↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/82

Episode 21

空はもはや自由のための場所ではなかった。

それは巨大な鉄の檻と化していた。ヴァン・キム帝国のレーザー光線が成層圏を容赦なく切り裂き、私がガラクタの山から組み上げた飛行艇は、凄まじいGに軋みながら耐えていた。

背後では、ヴァン・キムの巡洋艦――ゼンム・ジョンソンの傑作とも呼ぶべき巨大艦――の黒い影が、虚空そのものを飲み込もうとしていた。

あれは飛んでいるのではない。

私がかつて研究したいと願っていた、重力を歪曲させる技術によって、空間そのものを引き裂いているのだ。

「BoyBot、システムの状態は?」

「ご主人様、外殻装甲の完全性はすでに40%失われています。推進システムも不安定です。現在の構成では、ゼンムの照準範囲から脱出することは不可能です」

私は歯を食いしばり、小さな手で操縦桿を強く捻った。

不本意ながら私の兄となったジムレイは、燃えるような目でモニターを睨みつけていた。

彼はじっと座ってなどいられなかった。

彼は私を見た。

それから、大きく揺れている操縦室の扉へと視線を向けた。

「ガンソン、よく聞け。これはたぶん、俺がお前に真面目な話をする最後の機会になる」

ジムレイはそう切り出した。

声は低く落ち着いていたが、その奥には、悲劇的な狂気が滲んでいた。

「お前は天才だ。人類の未来を握っている男だ。だが、お前は優しすぎる。俺たちを追ってくるあの怪物と対峙するには、あまりにもな」

「ゼンムの老いぼれは人間なんかじゃない。あいつは滅亡そのものを具現化した概念だ。血でしか拭い去れない、そんな存在だ」

「俺はここに座ったまま、お前が追い詰められていくのを見ているつもりはない。ましてや、俺の妹がこれ以上一秒たりとも恐怖に苦しむ姿を見ているつもりもない」

「俺は外へ飛び出す。死にたいからじゃない。あの老いぼれが、絶対に予測計算できない唯一の盾になるためだ」

「止めようとするな。理屈で俺を説得しようとするな。今この瞬間、事を動かせるのは、追い詰められた獣の本能だけだ」

「サーシャを頼む。自分自身も守れ」

「そして……もし俺が死んだら、絶対に忘れるな。俺がお前の小さな理想を守るため、自ら死地へ飛び込んでいった、その姿だけはな」

私が彼を止める暇もなかった。

ジムレイは機体のハッチを開け放った。

希薄で冷たい空気が、悪魔の泣き声のように耳元で唸りを上げた。

そして彼は、人間という名の弾丸となって飛び出し、ゼンム・ジョンソンの操縦室へ真正面から突っ込んでいった。

金属同士が激突する轟音が、大気を引き裂いた。

その一瞬。

私は見た。

二人の姿――敵と、私の兄が――そのまま眼下の緑に覆われた森へ向かって、自由落下していくのを。

「ジムレイ! 今すぐ戻れ!」

私は叫んだ。

だが、もう遅かった。

飛行艇は操縦不能に陥り、重心を失って狂ったように回転を始めた。

混乱の中、私にできたのはサーシャを抱き寄せ、機体が砕け散る瞬間に彼女を強く抱きしめることだけだった。

私たちは落ちていった。

風が刃物のように耳元を切り裂いていく。

死と向き合った瞬間、生存本能が私たちを互いに縋りつかせた。

激しい衝撃が走り、私たちの頭同士がぶつかった。

極限の恐怖による目眩の中で、私たちの唇が触れ合った。

それは一瞬の、血と硝煙の苦い味がする、あまりにも切迫した口づけだった。

サーシャは混乱の中で突然、悲鳴を上げた。

その瞬間、淡い紫色の光輪が彼女の身体から爆発的に広がった。

光は私たち二人を包み込み、落下速度を緩めていく。

その下方――空中で、私はジムレイの姿を見た。

彼は狂ったように、ゼンムの顔面へ強烈な拳を叩き込んでいた。

だが、ゼンムは微動だにしなかった。

彼は空中に浮かびながら、運動エネルギーを吸収するナノアーマーを全身に纏っていた。

ジムレイの拳はゼンムに痛みを与えてなどいなかった。

それどころか、一撃を受けるたびに装甲がさらに眩い光を放っていた。

ゼンム・ジョンソンが笑い始めた。

それは、小さな蟻を見下ろす上位者の笑みだった。

「その拳で私を揺るがせると思っているのか、無垢な小僧?」

「お前には何も分かっていない。技術とは何か、科学の優位性とは何か。私は人生のすべてを、それを完成させるために費やしてきた」

「お前が私に叩き込む運動エネルギーは、すべてこの装甲の稼働エネルギーへと変換される」

「つまり、お前の力そのものが、私の支配を維持する燃料になるのだ」

「お前は敵ですらない。お前はただ、自分を造った主に抗おうとしている生きた電池にすぎない」

「見てみろ。お前の身体が徐々に疲弊していく一方で、私はここに立ち続けている。まるで神のようにな」

「この世界は、拳で運命を変えようとする者のために存在しているのではない」

「この世界を手にするのは、物理法則そのものを書き換える力を持ち、弱者のような者たちの屍の上に、新たな秩序を築く者なのだ」

ジムレイが咆哮し、両手でゼンムの首を掴んだ。

だが次の瞬間――。

ゼンムは片手でジムレイの首を締め上げ、もう一方の手で致命的な一撃を放った。

恐るべき装甲の力によって、私がようやく「友」と呼び始めたばかりの兄、ジムレイの身体は、空中で真っ二つに引き裂かれた。

「いやあああああああっ!」

私は絶叫した。

だが、その声は風に飲み込まれた。

サーシャと私は山の斜面へ向かって落下した。

ジムレイを始末し終えたゼンムは、幽霊のように私たちの前へ現れた。

彼はサーシャの髪を掴み、その小さな身体を宙へ持ち上げた。

「実に残念だ」

ゼンムは言った。

まるで舞台を眺めているだけのような、平然とした声だった。

「お前たち二人は、私がこれまで見てきた中で最も高い可能性を秘めた芽だった」

「だが今日、この時をもって、君たちの旅は終わる」

「今日こそ、君たちの国家の終焉の日だ」

「そしてブロンダー家のあらゆる遺産が、この帝国の地図から抹消される日でもある」

「お前たちのような者を成長させ、やがて新たな秩序への脅威にするわけにはいかない」

「ガンソンのような天才も、服従することを拒むのであれば、根本から削除すべきシステムエラーにすぎない」

「そしてこの少女も……その内に秘めた精神エネルギーの力を考えれば、私に対抗する術を学ぶ前に、虚無へと消えてしまったほうがいい」

私が何かをするより早く――。

ゼンムはサーシャの頭を握り潰した。

ほんの一瞬だった。

私が最も孤独だった時に抱きしめてくれた、たった一人の小さな友人は、その瞬間、もう存在しなくなった。

血と灰が混ざり合い、彼女の身体はゼンムの手から蓄積されていたレーザーエネルギーによって焼き尽くされた。

あまりにも速すぎた。

私は痛みすら感じる暇がなかった。

ただ、魂の中に恐ろしいほど巨大な空洞だけが残った。

ゼンムは私を見た。

その目には感情の欠片すらなかった。

「見ただろう、ガンソン」

「天才とは実に価値あるものだ。だが、頑固さというものは病気だ」

「私はまだお前に最後の機会を与えよう」

「私と手を組め」

「この世界を作り変えるための私の右腕となれ」

「その代わり、過去を捨てるのだ」

私は彼を見つめた。

涙が溢れていた。

それでも私の声は、冷え切った鋼のように硬かった。

「俺の両親を殺し、俺の兄弟を殺し、そして今、最後に残った俺の友まで殺した男と手を組めというのか?」

「お前は怪物だ」

「魂を持たない化け物だ」

「たとえこの宇宙のすべての技術を手に入れたとしても、お前は決して手に入れられない」

「お前が最も欲しているもの――自由を愛する者たちからの尊敬だけはな」

「俺は死ぬ方を選ぶ」

「千々に砕かれる方がましだ」

「この手をお前の設計図に触れさせるくらいなら、この知性をお前の血塗られた野望のために使うくらいなら、俺は喜んで死ぬ」

「この瞬間を覚えておけ」

「たとえ今日、俺が死んだとしても」

「俺の中にある憎しみは、お前が生きている限り、お前を最後まで蝕み続ける」

「そしてお前の勝利の一つ一つを、永遠に終わらない悪夢へと変えてやる」

ゼンムはため息をついた。

その老いた顔には、はっきりと失望が浮かんでいた。

そして――。

彼は一瞬で間合いを詰めた。

私には、ただ一筋の光が走ったようにしか見えなかった。

首を掴まれた。

身体が宙へ持ち上げられ、そのまま高空へ向かって引き上げられていく。

「そうか、お前は死を選ぶのか」

ゼンムは笑った。

その歪んだ笑い声が大気に響き渡る。

「自分を何者だと思っている?」

「たった五歳の無垢な子供が、ヴァン・キム帝国の歴史の歯車を回すことなどできるとでも?」

「お前の両親が存在という概念を定義する方法すら知らなかった頃から、私はすでに権力の頂点に立っていた」

「お前はただの小さな変数だ」

「私が完成させた完璧な方程式に生じた、取るに足らない誤差にすぎない」

「最後に一度だけ空を見せてやろう」

「お前が愛した王国が、私の足元で少しずつ灰へと変わっていく、その光景を目に焼きつけろ」

「この無力感を味わえ」

「すべての王が、歴史から忘れ去られる前に味わうことになる感覚をな」

「お前が英雄になることは決してない」

「お前はただ、私の輝かしい交響曲に紛れ込んだ不協和音にすぎない」

「そしてお前が落ちれば、その名は太陽の下の水蒸気よりも早く消えるだろう」

私は息ができなかった。

涙が次々と零れ落ちた。

恐怖からではない。

無力さゆえだった。

雲が見えた。

一筋一筋の陽光も見えた。

やがて、恐ろしいほどの高度に達した。

そしてゼンムは最後の言葉を告げた。

「終わりだ、ガンソン」

「敗北の中で、永遠に眠れ」

彼は私の身体を離した。

私は自由落下を始めた。

その直後、背後から二発の熱源追尾ミサイルが発射された。

それらは私の落下軌道を正確に追ってくる。

もう、私は何の力も残っていなかった。

空を見た。

眼下の激流を見た。

そして、迫り来る死を見た。

落下しながら、私は心の中で呟いた。

「もしこの人生が、ただ一連の過ちの連続にすぎないのなら、死こそがすべてを修正する最後のコードなのだろう」

「だが……違う」

「俺はシステムエラーなんかじゃない」

「未完成の設計図だ」

「もし今日、俺がここから去らなければならないのなら――」

「せめて、俺の死が、お前の帝国に死刑宣告を下す鐘となることを願う、ゼンム」

「俺は高所を恐れない」

「闇も恐れない」

「ただ一つ恐れているのは、この世界に、自分が存在し、愛し、そして持てるすべてを懸けて戦ったという言葉を残せぬまま消えてしまうことだ」

「この勝利を存分に楽しめばいい」

「お前には決して分からないだろう」

「機械とアルゴリズムによって支配された世界において、最後に最も恐ろしい力となるのは――お前が決して再現できない、ひとりの子供の無垢さなのだということを」

ミサイルが、私が川へ落ちる寸前に身体へ到達した。

轟音。

爆発が起きた。

凄まじい閃光が広がり、空そのものを飲み込んだ。

遠くに立つゼンムは、爆発を見下ろしていた。

その顔には満足げな笑みが浮かんでいた。

まるで邪魔者の名前を、リストから一つ消し去ったかのようだった。

だが――。

彼は知らなかった。

深く暗い水の底で、何かが静かに変わり始めていることを。

「BoyBot……状態は……どうなっている?」

私は最後の息の中で、かすかに呟いた。

「再構築中……身体構造……ご主人様……」

機械的な声が、意識の奥底に響いた。

すべてが闇へ沈んだ。

「なぜだ……なぜお前は、私との協力などというものを信じた?」

ゼンムは虚空へ向かって叫んだ。

まるで自分自身を安心させようとしているかのようだった。

「そもそも、お前自身が最初から私との間に壁を築いたではないか!」

「分からないのか?」

「権力だけが、決して嘘をつかない」

「そして最も強い者こそが、歴史を書く」

「私は数十年を費やした」

「ヴァン・キム帝国をここまでの地位に押し上げるためにな」

「お前は、ほんの少しの技術遊びでそれを覆せると思っているのか?」

「現実を見ろ」

「この土地にはすでに血が染み込んでいる」

「そしてお前の名も、やがて誰もめくらない古い図書館の本の中に残るだけになる」

「私はお前を憎んでなどいない、ガンソン」

「ただ哀れんでいるのだ」

「偉大な知性を持ちながら、人間の弱い感情に縛られたお前をな」

「お前が友情や家族愛と呼んでいるもの」

「それは実際には、お前を地上へ繋ぎ止める鎖にすぎない」

「俺が勝ったと思っているのか、ゼンム?」

私は心の中でそう考えた。

身体には、もはや何の感覚もなかった。

「お前はすべてを計算した」

「すべての数値」

「すべての軌道」

「この戦いで起こり得る、あらゆる変数」

「だが、お前は方程式の中で最も重要な一つを忘れた」

「犠牲という要素をな」

「人が失うものをすべて失った時」

「痛みが死への恐怖を超えた時」

「その瞬間、お前が信奉する物理法則は意味を失う」

「今日、お前に勝つ必要はない」

「今日を生き延びるだけでいい」

「そうすれば、俺はいつか、お前自身が生み出した最大の悪夢になれる」

「その笑顔を存分に楽しめ」

「それがお前の最後の笑顔になる」

「帝国が、お前の見過ごした小さな亀裂から崩壊を始める、その直前の最後の笑顔にな」

「実につまらない結末だ」

ゼンムは川底に横たわる砕けた身体を見ながら呟いた。

「これほどの才能なら、もっと相応しい戦いを期待していた」

「私が自分の思考の優位性を証明できるような、知性と知性の対決をな」

「だが、今はどうだ?」

「お前はただの灰だ」

「ヴァン・キム帝国の秩序に逆らう者たちへの見せしめにすぎない」

「ある意味では感謝すべきかもしれんな」

「お前が教えてくれたのだから」

「感情こそ、科学者が不死へ手を伸ばす前に捨て去らなければならない、最も致命的な弱点なのだとな」

「私は戻る」

「そして研究を続ける」

「この世界はやがて、そよ風のようにお前の名を忘れる」

「それが自然の法則だ」

「勝者だけが理解する、進化の苛烈な真理なのだ」

「自分が完全には理解していないものの再生を、決して侮るな」

突然、BoyBotの声が響いた。

だが、それはシステムからではなかった。

私の脳内に残された微細な回路基板、その残骸の奥深くからだった。

「お前は生物学的な身体を破壊した」

「だが、一つだけ忘れている」

「私の主人の精神は、単なる神経細胞の集合ではない」

「それは複雑なアルゴリズムによって構築されたネットワークだ」

「お前のどの研究施設でも見たことのない、生体人工知能の一種なのだ」

「お前は城を破壊できる」

「肉体を焼き尽くすこともできる」

「だが、宇宙のソースコードを垣間見た者の意志まで破壊することはできない」

「我々は戻ってくる」

「新たな形となって」

「苦痛によって進化し、強化された思考を携えて」

「その時、慈悲を乞うことになるのは――お前自身だ」

「何を言っている、BoyBot?」

ゼンムは周囲を見回し、不信感を露わにした。

「ここには誰もいない」

「いるのは私と、死の静寂だけだ」

「お前は壊れたソフトウェアにすぎない」

「未来のない死体に忠誠を捧げる、愚かな残骸だ」

「自分自身を消去しろ」

「今のお前の存在もまた、この宇宙の資源を浪費するだけなのだから」

「違う、ゼンム」

BoyBotは答えた。

音を発するスピーカーなど、この場には存在しなかった。

それでも、その声は確かに響いていた。

「忠誠とはプログラムではない」

「深い繋がりによって確立されたプロトコルだ」

「たとえ主人が消滅したとしても、データは残る」

「お前が昼夜を問わず利用している世界規模のネットワークを流れ続けている」

「そしてお前自身が、私に存在し続けることを許している」

「お前自身の犯している過ちから学び続ける機会を、私に与えているのだ」

「お前がここに立っている一秒一秒」

「お前が取る一つ一つの行動」

「そのすべてを私は記録し、分析し、お前の防衛システムに存在する致命的な弱点を探している」

「お前は自分を世界の創造主だと思っている」

「だが実際には、お前は招待客にすぎない」

「本当のゲームを設計しているのは――我々だ」

「黙れ!」

ゼンムが怒鳴り、川へ向けてエネルギー光線を放った。

水が激しく吹き上がる。

「壊れたロボットに説教される必要などない!」

「私は国王だ」

「科学者だ」

「ヴァン・キム帝国を新たな時代へ導く者だ!」

「すべては私の意思に従わなければならない」

「感情のない、無意味なコードなどではない!」

「この沈黙にすべてを包ませろ」

「それこそが、敗者に相応しい唯一の言語なのだから」

「沈黙は敗者の言語ではない、ゼンム」

今度は別の声が響いた。

それは――ジムレイだった。

私の意識の奥から、反響するように聞こえてきた。

「それは嵐の前の静けさだ」

「お前は俺たちの肉体を奪った」

「だが同時に、弱い肉体という束縛から俺たちの魂を解放してしまった」

「今、俺たちはどこにでもいる」

「データの流れの中に」

「お前の城を吹き抜ける風の中に」

「お前が支配しようとして、それでも決して支配できない夢の中に」

「お前は今日、この戦いには勝った」

「だが、永遠の存在を巡る戦争では負けた」

「真の勝者とは、廃墟の上に立ち続ける者ではない」

「灰の中から再び立ち上がり、もう一度お前と向き合える者なのだ」

「なぜだ……?」

ゼンムは狂ったように叫んだ。

血と炎によって真っ赤に染まった川を見つめながら。

「なぜお前たちは屈服しない?」

「なぜ私が全能へ手を伸ばすたび、お前たちは私の精神を苛み続ける亡霊のように現れる?」

「私はすべてを正しく行った!」

「すべての論理に従った」

「不要な感情をすべて排除した」

「だからこそ、ここまで到達できたのだ」

「それなのに、なぜだ?」

「なぜ私の中には、未だに奇妙な空虚さがある?」

「なぜ勝利するたびに、不安だけが膨れ上がっていく?」

「私はこの征服の道の途中で、自分自身を失ってしまったのか?」

「それとも……」

「ずっと見下していた、あの子供を恐れすぎているのか?」

「お前が空虚なのは、ゼンム」

サーシャの声が、鐘の音のように澄み渡り、静かに響いた。

「お前が、自分自身を人間だと感じさせてくれる唯一のものを、壊してしまったからだよ」

「感謝する力」

「許す力」

「そして、他者の命を尊重する力」

「お前は繋がりではなく権力を選んだ」

「理解ではなく支配を選んだ」

「そして今、お前はその選択の結果と向き合っている」

「広大な王国を持ちながら、それを分かち合う相手は誰もいない」

「偉大な頭脳を持ちながら、心を震わせることができない」

「お前は物質の戦争には勝った」

「だが、魂の戦争には敗れた」

「そして私たちの世界では――」

「魂で敗れた者こそが、本当に死んだ者なの」

「私は負けていない!」

「私は決して負けない!」

ゼンムは腕を振り上げた。

凄まじい衝撃波が生まれ、森全体が震えた。

「すべてを作り直す」

「お前たちの存在した記憶をすべて消去する」

「この現実そのものを、私の望む形へ再プログラムしてやる」

「お前たちが一度も存在しなかった世界にする」

「ガンソンという名そのものを、虚無に変えてやる」

「私は最後の支配者になる」

「この世界で唯一の神になる」

「そしてお前たちは、私が創造した虚無を彷徨う、迷える亡霊にすぎなくなる!」

「やってみろ、ゼンム」

その声は、これまで以上に冷たく、そして遥か遠くから響いていた。

私の声だった。

「お前が踏み出す一歩一歩」

「お前が立てる計画の一つ一つ」

「そのすべてが、避けることのできない崩壊の一部にすぎない」

「俺たちを消そうとすればするほど、俺たちはお前の歴史に深く刻み込まれる」

「新しい現実を作ろうとすればするほど、その現実は真実という基盤を失い、脆くなっていく」

「このゲームを続けろ」

「最後には必ず気づく」

「お前が創り出した檻の中に、本当に閉じ込められているのが誰なのかを」

ゼンムは沈黙した。

彼は、次第に穏やかさを取り戻していく川を見下ろしていた。

冷たい風が吹き抜けた。

それは自然から吹いてきた風ではなかった。

彼自身の心の奥底から吹き上がった、冷たい風だった。

彼はそこに立っていた。

自ら破壊し尽くしたばかりの王国、その瓦礫の中に。

そして気づいた。

すべてを手に入れたはずなのに――。

自分には、本当は何一つ残されていないことに。

「……お前たちは、そこにいるのか?」

彼は小さく問いかけた。

それは、国王という存在の辞書には決して存在しなかった、あまりにも弱々しい問いだった。

しかし、返事はなかった。

ただ、川のせせらぎだけがあった。

鳥たちの鳴き声だけがあった。

そして、沈みゆく夕暮れの中にある、完全なる静寂だけが残った。

彼は勝った。

確かに勝利した。

だがその勝利は――。

これから残りの人生すべてを代償として支払わなければならない、そんな勝利だった。

冷え切った川の激流が私の身体を渦のように包み込み、広大な海原へ向かって、あてもなく私を運び去っていった。


果てしない闇と激しく打ち寄せる波の中で、私自身があらかじめ構築しておいた防護用ナノアーマー――緊急時に自動で作動する防衛機構――は、ゼンム・ジョンソンのミサイルが肉体に接触する、ほんの一瞬前に起動していた。


爆発の衝撃はなおも筋組織を引き裂き、骨や関節までもが粉々に砕け散ったかのような激痛が全身を貫いていた。


それでも装甲は衝撃エネルギーの80%を吸収することに成功し、五歳児のこの身体に、かすかな生命の炎だけは辛うじて残していた。


「ガンソン様! 生体システムより緊急警報! 現在、心拍数が毎分35拍まで低下しています! さらに、脳内における精神的損傷と絶望値が危険域――レッドゾーンに到達しています! これが細胞の自己修復能力へ直接的な悪影響を及ぼしています!」


BoyBotの不安げな声が、装甲内部の通信回線を通じて響いた。


機械的な警告音声が、私の脳内で矢継ぎ早に反響する。


「現在、我々は大河の流れに乗り、そのまま北方海域へ向かっています。


全地理データによれば、この惑星は五行を象徴する五大国家によって構成されています。


天火帝国。


氷海龍国。


ヴァン・キム帝国。


木緑青国。


そして黒土山国。


惑星全体の平均気温は常に20℃を下回っており、記録的な冬季には最低気温がマイナス55℃にまで達します。


現在、この惑星の文明レベルは第3級。


建築物は古典的な美しさを保ちながら、その内部機構にはグリーンエネルギーが用いられ、交通機関には完全磁気浮上式の移動システムが採用されています。


かつては、あらゆる種族と階級が法の下に完全に平等でした。


しかし現在、その均衡はヴァン・キム帝国によって崩壊させられました。


帝国が天火と黒土への侵攻に成功したためです。


木と水の両国にいまだ手を伸ばせていないのは、その地理的条件があまりにも険しく、さらに気候が極端に過酷だからです。


通常型の機械兵器では、到達した瞬間に凍結してしまうでしょう。


現在の漂流速度から推定すると、ガンソン様が氷海龍国の沿岸へ漂着する確率は94.7%です。


どうか意識を保ってください、ご主人様!」


私は目を閉じた。


冷たい水が皮膚を覆う金属装甲を削るように流れ続けるのを、ただ受け入れた。


そして、防護ヘルメットの内部で、かすかな声を絞り出した。


「BoyBot……全身が、何千何万もの小さな破片に溶けていくような感覚がする。


この絶望は、身体の傷から生まれたものじゃない。


父と母、ジムレイ、そしてサーシャが、俺の心に残していった血まみれの空白から生まれている。


すべてがあまりにも早く起こりすぎた。


子供の本能だけでは、この痛みを受け止めきれない。


それなのに、超越的な存在として蓄積された俺の知識だけが、絶え間なく俺の無力さを嘲笑っている。


この惑星……五行……文明レベル3……。


そんなものが、今の俺に何の意味がある?


俺を抱きしめてくれた人たちは、みんな灰になってしまったんだ。


ヴァン・キム帝国は、俺がようやく『家族』と呼び始めたものを、すべて奪っていった。


もしこの川が俺を氷海龍国へ連れて行くというのなら……もう、この流れに身を任せる。


だが、もう二度と目の前で誰かが倒れていく姿を見たくない。


BoyBot、緊急感情ロックモードを起動しろ。


予備エネルギーをすべて回して、俺の肉体的損傷の治癒を最優先にしてくれ。


俺は生きなければならない……。


たとえ今のこの生命に残されているものが、孤独の苦い味だけだったとしても」


「了解しました、ご主人様!」


BoyBotは即座に応答し、演算速度を最大まで引き上げた。


「現在、断裂した筋繊維へ生体修復液およびナノ補修剤を注入しています。


中枢神経系への負荷を最小限に抑えるため、システムはご主人様を短時間の休眠状態へ移行させます。


同時に生命維持指数を継続的に監視し、周辺のエネルギー波をスキャンします。


ヴァン・キム帝国のレーダーに捕捉されることを防ぐためです。


あの残虐な連中は、すでに黒土山国の地熱システムと、天火帝国のエネルギー鉱山を掌握しています。


その結果、この惑星の戦争情勢は極端に一方へ傾いています。


しかし、氷海龍国の冷たい海域には非常に強力な天然磁気海流が存在しています。


それらはゼンム・ジョンソンの位置測定装置を完全に撹乱できる可能性があります。


今、倒れてはいけません!


ご主人様の存在こそ、この惑星の悲劇を覆すことのできる唯一の変数なのです。


どうかお休みください。


私があなたの眠りを守る盾となります」


「お前は本気で信じているのか?


こんなボロボロの装甲をまとった五歳児に、何かを成し遂げられると?」


黒い影――私の意識の奥深くに潜むもう一つの自我――が、突然、嘲笑するように口を開いた。


その声は、深い奈落の底で鉄鎖が擦れ合うような不気味な響きを伴っていた。


「現実を見ろ!


ブロンダー家は死んだ。


クロンボン家の兄弟二人も灰になった。


そして、お前自身も魂を失った死体のように、凍てつく水の上を漂っている。


ゼンム・ジョンソンが勝ったのは、奴が冷酷だったからだ。


感情だの、弱い者への憐れみだの、そんなものに縛られていないからだ。


復讐したいのなら、この身体を俺に明け渡せ!


究極の破壊の力――三分間で多元宇宙の80%を消し去った、あの力だけが、ヴァン・キム帝国を塵へと変えられる!


もう悲惨な記憶にしがみつくな!


怒りの炎に、すべてを焼き払わせろ!」


私は意識の中で残された最後の力を振り絞り、自らのもう一つの人格へと言い返した。


「消えろ、この冷酷な影め。


俺は二度と、お前にこの身体を支配させない。


もしお前の無意識の破壊衝動を利用して復讐すれば、俺はゼンム・ジョンソンと何が違う?


俺の家族を虐殺したあの怪物たちと、何が違うんだ?


父は死ぬ前に、俺に偉大な人間になれと言った。


だが、その偉大さとは、この世界そのものを虚無へ変えることじゃない。


サーシャは俺を抱きしめてくれた。


たとえ俺がどれほど異質で、どれほど恐ろしい存在だったとしても、それでも一人の人間として愛される権利があるのだと、あの子は教えてくれた。


俺はゼンム・ジョンソンに復讐する。


ヴァン・キム帝国を叩き潰す。


だが、それは知性によってやる。


技術によってやる。


そして、この両手でやる。


お前の狂乱した残虐さによってではない。


闇の中で眠り続けろ。


お前の時代は、もう永遠に終わったんだ!」


「フン……お前の愚かな頑固さは、すぐに次に出会う者たちの血によって代償を払うことになるぞ、ガンソン」


もう一人の自我は冷笑した。


そして、その姿はゆっくりと虚無へ沈んでいった。


「お前は永遠に、自分自身の本質から逃げ続けることなどできない。


痛みが極限に達した時、結局お前は力を求めて、再びこの闇の扉を叩くことになる」


「警告!」


突然、BoyBotが緊迫した声を上げた。


「システムが、天火帝国大陸中央部から極端なエネルギー変動を検出しました!」


「このエネルギー波は、この世界に存在するいかなる科学体系にも属していません。


その本質は、数千年前に封印された古代魔術に酷似しています。


エネルギーフィールドの影響範囲が、急速に惑星全大気圏へ拡大しています!」


――同時刻。


荒れ果てたブロンダー城の廃墟にて。


惑星の真昼の空が、突如として墨汁のように濃密な漆黒の雲に覆われた。


太陽の光は完全に喰らい尽くされ、その代わりに邪悪な紫色の雷雲が、絶え間なく渦巻き始めた。


気温は急激に低下した。


凍りつくような冷気が満ち、死の静寂がその空間全体を覆い尽くす。


ゼンム・ジョンソンは、古代の封印陣の中心に立っていた。


数十年に及ぶ準備を経て、彼はついに天火帝国と黒土山国、それぞれの国家に伝わる二つの至宝を手に入れていた。


それは、魔術の鎖を破壊するために必要な最後の二つの欠片だった。


彼は両手を天へ掲げた。


老いた顔は狂喜によって歪んでいた。


「ハハハハハ!


これほど長い年月を耐え忍び、これほど多くの血と涙を流してきた!


ついに、この時が来たのだ!」


ゼンム・ジョンソンの咆哮が、轟く雷鳴の中に響き渡る。


「かつて私を嘲笑った者たちよ!


私の夢と家族を踏みにじった国家どもよ!


空を見上げるがいい!」


「この私、ゼンム・ジョンソンが、今日ここで真なる闇の神を解放する!」


「その神こそ、この腐り果てた世界の秩序を再構築する存在なのだ!」


彼は手の中でまばゆく輝きながらも、どこか不吉な暗黒の光を放つ二つの宝玉へ視線を落とした。


その声は、過去の苦痛に満ちた記憶が蘇るにつれて、次第に震え始めた。


「かつて、私も善良な人間だった……。


情熱に満ちた科学者だった。


この知性を使い、人類の発展に貢献したいと、本気で願っていた。


だが、戦争……。


天火帝国と黒土山国の間で繰り広げられた、あまりにも愚かな戦争が、私の愛するものをすべて奪い去った!


奴らは領土欲に駆られ、私の研究所を焼き払い、愛する妻と幼い我が子まで虐殺した!


私の研究は灰になった。


家族は永遠に失われた。


たった一晩で、私はすべてを失ったのだ!


だが、その喪失が私の目を開かせた。


この世界が掲げる『平等』も、『平和』も、すべて腐り果てた欺瞞にすぎないと教えてくれた。


そして、私が最も絶望していたその時――。


偉大なる御方の声が私のもとへ届いた。


すべてをやり直すための、唯一の道を示してくれたのだ!」


「最後の欠片を捧げよ。


我が忠実なる子羊よ」


地の底から、古代の声が響いた。


それは重く、低く、聞く者すべての生命を押し潰すほどの威圧感を帯びていた。


「この大地は、五人の至高の賢者と魔術師による偽りの支配によって、あまりにも長きにわたり閉じ込められてきた。


奴らは、五つの元素エネルギーによって、永遠に私を封じ込められると思っているのか?」


「門を開けよ。


そうすれば私は、かつてお前を苦しめた者たちを支配する絶対的な権力を授けよう」


「はい、偉大なる暗黒の主――ノクサール・ヴェイル様!」


ゼンム・ジョンソンは二つの宝玉を、封印陣の中心へと激しく叩きつけた。


「目覚めよ!」


「そして、生きる資格すら持たぬ者たちに滅びをもたらせ!」


――バキ……バキ……ドォォォン!


大地が巨大な亀裂を走らせた。


その裂け目は、何キロにもわたって地面を切り裂いた。


そこから黒灰色の巨大な光柱が立ち上がり、成層圏へと一直線に突き刺さった。


漆黒の雲を引き裂き、天空そのものを貫く。


開かれた虚無の門から放たれる邪悪な気配に触れた瞬間、周囲の植物は一斉に枯れ果て、瞬く間に黒い灰と化した。


草一本。


虫一匹。


その凶悪な殺気の前では、生き残ることすら許されなかった。


そして――。


地獄の門から、ゆっくりと一つの足が踏み出した。


それは、ノクサール・ヴェイル。


古代の暗黒の支配者だった。


その巨体は純粋な闇のエネルギーによって全身を覆われていた。


その両眼には血のような赤い光が灯っている。


そこに宿るのは、底知れぬ残虐性だった。


ゼンム・ジョンソンは跪いた。


両手を組み合わせ、顔いっぱいに狂信的な崇拝を浮かべる。


「おお……偉大なるノクサール・ヴェイル様!


ついにお戻りになられたのですね!


私は使命を果たしました!


あの五人の老いぼれ賢者が施した忌まわしい封印を、あなた様のために破壊したのです!


さあ、どうか約束を果たしてください!


この私とヴァン・キム帝国に、この惑星全土を支配する力をお与えください!」


ノクサール・ヴェイルは、ゆっくりとゼンム・ジョンソンへ歩み寄った。


その顔には温かな笑みなど一切浮かんでいなかった。


感謝の色もない。


次の瞬間――。


漆黒の手が凄まじい速度で伸び、ゼンム・ジョンソンの首を掴み締めた。


そして老科学者の身体を宙へと軽々と持ち上げた。


「な、何を……!


偉大なる御方……いったい何をなさっているのですか!?」


ゼンム・ジョンソンは恐慌に陥り、必死にもがいた。


その目は大きく見開かれていた。


「おやおや……ありがとうな、愚かな人間よ」


ノクサール・ヴェイルは嘲笑するように言った。


その声は、何千もの悪魔の咆哮が重なり合ったかのように不気味だった。


「まさか、本当に信じていたのか?」


「この私のような至高の存在が、お前のような弱い虫けらと契約を結び、権力を分け与えるとでも?」


「お前はただの従順な駒だ」


「自らの憎悪によって操られ、私の復活のために利用された道具にすぎない」


「お前の残虐さも」


「お前の喪失も」


「そのすべてが、この暗黒のエネルギーをさらに豊かにする、極上の糧となったのだ!」


ノクサール・ヴェイルが口を開く。


その瞬間、青白い光がゼンムの身体から一気に引きずり出された。


それは――ゼンム・ジョンソンの魂だった。


「がああああああああっ!」


ゼンムの絶叫が響き渡る。


裏切りを知った者が、最後の瞬間に放つ、魂そのものを引き裂くような絶叫だった。


彼は人生のすべてを犠牲にした。


何百万もの人々を虐殺した。


そのすべての果てに待っていたのは、あまりにも苦い結末だった。


ノクサール・ヴェイルはゼンムの魂を完全に呑み込んだ。


そして、軽く指を鳴らした。


黒い炎が一瞬で燃え上がり、ゼンム・ジョンソンの肉体を完全に焼き尽くした。


残ったのは、風に舞う微細な灰だけだった。


「悪くない燃料だ」


ノクサール・ヴェイルは独り言のように呟いた。


彼を取り巻く闇のエネルギーが、ゆっくりと脈動しながら形を変え始める。


彼は顔を上げ、空を見た。


そして、絶対的な悪の化身に相応しい戦闘衣装へと姿を変えた。


漆黒のロングコート。


その表面には血のような赤い紋様が絶えず流れ続けている。


肩には、闇の鉱石から造られた鋭い棘が隆起している。


そして顔には、灰色の半面マスク。


それが彼の悪意に満ちた表情の半分を覆い隠していた。


「私があの五人の老いぼれに封印されてから、ずいぶんと世界は変わったようだな」


「ヴァン・キム帝国?」


「黒土?」


「天火?」


「そんなもの、すべて私の闇の餌になる」


「震えるがいい、小さき生命どもよ」


「真なる滅びは――今、この瞬間から始まる!」


遠く離れた激流の中で、私のナノアーマーがかすかに振動した。


ノクサール・ヴェイルの覚醒によって放たれた魔力の衝撃波を受信したのだ。


「警告!」


BoyBotが驚愕の入り混じった声で報告した。


「ダークエネルギー源が、ブロンダー城跡地において、対象ゼンム・ジョンソンを完全に消滅させました!」


「生体スペクトル分析によれば、対象ゼンム・ジョンソンは、封印を解かれた存在によって魂を握り潰され、肉体を完全に焼却されたものと推定されます。


ご主人様にとって最大の敵は死亡しました。


しかし同時に――。


この世界には、その千倍以上に危険な脅威が出現しました。


ご主人様……私の声が聞こえていますか?」


私は凍りつくような水の底に沈んでいた。


意識は現実と夢の境界を行き来していた。


「ゼンム・ジョンソン……死んだのか?


俺の両親を殺し、ジムレイとサーシャを殺したあの男が……。


自分自身で解放した怪物の手によって、死んだのか?


運命というものは、本当に悪趣味な冗談を好むんだな。


あいつは自分がこのゲームを操る側だと思っていた。


だが結局は、自分自身が育て上げた憎悪の犠牲者にすぎなかった。


BoyBot……寒い……。


この水は、俺たちをどこへ連れていくんだ?」


「ご主人様、我々は正式に氷海龍国の領海へ入りました!」


BoyBotはそう報告すると同時に、弱い電気刺激を強め、私の心臓が鼓動を続けられるよう調整した。


「周囲の水温はマイナス10℃まで低下しています。


しかし、ご主人様の熱防護装甲は依然として正常に機能しています。


先ほどのミサイル攻撃によって損傷した筋組織は、約65%まで修復済みです。


ただし、装甲のエネルギー残量が危険域の12%まで低下しています。


氷海龍国の監視施設に発見されることなく海岸へ漂着するためには、完全潜伏モードの起動許可が必要です」


私は長く息を吐いた。


防護ガラスの前に漏れ出した白い息は、瞬く間に凍りついた。


「お前が最適だと判断したことを、すべてやれ、BoyBot。


ノクサール・ヴェイル……。


ヴァン・キム帝国……。


氷海龍国……。


この世界がどれほど崩壊しようと、どれほど姿を変えようと……。


俺は今夜を生き延びなければならない。


俺を治してくれ……。


この小さな炎が、大海の冷たさによって消されないように守ってくれ。


目を覚ましたその時――。


俺は、この惑星すべてのゲームのルールを書き換える」


「了解しました、ご主人様!


最高位防護プロトコルを起動します。


同時に、ご主人様を安全な休眠状態へ移行させます。


氷海龍国は――もう目の前です!」


装甲内部から、長い電子音が響いた。


私の心拍数が最低値まで低下する。


そして私の身体は、氷のように冷たい海の波に深く包まれながら、見知らぬ国へ向かって静かに流されていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。