第七章 黒星の残響 23
地下通路が、黒く染まっていく。
壁。
床。
天井。
全部へ侵食みたいな黒が広がっていった。
まるで空間そのものが喰われているみたいだった。
アークが顔を引きつらせる。
「おい……これ地下崩れるとかの話じゃねぇぞ……!」
セシリアも剣を握り直す。
だが、その手に汗が滲んでいた。
強い。
目の前の喰星は、今までとは次元が違う。
“災害”。
そう呼ぶしかない。
ドクン。
《蓄積値:365》
ノアの黒星が脈打つ。
視界が変わる。
世界の輪郭が曖昧になる。
侵食。
魔力。
空間。
全部が“食べ物”みたいに見え始めていた。
「っ……」
ノアが頭を押さえる。
危険だ。
このまま喰星と戦い続ければ、黒星はもっと進む。
本能が理解している。
その先へ行ったら、戻れない。
だが。
喰星は静かに笑った。
「どうした」
銀色の瞳。
底の見えない暗い光。
「飢えているだろう」
その言葉。
黒星が歓喜する。
ドクンッ!!
《蓄積値:370》
ノアの黒腕が膨れ上がる。
地下通路へ黒い影が溢れた。
アークが叫ぶ。
「銀目!!」
だが、ノアは止まらない。
止められない。
喰星の存在そのものが、“餌”として見えていた。
膨大な侵食。
黒星。
情報。
力。
全部。
喰いたい。
その衝動が、理性を削っていく。
レインが低く呟く。
「共鳴し始めている……」
ルナが震える声を出す。
「共鳴……?」
「あいつらは同種だ」
レインの赤い瞳が険しくなる。
「黒星同士は互いを喰らい、成長する」
地下通路の空気が凍る。
アークが顔を歪めた。
「はぁ!? 共食いってことかよ!」
「黒星はそういう存在だ」
その瞬間。
喰星が動いた。
黒い輪が一斉に開く。
無数の黒槍。
だが、さっきとは違う。
一本一本へ、空間削除の力が混ざっている。
ノアの目が見開かれる。
レインと同じ。
いや。
もっと危険だ。
「避けろ!!」
レインの怒声。
轟音。
黒槍が放たれる。
地下通路そのものが消し飛んだ。
壁が抉れ、床が消え、空間が歪む。
アークが盾を構える。
セシリアがルナを抱えて跳ぶ。
レインが空間障壁を重ねる。
だが。
ノアだけは前へ出た。
ドクンッ!!
《蓄積値:375》
視界が極限まで加速する。
見える。
槍の軌道。
空間の歪み。
侵食線。
全部。
ノアの黒腕が、黒槍へ噛みついた。
ギチギチギチッ!!
喰う。
侵食を。
空間を。
情報を。
黒槍が、ノアの腕へ吸い込まれていく。
喰星の銀の瞳が、僅かに細まる。
「……もうそこまで使えるか」
ノアは地面を蹴った。
速い。
今までよりさらに。
地下通路へ黒い残像が走る。
喰星の懐へ飛び込む。
短剣が閃く。
ザンッ!!
喰星の脇腹が裂けた。
黒い粒子が飛び散る。
だが。
喰星は笑っていた。
「良い」
その瞬間。
喰星の手が、ノアの顔を掴んだ。
「っ――!?」
轟音。
ノアの身体が床へ叩きつけられる。
石床が陥没した。
アークが叫ぶ。
「銀目!!」
だが。
喰星は止まらない。
ノアを掴んだまま、地下通路を引きずる。
壁が砕ける。
血が飛ぶ。
ノアの意識が揺れる。
ドクン。
《蓄積値:380》
黒星が脈打つ。
怒り。
飢え。
歓喜。
全部が混ざる。
喰星が、ノアを見下ろした。
銀色の瞳。
そこへ初めて、明確な感情が浮かんでいた。
期待。
「お前はまだ喰える」
ノアの黒い瞳が細まる。
次の瞬間。
ノアの黒腕が、喰星の腕へ食らいついた。
ギチィッ!!
喰星の表情が初めて歪む。
「ほう……!」
ノアが笑った。
黒い瞳のまま。
「お前も……美味そうだ」




