第七章 黒星の残響 24
喰星の銀の瞳が、僅かに細まる。
ノアの黒腕が、喰星の腕へ深く食い込んでいた。
ギチギチ、と。
骨でも砕くみたいな音。
黒い侵食線が、喰星の腕からノアへ流れ込む。
ドクンッ!!
《蓄積値:385》
ノアの頭へ膨大な情報が叩き込まれた。
黒い世界。
巨大な門。
崩壊した都市。
そして。
“喰い合う黒星”。
「っ……!!」
ノアが血を吐く。
情報量が異常すぎる。
だが。
黒星は歓喜していた。
喰っている。
同種を。
より強い“黒星”を。
喰星が、初めてノアを力任せに振り払った。
轟音。
ノアの身体が壁へ叩きつけられる。
地下通路へ巨大な亀裂が走った。
アークが顔を歪める。
「おいマジで死ぬぞあれ……!」
セシリアも焦っていた。
戦闘に入れない。
速すぎる。
威力が高すぎる。
今の二人の戦いへ割り込めば、一瞬で消し飛ぶ。
レインだけが、鋭い目で状況を見ていた。
「……マズいな」
ルナが震える声で聞く。
「ど、どうなってるんですか……」
レインは短く答えた。
「喰星が、ノアを“育てている”」
空気が凍る。
アークが振り返る。
「は?」
「黒星同士は、喰い合うほど進化する」
レインの赤い瞳が険しくなる。
「だが、格上は格下を一方的に潰さない」
「……なんでだよ」
「育てた方が、美味いからだ」
地下通路へ沈黙が落ちた。
狂ってる。
本当に。
黒星という存在そのものが。
ドクン。
《蓄積値:390》
ノアが瓦礫の中から立ち上がる。
額から血が流れていた。
右目の黒い瞳。
その奥の銀星が、さっきより強く輝いている。
喰星が静かに笑った。
「順応が速い」
ノアは血を拭う。
「……うるせぇ」
だが。
否定しきれなかった。
身体が、戦いへ適応している。
喰星の動き。
侵食。
空間干渉。
見える。
理解できる。
黒星が勝手に学習している。
ドクン。
《蓄積値:395》
地下通路の侵食残滓が、一斉にノアへ吸い寄せられた。
アークが顔を引きつらせる。
「まだ喰うのかよ……!」
黒い影がノアの周囲を渦巻く。
空気が歪む。
空間が軋む。
ノア自身、気づいていた。
限界が近い。
身体が黒星へ引っ張られている。
理性が薄い。
飢えが強い。
なのに。
妙に頭は冴えていた。
喰星をどう殺すか。
そればかり考えている。
その時だった。
喰星の周囲へ、巨大な黒い輪が浮かぶ。
今までより遥かに大きい。
地下通路の壁が悲鳴を上げた。
レインの顔色が変わる。
「全員離れろ!!」
次の瞬間。
黒い輪の中心が、“開いた”。
ゾワッ――。
悪寒。
そこにあったのは、空間の穴だった。
真っ黒な穴。
光すら吸い込む闇。
ルナが息を呑む。
「な、に……」
レインが低く呟く。
「ミニゲート……!」
その瞬間。
穴の奥から、“手”が伸びた。
黒い。
長い指。
裂け目から出てきたあの手と同じ。
だが。
今度は一つじゃない。
無数。
地下通路の空気が凍る。
アークが叫ぶ。
「おい待て待て待て!? またアレかよ!!」
黒い手が、一斉に這い出してくる。
ギチギチ、と。
空間を軋ませながら。
喰星は静かにノアを見ていた。
「見せてやる」
銀色の瞳。
深い闇。
「黒星の、本当の使い方を」
ドクンッ!!!
《蓄積値:400》
その瞬間。
ノアの黒星が、爆発するみたいに脈打った。




