町全体を包み込んだ。滝のような豪雨が降り注ぎ、そこには生命の根源たる骨の髄まで凍りつくような冷気が満ちていた。一滴一滴の雨が、迫り来る太陽真火に触れていく。天庭の神聖なる炎は本来、通常の水では決して消せないはずの代物であったが、ジェンソンの「足洗い水」に触れた途端、まるで便器に投げ捨てられた煙草の吸殻のように、ジュッと音を立てて容易く消え失せた。
巨大な金烏の火球は一瞬にして冷え切った灰色の岩の塊へと変わり、町の外の空き地にドスンと激突すると、まるで鉄球のようにゴロゴロと転がっていき、誰一人として傷つけることはなかった。町を包んでいた炎もまた、この豪雨によって完全に鎮火され、何が起きたのか分からず呆然とする民衆に、涼しさと蘇生の息吹をもたらした。
店内で、ジェンソンは地面からのそのそと這い上がり、痛むお尻をさすりながら、窓の外の濡れそぼった町を見つめて呟いた。
「危ねえ危ねえ、もう少しで破産するところだったぜ。これからは足元に気をつけねえとな」
遥か高天の上で、ついに虐殺の幕が閉じた。
九つの太陽はすべて撃ち落とされた。今や、最後の一羽となった金烏だけが、恐怖に震えながら雲の合間に隠れていた。楊戩が最後の一撃を加えようとしたその時、楊嬋の宝蓮灯の神火が突如として輝きを放ち、兄の手を制した。もし最後の太陽までも斬ってしまえば、人間界は永遠に冥府の如き闇に閉ざされてしまうからだ。
楊戩の動きが止まった。彼の力は底を突き、過負荷によって八九玄功の障壁には無数の亀裂が入っていた。彼は九天の彼方から、崩壊した桃山の山頂へと力なく落下していった。
かつての勇猛なる戦神は、今や全身が黒焦げになり、血にまみれていた。彼は力なく崩れ落ち、両手で母の残した銀色の灰をかき集めると、それを愛おしそうに胸に抱きしめた。その傍らには三尖両刃刀が深く突き刺さり、主とともに静かに涙を流しているかのようであった。天眼からの血の涙は止まることなく流れ続け、荒涼とした大地を赤く染めていく。すべてを失った勝者の悲哀が、乾坤のすべてに染み渡っていた。
山の麓では、消えかけの蝋燭の炎のような、血のように赤い夕暮れの光が静かに落ち始めていた。
三流道士のジェンソンは木工店の門前に寄りかかり、古びた竹箒を手にして、軒先に散らばった太陽の灰をのんびりと掃き清めていた。彼は箒の手を止め、男の悲痛な慟哭が響き渡る桃山の頂を、静かに見上げた。
ジェンソンは何も語らなかった。塵一つ留めぬその澄んだ瞳が、ただ一瞬だけ、言葉に尽くせぬ複雑な揺らめきを見せた。彼は静かに、誰に聞こえるでもない溜息を一つ漏らした。その声は、うら寂しい夕暮れの風の中に吸い込まれて消えた。
そして彼は振り返り、がたつく木製の扉をゆっくりと閉め、閂をかけ、灯りを消して眠りについた。因果の輪廻という名の苦痛の中で血を流し、悶え苦しむ外の世界のすべてを、ただ置き去りにしたまま。
北風は今なお、桃山の砕けた断崖を吹き荒れているが、天地の咆哮は今や、憂鬱な嘆息へと変わっていた。九つの太陽が九重天から切り落とされてから、すでに七日七晩が過ぎ去った。かつて気高き長公主を幽閉していた霊峰・桃山は、冷たい銀の灰に覆われ、今や荒涼とした廃墟と化していた。
砕けた巨石の足元で、楊戩は未だ膝をついていた。その姿は、荒れた髪や血を滲ませる逞しい両肩に灰が降り積もるのも構わず佇む、太古の石像のようであった。全身の皮膚は裂け、太陽真火が残した火傷は今なお赤々として浸出液を滲ませていたが、その肉体の激痛とて、胸中の底知れぬ虚無感に比べれば些細なものに過ぎなかった。彼の血に染まった無骨な両手は、母・瑶姫の銀の遺灰を収めた素朴な泥の壺を、壊れ物を扱うかのように大切に抱き抱えていた。涙は出ない。三日前にすでに枯れ果て、目尻から顎にかけて乾いた暗赤色の血涙の跡が二筋、生々しく残っているのみであった。
楊戩の沈黙は、周囲の空間さえも凍りつかせていた。荒れ狂う憎悪は消え失せ、代わりに万年氷のように凝縮された、静まり返った殺気が満ちていた。
一方その頃、九重天の頂にそびえる霊霄宝殿は、極限の混乱と緊張に包まれていた。
玉皇大帝は黄金に輝く玉座に君臨していたが、その顔は土気色にこわばり、その瞳には怒りと隠しきれない震撼が燃え盛っていた。彼の九人の息子——気高き九つの太陽——は、今や巨大な金烏の骸と化して人間界に墜落していた。これは天地開闢以来、天庭が被ったことのない未曾有の損失であった。
「逆賊め! 何たる不届き千番!」玉皇大帝は玉座の肘掛けを激しく叩きつけた。その轟音は、玉殿全体を揺るがした。「九つの太陽を撃ち落とし、天規を踏みにじり、我が息子たちを虐殺するとは! 雷神、電母、我が十万の天兵はどこへ行った!? なぜ直ちに下界へ降り、あの不浄の種を八つ裂きにせぬのだ!?」
殿上は、静まり返って針の落ちる音さえ聞こえぬほどであった。普段は威風堂々たる大仙や神将たちも、今は皆うつむき、一言も発する者はなかった。彼らは、照魔鏡を通して、楊戩がただ一振りの大刀を手に巨人と化し、十万の天兵を蹂躙しながら狂ったように十日金烏を追跡する光景を目撃していたのだ。八九玄功の威力に、天に抗う意志と復讐の殺気が結びついたその力は、天庭をも崩壊させかねないものであった。母を失って発狂した野獣に、一体誰が進んで立ち向かおうとするだろうか。
その息苦しい空気の中、白い髭を蓄えた、機知と慈悲深さで知られる大長老・太白金星が静かに列から進み出た。彼は深く一礼して奏上した。その声は穏やかでありながら、理路整然としていた。
「啓して申し上げます、陛下。陛下の怒りはごもっともにございますが、何卒三界の大局をお考えください。楊戩は今や八九玄功を極めて肉身成聖を遂げ、その手に持つ三尖両刃刀は百戦百勝の威力を持ちます。もしこれ以上兵を送り、彼を窮地に追い込めば、彼は必ずや軍勢を率いてこの霊霄宝殿へと攻め込んでくるでしょう。さすれば三界は大混乱に陥り、天機は覆ります。その結果を、誰が負えるというのですか?」
玉皇大帝は歯を食いしばり、声を嗄らして言った。「ならば、朕があの不浄の種に妥協せねばならぬというのか?」
太白金星は首を横に振り、策を献じた。
「妥協ではございません。招安にございます。暴力で恨みを育てるよりは、彼に官位と領地を与え、名誉によって彼を縛り付け、衆生を護るという責任によってその殺気を削ぎ落とすのです。楊戩がいかに強かろうとも、所詮は凡人の血を引く半神。彼にはまだ、守るべき妹の楊嬋がおります。家族の安全な退路を提示されれば、彼とて拒むことはありますまい」
玉皇大帝はしばらく沈黙し、撃ち落とされた九つの太陽の残骸を見下ろすと、最後は無力感に満ちた溜息を漏らした。天規は厳格なるもの。しかし、天をも滅ぼす絶対的な力を前にしては、天庭の支配者とて譲歩を選ばざるを得なかった。
九重天から一筋の黄金の金糸の布が舞い降り、玉皇大帝の聖旨を載せて、荒廃した桃山の楊戩の目の前にそっと着地した。
天庭の使者は彼から数十丈も離れた場所に立ち、震える声で聖旨を読み上げた。楊戩を「二郎顕聖真君」に封じ、広大な灌江口の地を統治させ、下界の万民からの香火を享受させ、その地位を天仙の大臣と同等にする、という内容であった。
楊戩はそれを聞き終えても、膝をついて恩に服することも、いささかの喜びを表すこともしなかった。彼はゆっくりと立ち上がり、三尖両刃刀を肩に担いだ。かつては少年の眩しい輝きを宿していたその鳳凰の眼は、今や完全に冷酷な霧に覆われていた。
桃山崩壊の血涙を経て、楊戩はもはや暴力だけで恨みを晴らしようとする衝動的な子供ではなかった。太陽を撃ち落とすことはできても、己の一手で天のすべてを覆うことはできぬと理解していたのだ。力を蓄え、妹の楊嬋を保護し、天庭の束縛を受けぬ独立した勢力を築くための足がかりが必要であった。
楊戩は一歩踏み出し、鋭い三尖両刃刀で桃山の大地に一本の深い溝を刻み、凡界と仙界の境界を完全に断ち切った。そして天庭の使者を真っ直ぐに見据え、虚空に響き渡る雷鳴のような声で告げた。
「玉皇大帝に持ち帰って伝えるがよい。灌江口の領地は受け取ろう。二郎神の称号も受け取ろう。だが、この楊戩、ここに誓いを立てる。**『調を聴いて宣を聴かず(聴調不聴宣)』**とな!
三界に妖魔が跋扈し、衆生が苦しむならば、魔を除き道を護るために出兵の命には従おう。だが、天庭への朝貢、玉皇大帝への拝謁、あるいは天庭の配下として仕えよとの召喚であれば……お断りだ。この楊戩、断じて聞き入れず、屈服せず、霊霄宝殿へ一歩たりとも足を踏み入れることはない!」
その毅然とした宣言は、天庭の威厳に冷水を浴びせるものであった。使者は恐れおののいて頭を下げ、這う這うの体で一筋の金光となって天へと逃げ帰った。
楊戩は白い雲を見送り、額の「天眼」が微かに蠢いた後、ゆっくりと閉じられ、古い傷跡のような淡い赤色の線へと変わった。かつて赤々と燃えていた少年の心は、冷徹な無感情の氷の下に正式に封印された。彼は高貴なる神へと昇りつめたが、同時にこの世で最も孤独な存在となった。
滔滔と流れる灌江の三叉路のほとりで、風が楊氏兄妹の衣を激しくなびかせていた。ここは天庭から与えられた領地の境界であり、二人がそれぞれの修道の道へと進むために、別れを告げる場所でもあった。
楊戩は妹を見つめ、その眼差しを和らげて、滅多に見せない温かみを宿した。
「嬋児、灌江口は土地が広く人も多い。俺はすでに廟を建て、警備の兵も募った。ここに留まって俺と一緒に暮らそう。お前を一生守り抜く。天庭の奴らに、お前の髪の毛一本すら触れさせはしない」
楊嬋は兄を見つめた。端正な顔立ちながら、その瞳には兄に劣らぬ強い決意が宿っていた。彼女は静かに首を振り、胸の前に「宝蓮灯」を掲げた。
「お兄様、あなたには戦神としての道があり、私には私自身の道果がございます。いつまでもお兄様の後ろで守られているわけにはまいりません。九つの太陽がもたらした大火は多くの村を焼き尽くし、西方の数万の無辜の民を苦しみに陥れました。私は宝蓮灯を携えて西岳・華山へ赴き、この慈悲の灯火をもって大地を癒やし、貧しき人々の苦しみを和らげたいのです」
彼女は言葉を少し濁し、その瞳の奥に秘められた物思いを過らせた。
彼女の心深きところにおいて、華山は衆生を救う地であるだけでなく、天庭の権力闘争から遠く離れた静寂の地でもあった。霧深い山頂で、彼女は桃の木の下に静かに座り、古めかしい蓮の灯火の優しい光に魂を委ねながら、心の中でただ一人の偉大な背中をひっそりと想い続けることができるのだ……。
それは、かつて彼女の心に、決して芽吹くことはないが枯れることもない一粒の思慕の種を植え付けた、あの猿の尾を持つ怠惰な「古神」の姿であった。見返りを求めぬ純粋な片思いこそが、宝蓮灯の火を灯し続ける最も澄んだ活力となっていた。
楊戩は妹の心中を見透かし、きっぱりと溜息をついた。
「よかろう。お前が決めたことなら止めはしない。華山は灌江口からも遠くない。もしお前に無礼を働く不届き者がいれば、知らせを送るがよい。俺の三尖両刃刀が、一瞬にして華山を平らげてみせる」
楊嬋は微かに微笑み、兄に一礼した。彼女は温かみのある翠色の光と化し、荒涼たる西方へ向けて飛び去った。険峻な華山の頂で、彼女は慈悲の光をもって衆生を救い、大地の傷を癒やし、やがて万民から「華山聖母」と崇められる、最も優美で慈愛に満ちた守護女神となった。
三界が驚天動地の激変に揺れ、神々の運命が再編される一方で、荒廃した桃山の麓に佇む「無名の町」では、凡夫たちの日常が静かに、そして緩やかに息を吹き返しつつあった。
人々は、あの恐ろしい太陽の炎から町を救った「奇跡の大雨」について口々に噂し合っていた。誰もが、慈悲深い大仙が通りかかって救いの手を差し伸べたのだと信じて疑わなかった。その「救世の大仙」が、今まさにうらぶれた木工店の店先で、唐辛子を食べた猿のように顔を歪めてしゃがみ込んでいるとは、夢にも思わずに。
「糞ったれが! ここで棺桶やら祭祀品を売ればボロ儲けだって言ったのはどこのどいつだ!?」
ジェスダ・ジェンソンは、未だあのボロボロの三流道士の道着を羽織り、顎に貼った犬の尾の毛の付け髭を曲がらせたまま、忌々しそうに荷物をまとめていた。
彼はひび割れた松の棺桶を軽く蹴飛ばし、ぶつぶつと愚痴をこぼした。
「あの日の大雨は本当に忌々しい。どこからともなく降ってきて太陽の炎を消しやがって。そのせいで、この町で焼け死ぬ奴が一人も出なかったじゃねえか! せっかく一等品の松の棺桶を何十個もこしらえ、神薬の草を乾かし、冥銭を山ほど仕入れたってのに……全部売れ残ってカビが生えちまう! 本当に貧乏くじを引きやがったぜ!」
彼は、あの忌々しいつまずきで足洗い水をぶちまけたことこそが、己の商売計画を自らぶち壊した元凶であることに、微塵も気づいていなかった(あるいは、気にも留めていなかった)。
ジェンソンは不機嫌そうに顎の付け髭をむしり取って放り投げると、焼きかけのサツマイモと一掴みのスイカの種を古い風呂敷に詰め込み始めた。風呂敷の端を結んで肩に担ぎ、かつて「ジェスダ東医学木工&祭祀品店」の看板を掲げていた破れ店を最後に見遣った。
「ふん、ここの風水は俺様には合わねえな。新天地を開拓するとするか」彼は指を折って無意味な占いをするふりをしながら、独り言を呟いた。「風の噂じゃ、最近は向こうの灌江口と華山がえらい賑わいらしいじゃねえか。二郎神だの聖母だのの廟を建てるために、蟻の群れみたいに人が押し寄せてるってな。あそこなら間違いなく死人がたくさん……いや、神仏を拝むために供え物を買う奴がたくさんいるはずだ!」
思い立つや否や、三流道士のジェンソンは錆びついた鍵で店を閉め、ポケットに鍵をねじ込むと、赤土の埃が舞い散る道をのんびりと歩き出した。
薄暗い黄昏時の中、偽道士の影がひょこひょこと歩んでいく。口ずさむ流行り歌は完全に音程が外れていたが、その姿はどこまでも自由奔放で憂いを知らなかった。彼は、桃山の頂で繰り広げられた栄光や血の復讐など微塵も気に留めることなく、因果の輪廻の外側に悠然と立ち、新たな地を目指して、その愉快で無知なる旅路を続けていくのであった。




