第七章 黒星の残響 25
ドクンッ!!!
《蓄積値:400》
その瞬間。
ノアの視界が、完全に変わった。
世界の色が消える。
地下通路。
仲間。
瓦礫。
全部が黒と銀だけの輪郭へ変わっていく。
黒星が、異常なほど歓喜していた。
まるで。
“待っていた”みたいに。
『喰え』
声。
頭の奥。
黒星の深部。
『同類を』
ノアは歯を食いしばる。
「……うるせぇ」
だが、声は止まらない。
黒い穴――ミニゲートから、無数の手が這い出してくる。
ギチギチ、と。
空間を軋ませながら。
地下通路の壁へ触れた瞬間、その部分が“消えた”。
爆発じゃない。
崩壊でもない。
存在そのものが削除されている。
アークが青ざめる。
「冗談だろ……!」
セシリアが剣を握り直す。
だが、その手に僅かに震えがあった。
怖い。
本能が理解している。
あれに触れたら終わる。
喰星は静かに言った。
「黒星は門だ」
銀色の瞳。
その奥で、何かが蠢いている。
「向こう側を呼び込み、喰らい、成長する」
ドクン。
《蓄積値:402》
ノアの頭へ情報が流れ込む。
門。
黒星。
喰星。
災害。
“王”。
その断片の中で、ひとつだけ鮮明な光景があった。
黒い空。
崩壊した世界。
巨大な銀星。
そして。
山みたいに積み上がった死体。
ノアの呼吸が乱れる。
「っ……!」
喰星が、微かに笑った。
「見えているだろう?」
その瞬間。
ミニゲートから伸びた黒い手が、一斉にノアへ襲い掛かった。
轟音。
地下通路が崩れる。
ノアは反射で跳んだ。
速い。
だが。
見える。
黒星が、手の軌道を全部教えてくる。
ドクン。
《蓄積値:405》
ノアの黒腕が膨れ上がる。
黒い影が、無数の手へ噛みついた。
ギチギチギチッ!!
喰う。
侵食を。
空間を。
向こう側を。
ノアの頭へ膨大な情報が流れ込む。
痛い。
頭が焼ける。
だが。
止まれない。
喰星の銀の瞳が細まる。
「適応したか」
ノアは地面を蹴った。
真正面。
一直線。
アークが叫ぶ。
「銀目ぇぇ!!」
喰星の周囲へ黒い輪が展開される。
無数の空間刃。
だが。
ノアの視界には全部見えていた。
侵食線。
発動位置。
空間の歪み。
全部。
ノアは最小動作だけで潜り抜ける。
頬が裂ける。
肩が抉れる。
血が飛ぶ。
それでも止まらない。
喰星の目の前。
ノアの黒い瞳が、真っ直ぐ喰星を見据える。
その瞬間。
喰星が、初めて笑みを消した。
ノアの右腕。
そこへ、黒い“星”が浮かび上がっていた。
レインが目を見開く。
「……星紋」
ノア自身も知らない。
だが、分かる。
これは“次の段階”だ。
ドクンッ!!!
《蓄積値:410》
黒い星紋が、右腕全体へ広がる。
空間が軋む。
黒星が、さらに深く開く。
ノアは短剣を握り直した。
その刃へ、黒い影が絡みつく。
喰星の銀の瞳が細まる。
「……なるほど」
次の瞬間。
ノアが消えた。
轟音。
地下通路の床が弾け飛ぶ。
アークですら、もう目で追えない。
黒い残像だけが走る。
喰星の目前。
ノアの短剣が振り下ろされる。
ギィィィィンッ!!!
衝突。
空間が悲鳴を上げた。
喰星の障壁へ、ヒビが入る。
レインの顔色が変わる。
「空間障壁を……割った?」
喰星の銀の瞳が、僅かに揺れる。
ノアは笑った。
黒い瞳のまま。
「……届いた」
その瞬間。
喰星の表情が、初めて変わった。
歓喜。
まるで長く探していた獲物を見つけたみたいに。
「素晴らしい」
地下通路のミニゲートが、一気に広がった。
黒い空間が裂ける。
その奥。
巨大な“目”が、ゆっくり開いた。




