第七章 黒星の残響 22
圧倒的な殺意。
それだけで、地下通路の空気が沈んだ。
アークの身体が強張る。
セシリアの剣先が震える。
ルナは息すら止めていた。
“喰う価値がある”。
その言葉は冗談じゃない。
目の前の存在は、本気でノアを喰うつもりだ。
ドクン。
《蓄積値:348》
ノアの黒星が脈打つ。
歓喜。
恐怖。
興奮。
全部が混ざっていた。
頭の奥で、黒星が囁く。
『喰え』
「黙れ……」
ノアが低く唸る。
だが、その瞬間。
喰星が消えた。
速い。
認識できない。
ノアの黒星が警告を鳴らす。
ドクンッ!!
《蓄積値:350》
危険。
右。
ノアは反射で黒腕を振る。
ギィィィンッ!!!
衝撃。
空間が軋む。
ノアの身体が後ろへ滑る。
だが、止めた。
喰星の黒い爪と、ノアの黒腕が激突していた。
火花みたいに黒い粒子が散る。
アークが目を見開く。
「見えねぇ……!」
レインの顔も険しい。
「成長している……戦闘中に」
ノア自身も分かっていた。
喰星の動き。
最初は見えなかった。
だが今は、“少しだけ”見える。
黒星が情報を喰っている。
相手の動き。
力。
概念。
全部。
ドクン。
《蓄積値:353》
ノアの口元が歪む。
「……見えてきた」
喰星の銀の瞳が細まる。
「学習速度が異常だな」
次の瞬間。
喰星の周囲へ、黒い輪が浮かんだ。
空間が歪む。
ノアの背筋へ悪寒。
「下がれ!!」
レインの怒声。
同時に。
黒い輪が、一斉に開いた。
そこから無数の黒槍が放たれる。
轟音。
地下通路が砕ける。
アークが盾を構える。
セシリアがルナを抱えて跳ぶ。
レインが空間障壁を展開。
だが。
ノアだけは前へ出た。
ドクンッ!!
《蓄積値:356》
視界が加速する。
槍の軌道。
侵食線。
全部見える。
ノアの黒腕が動いた。
ギチギチギチッ!!
黒槍を掴む。
喰う。
侵食を。
情報を。
そのままノアは地面を蹴った。
一直線。
喰星へ。
アークが叫ぶ。
「銀目ぇぇ!!」
喰星の銀の瞳が、僅かに見開かれる。
ノアは止まらない。
最短距離。
最小動作。
第九区で叩き込まれた、“殺されない動き”。
喰星の爪が振り下ろされる。
ノアは半歩ズレる。
紙一重。
頬が裂ける。
血が飛ぶ。
だが。
その瞬間。
ノアの短剣が、喰星の肩を掠めた。
ザシュッ――。
地下通路が静まる。
喰星が、自分の肩を見る。
切れている。
僅かに。
ほんの浅く。
だが。
確かに傷が入っていた。
レインの赤い瞳が見開かれる。
「……傷をつけた?」
アークも絶句している。
喰星自身ですら、一瞬だけ止まった。
そして。
銀の瞳が、ゆっくりノアを見る。
次の瞬間。
喰星が、初めて笑った。
「素晴らしい」
ゾワッ――。
空気が変わる。
地下通路の侵食線が、一斉に喰星へ集まり始めた。
ノアの黒星が激しく脈打つ。
ドクンッ!!
《蓄積値:360》
喰星の周囲へ、巨大な黒い輪が浮かぶ。
地下通路の壁が崩れ始めた。
レインが顔を変える。
「まずい……!」
「何がだ!?」
アークが怒鳴る。
レインは喰星を睨みながら答えた。
「あいつ、本気で喰う気だ」
その瞬間。
喰星の銀の瞳が、完全にノアだけを捉えた。
「来い、次代の黒星」
地下通路全体が、黒へ染まり始めた。




