↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星喰らいの王  作者: のあずぅあーくぅ
31/54

第七章 黒星の残響 19

「……腹、減った」


その声は静かだった。


だが。


地下通路の全員が、本能的に理解してしまった。


“今のノアは危険だ”と。


ドクン。


《蓄積値:301》


黒星が脈打つ。


ノアの右目。


黒い瞳の奥で、銀色の星がゆっくり回転していた。


地下通路の侵食残滓が、ザワザワと震え始める。


まるで怯えているみたいに。


レインの赤い瞳が細まる。


「意識はどこまで残ってる」


ノアは答えない。


代わりに、ゆっくり周囲を見回した。


視界が違う。


世界の見え方そのものが変わっている。


空気。


魔力。


侵食。


全部が“流れ”として見える。


アークたちの身体の中を流れる魔力すら見えた。


ドクン。


《蓄積値:303》


その瞬間。


ノアの喉が鳴る。


“美味そう”。


脳裏へ、そんな感覚が浮かんだ。


ノアの表情が歪む。


違う。


違う違う違う。


「っ……!」


頭を押さえる。


だが、黒星は止まらない。


『喰え』


声。


黒星の奥。


『飢えている』


「黙れ……!」


黒い影が揺れる。


地下通路の壁へ侵食みたいに広がった。


アークが一歩前へ出る。


「銀目」


ノアの黒い瞳が向く。


ゾワッ――。


殺気。


ただ視線を向けられただけなのに、全身が粟立つ。


だが、アークは退かなかった。


「戻ってこい」


短い言葉。


単純な言葉。


だが、その瞬間。


ノアの瞳が僅かに揺れる。


銀色が戻りかける。


レインが目を細めた。


「……まだ残ってるか」


だが。


ドクンッ!!!


《蓄積値:305》


黒星が脈打った瞬間、ノアの顔が苦痛に歪んだ。


頭へ情報が流れ込む。


黒い世界。


巨大な星。


銀の瞳。


そして。


“喰われる記憶”。


ノアは膝をつく。


「がっ……ぁ……!!」


苦しい。


頭が壊れそうだ。


情報量が多すぎる。


その時。


ルナが、震えながら前へ出た。


「ノアさん」


アークが叫ぶ。


「おいルナ!」


だが、ルナは止まらない。


怖い。


本当は震えるほど怖い。


今のノアは、完全に別物だ。


それでも。


ルナはノアの前まで歩いた。


ノアの黒い瞳が向く。


レインが低く言う。


「近づくな。今のそいつは――」


「違います」


ルナが遮る。


その声は震えていた。


でも、真っ直ぐだった。


「ノアさんは、そんな人じゃない」


ノアの呼吸が止まる。


黒星が脈打つ。


ドクン。


《蓄積値:306》


『喰え』


声。


『飢えている』


ノアの右腕が、ゆっくりルナへ伸びる。


アークが歯を食いしばる。


セシリアも剣へ手をかける。


だが。


ルナは逃げなかった。


ノアを見ている。


真っ直ぐ。


恐怖を押し殺して。


その瞬間だった。


ノアの脳裏へ、別の記憶が流れ込んだ。


雨。


薄暗い路地。


第九区。


幼い頃。


飢えて倒れていた自分へ、パンを投げてくれた少女。


名前も知らない。


顔も曖昧。


でも。


“優しかった”。


黒星が、僅かに揺らぐ。


ドクン。


《蓄積値:307》


ノアの黒い瞳へ、銀色が戻る。


右腕が止まった。


ルナが、小さく息を呑む。


「……ノアさん」


ノアの口が動く。


「……逃げろ」


声が掠れていた。


黒星を押さえ込んでいる。


だが、限界だ。


ノア自身が一番分かっていた。


このままだと、本当に喰う。


理性ごと。


全部。


レインが静かに言う。


「今ならまだ封じられる」


ノアが顔を上げる。


「……方法は」


「黒星を強制的に眠らせる」


「できるのか」


レインは数秒黙った。


そして。


「成功率は低い」


アークが顔をしかめる。


「おい待て、それ失敗したらどうなる」


レインの赤い瞳が、真っ直ぐノアを見る。


「完全侵食だ」


地下通路の空気が凍った。


ルナの顔が青ざめる。


セシリアも黙る。


だが。


ノアだけは、不思議と冷静だった。


ドクン。


《蓄積値:308》


もう時間がない。


黒星は今も成長している。


侵食を喰い。


情報を喰い。


どんどん強くなっている。


ノアはゆっくり立ち上がった。


黒い影が揺れる。


右目の銀星が、静かに輝いていた。


そして。


ノアは、小さく笑った。


「……やるしかないだろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。