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星喰らいの王  作者: のあずぅあーくぅ
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第七章 黒星の残響 31

老人が持っていた金属板に、一本の亀裂が走った。


パキッ――。


地下通路へ乾いた音が響く。


その場にいた全員の視線が、一斉に老人の手元へ集まった。


黒ずんだ金属板。


三百年という歳月を耐え抜いてきた封印管理官の証。


その中央へ刻まれた黒い星の紋章。


そこを起点に、細い亀裂がゆっくりと広がっていく。


老人の顔色が変わった。


「……そんな」


震える指先で金属板を持ち直す。


だが、亀裂は止まらない。


パキッ。


二本目。


パキッ。


三本目。


蜘蛛の巣のように広がるひびが、黒い星を包み込んでいく。


レインが静かに目を細めた。


「封印が反応しているな」


老人は首を横へ振る。


「違う」


掠れた声。


「これは封印の反応ではない」


「なら何だ」


レインの問いへ、老人は答えなかった。


答えられなかった。


その表情は恐怖そのものだった。


ノアの胸で黒星が脈打つ。


ドクン。


《蓄積値:458》


数字が一つ増える。


同時に、視界の奥で黒い線が浮かび上がった。


金属板から伸びる一本の線。


学院の地下深くへ。


最初の門へ繋がる線。


そして。


もう一本。


新しく生まれた線が、学院の外へ真っ直ぐ伸びていた。


ノアは息を呑む。


「……見える」


老人が勢いよく顔を上げる。


「何がだ」


「線」


「黒い線が二本ある」


地下通路の空気が変わる。


レインの瞳が鋭くなる。


「二本?」


ノアは目を閉じない。


線を追う。


一本は真下。


学院最深部。


もう一本は遠く。


王都の外。


さらにその先へ。


「学院の外にも門がある」


老人の手から力が抜けた。


金属板が落ちそうになる。


「そんな……」


「あり得ない」


「最初の門以外は、全部閉じたはずだ……」


レインが静かに呟く。


「閉じた、ではなく、閉じたと思っていた……か」


老人は何も言えない。


沈黙が答えだった。


アークが頭を掻く。


「ちょっと待てよ」


「学院の下にヤバい門がある」


「外にもある」


「喰星もいる」


「向こう側の化け物まで出てきた」


「もう情報が多すぎるぞ」


ノアは苦笑しかけた。


だが笑えなかった。


黒い線が動いている。


ほんの少しずつ。


こちらへ近づいている。


ドクン。


《蓄積値:459》


黒星が反応する。


まるで。


近づいてくる何かを歓迎するように。


「……動いてる」


レインが振り向く。


「何が」


「外の線」


「近づいてる」


セシリアが眉を寄せる。


「門が移動している?」


「違う」


ノアはゆっくり首を横へ振る。


「門は動いてない」


「門を持った何かが動いてる」


その瞬間。


老人の瞳が大きく開かれた。


「門を……持つ?」


ノアもその言葉を口にした瞬間、背筋へ悪寒が走った。


門を持つ存在。


向こう側を自由に行き来できる存在。


黒星を自在に扱う存在。


脳裏へ浮かぶのは、一人しかいない。


銀色の瞳。


黒いローブ。


喰星。


レインも同じ結論へ辿り着いたらしい。


「……あいつか」


老人が震える声で言う。


「あり得ん……」


「三百年前ですら、そこまで到達した者はいなかった」


レインが小さく息を吐く。


「だから俺も驚いている」


老人はゆっくりノアを見る。


その目には驚きだけではなく、別の感情もあった。


期待。


そして、不安。


「お前は喰星と戦った」


ノアは頷く。


「少しだけ」


「少し、か」


老人は苦く笑った。


「生きているだけで奇跡だ」


ノアは喰星との戦いを思い出す。


圧倒的だった。


黒星を喰われ。


空間を削られ。


それでも。


最後、喰星は本気では殺しに来なかった。


あれは。


試していた。


ドクン。


《蓄積値:460》


黒星が脈打つ。


その時。


ノアの脳裏へ、喰星の最後の表情が浮かんだ。


『次代の黒星』


あの言葉。


ノアはゆっくり老人を見る。


「聞きたいことがある」


老人は頷いた。


「何だ」


「喰星は俺を殺せた」


地下通路へ静寂が落ちる。


「でも殺さなかった」


「なんでだ」


老人はすぐには答えなかった。


代わりにレインが口を開く。


「黒星は喰い合う」


「それはもう聞いた」


「だが」


レインはノアを真っ直ぐ見た。


「未熟な黒星は、最高の餌になる」


ノアは眉を寄せる。


「どういう意味だ」


老人が静かに続ける。


「黒星には成熟段階がある」


「幼星」


「成長星」


「喰星」


「そして……」


老人はそこで言葉を止めた。


地下通路へ冷たい風が吹き抜ける。


老人の表情が曇る。


「その先は、誰も記録を残していない」


ノアは黙って聞いている。


老人は深く息を吸った。


「喰星は、お前を育てている」


「育てて、最後に喰う」


ノアの拳がゆっくり握られる。


黒星が静かに脈打った。


ドクン。


《蓄積値:461》


数字は増えている。


だが今は。


それ以上に。


胸の奥で別の感情が大きくなっていた。


怒りだった。


喰星は、自分を獲物として見ていた。


仲間を巻き込み。


学院を壊し。


門を開きかけてまで。


全部。


自分を育てるため。


ノアは静かに目を閉じた。


そして。


小さく呟く。


「……絶対に喰われない」


その声は小さかった。


だが。


地下通路の全員が聞いていた。

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