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星喰らいの王  作者: のあずぅあーくぅ
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第七章 黒星の残響 33

足音は、一つではなかった。


規則正しく。


途切れることなく。


地下通路へ近づいてくる。


崩れた階段の向こう側から、幾つもの魔力反応が重なっていた。


教師。


学院騎士。


治癒術師。


そして、その中心。


他とは比べものにならないほど澄んだ魔力。


学院長エレノーラ。


レインが壁へ寄り掛かる。


「思ったより早かったな」


老人は小さく首を振る。


「封印機構が起動したからだ」


「学院中の警報術式へ繋がっている」


「管理者なら気付く」


ノアは青白い術式を見つめた。


床一面へ広がる古代文字。


崩れた壁の奥まで走る魔力回路。


まるで学院全体が巨大な魔法陣だった。


老人はその視線へ気付き、小さく笑う。


「驚いたか」


「……少し」


「この学院は学ぶためだけの場所ではない」


老人はゆっくり術式へ触れた。


青白い光が指先を包む。


「生徒たちは知らない」


「教師の大半も知らない」


「学院長だけが代々、この地下の存在を受け継いできた」


ノアは眉を寄せる。


「なのに管理人がいたことは知られてないのか」


老人は少しだけ寂しそうに笑う。


「管理人は知られてはいけない存在だからだ」


「封印は、あると知られた時点で狙われる」


その言葉へ、レインが静かに頷く。


「王国だけじゃない」


「黒星を求める連中は世界中にいる」


アークが腕を組む。


「黒星なんて危ないだけだろ」


「なんで欲しがる奴がいるんだよ」


レインは短く答えた。


「力だ」


「それだけか?」


「それだけで十分だ」


地下通路へ静かな空気が流れる。


ノアは黒星を宿してからの出来事を思い返した。


確かに危険だった。


命を落としかけたことも一度や二度ではない。


だが。


同時に、それまで勝てなかった相手へ届く力も手に入れた。


もしこの力だけを見れば。


欲しがる人間がいても不思議ではない。


レインは続ける。


「王族」


「貴族」


「教会」


「他国」


「研究者」


「犯罪組織」


「全員が同じではない」


「利用したい者」


「滅ぼしたい者」


「封印したい者」


「救いたい者」


「立場が違うだけだ」


ノアは静かに聞いていた。


世界は学院より広い。


ここで起きた出来事は、いずれ外へ漏れる。


そうなれば、自分は否応なく渦中へ放り込まれる。


ドクン。


《蓄積値:459》


ノアは数字を見る。


少しずつ減っていた蓄積値が止まっている。


黒星は静かだった。


だが眠ってはいない。


待っている。


次の選択を。


その時。


地下通路の入口から光が差し込んだ。


崩れた階段を越えて、一人の女性が姿を現す。


長い銀白色の髪。


濃紺のローブ。


黒い杖。


学院長エレノーラだった。


その後ろには十数人の教師たち。


誰もが地下の惨状を見て言葉を失っていた。


砕けた壁。


消えた天井。


刻まれた巨大な術式。


そして。


通路の中央へ立つノア。


エレノーラは何も言わず、一歩ずつ近付いてくる。


その足取りには迷いがない。


やがてノアの目の前まで来ると、右腕へ残る黒い紋様へ視線を落とした。


数秒。


長い沈黙。


周囲の教師たちも息を潜めている。


誰も学院長の言葉を待っていた。


やがてエレノーラは静かに口を開く。


「……痛むか」


予想もしなかった問いだった。


ノアは少し驚く。


「え?」


「黒星だ」


「痛むかと聞いている」


ノアは右腕を見る。


黒い紋様。


胸の奥の鼓動。


正直に答えた。


「痛いというより……」


少し考える。


言葉を探す。


「腹が減ってるみたいな感じです」


教師たちがざわついた。


エレノーラだけは表情を変えない。


「今もか」


「さっきよりは落ち着いてます」


「理由は分かるか」


ノアは仲間を見る。


アーク。


セシリア。


ルナ。


そして老人とレイン。


「……一人じゃないからだと思います」


エレノーラの瞳が僅かに揺れた。


老人はその様子を静かに見つめている。


学院長はゆっくり頷いた。


「なるほど」


その一言だけだった。


教師の一人が前へ出る。


壮年の男性教師。


魔法戦闘学の主任だった。


「学院長」


「危険です」


「その生徒は黒星を宿しています」


「直ちに拘束を──」


「却下する」


エレノーラは最後まで聞かなかった。


教師が目を見開く。


「しかし!」


「私は現場を見た」


「封印機構も見た」


「そして」


学院長はノアを見る。


「この生徒の目も見た」


地下通路が静まり返る。


エレノーラは穏やかな声で続けた。


「怪物の目ではない」


「少なくとも今は」


ノアは思わず息を止めた。


怪物ではない。


その言葉だけで、胸の奥の何かが少し軽くなる。


ドクン。


《蓄積値:458》


また一つ減った。


老人が小さく目を見開く。


レインも数字は見えないはずなのに、何かを察したようにノアを見た。


エレノーラは教師たちへ向き直る。


「この地下で見たことは最上級機密とする」


「無断で口外した者は学院法に基づき処分する」


教師たちが一斉に頭を下げた。


しかし一人だけ納得していない者がいた。


壮年の教師はノアを睨んだまま言う。


「学院長」


「本当に信用するのですか」


「もし暴走すれば」


「学院だけでは済みません」


エレノーラは静かに答える。


「だからこそ監視する」


「そして育てる」


教師は食い下がる。


「育てる?」


学院長は迷いなく言った。


「黒星を恐れて処分し続けた結果が、三百年前の災害だったのなら」


その場の全員を見回す。


「同じ過ちを繰り返す理由はない」


地下通路へ重い沈黙が流れた。


老人は目を閉じ、小さく息を吐く。


その横顔には、ほんの少しだけ安堵の色が浮かんでいた。

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