第七章 黒星の残響 21
地下通路の空気が、凍りついた。
誰も動けない。
ただ、その銀色の瞳だけが異様だった。
深い。
暗い。
吸い込まれそうになる。
ノアの黒星が狂ったみたいに脈打つ。
ドクンッ!!
《蓄積値:335》
頭が痛い。
情報が流れ込む。
“同類”。
“黒星”。
“継承”。
意味の分からない単語が、脳へ直接叩き込まれてくる。
ノアは歯を食いしばった。
「……誰だ、お前」
人影は答えない。
ただ静かにノアを見ている。
その視線だけで、地下通路の侵食線が震えていた。
まるで怯えているみたいに。
レインが前へ出る。
赤い瞳が鋭く細まる。
「まだ生き残りがいたとはな」
人影が、ゆっくりレインを見る。
その瞬間。
地下通路の空気が軋んだ。
「監視者か」
低い声。
感情が薄い。
まるで人形みたいだった。
アークが小さく呟く。
「……誰と誰が会話してんだよ」
セシリアも緊張したまま剣を構えている。
ルナは完全に固まっていた。
ノアだけが分かる。
この人影。
危険とか、そういう次元じゃない。
“向こう側”に近い。
ドクン。
《蓄積値:338》
黒星が歓喜していた。
まるで再会を喜んでいるみたいに。
人影の銀の瞳が、ノアの右腕を見る。
黒腕。
蠢く影。
第二位階。
そして。
人影は、初めて微かに笑った。
「そこまで育ったか」
ゾワッ――。
ノアの背筋へ悪寒が走る。
“育った”。
その言葉が、妙に引っかかった。
まるで。
黒星が生き物みたいな言い方だった。
レインが低く言う。
「下がれ、黒星持ち」
ノアが眉を寄せる。
「は?」
「今のお前じゃ勝てん」
その瞬間。
人影が消えた。
「っ!?」
誰も反応できなかった。
速いとかじゃない。
“認識から消えた”。
次の瞬間。
ノアの目の前。
銀色の瞳。
至近距離。
ゾッ――!!
ノアは反射で黒腕を振る。
ギィィィンッ!!!
衝撃。
地下通路が揺れる。
だが。
止められた。
人影は片手で、ノアの黒腕を掴んでいた。
アークが目を見開く。
「はぁ!?」
セシリアの顔色も変わる。
ありえない。
あの黒腕を、素手で。
人影はノアを見つめたまま呟く。
「未熟」
その瞬間。
ノアの身体が吹き飛んだ。
轟音。
壁へ叩きつけられる。
地下通路が砕けた。
「がっ……!」
血が飛ぶ。
だが。
ノアはすぐ立ち上がった。
黒星が歓喜している。
強い敵。
同類。
喰いたい。
ドクン。
《蓄積値:340》
黒い影が一気に広がる。
地下通路の壁を侵食しながら、人影へ襲い掛かった。
だが。
人影は動かない。
銀色の瞳が、ゆっくり黒い影を見る。
その瞬間。
黒い影が“消えた”。
ノアの目が見開かれる。
「っ……!」
喰われた。
逆に。
人影が静かに言う。
「第二位階程度では、まだ届かない」
レインが舌打ちした。
「やはり“喰星”か……!」
ノアの頭へ、その単語が流れ込む。
喰星。
黒星。
王。
災害。
断片的な情報。
そして。
目の前の存在。
ドクンッ!!
《蓄積値:345》
頭痛。
ノアの視界が歪む。
その瞬間。
人影の銀の瞳が、微かに細められた。
「……なるほど」
地下通路の空気が変わる。
人影の視線が、ノアの胸元へ向く。
黒星。
そこを見ている。
次の瞬間。
人影が、初めて感情を滲ませた。
驚き。
「“核”があるのか」
レインの顔色が変わる。
「……何?」
ノアも眉を寄せる。
核?
人影は数秒、ノアを見つめる。
そして。
小さく笑った。
「面白い」
ゾワッ――。
嫌な予感。
次の瞬間。
人影の周囲へ、黒い空間が広がった。
地下通路そのものが軋む。
アークが叫ぶ。
「おい待て待て待て! なんかヤバ――」
遅い。
人影の銀の瞳が、ノアを捉える。
「なら、お前は喰う価値がある」
その瞬間。
地下通路全体へ、圧倒的な殺意が落ちた。




